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【お薦めの一冊】 知らず知らずのうちに無駄使いしていませんか? / 「予想通りに不合理」 ダン・アリエリー

今まで多くの本を読んできました 。

その中には、私の人生に良い影響を与えてくれた本が沢山あります。

そんな本の感想を書き留めておくことで、私自身の備忘のためにも、また、これを読んで下さった方の本選びにも、少しでもお役に立てればと思っています。

1.私たちの行動は本当に「合理的」なのか

(1)伝統的な経済学における考え方

私たちは、あらゆる意思決定の場面において、冷静に損得を考え、合理的に判断を行なっているはずです。

誰もが自分にとって得になる行動を行うはずで、あえて不合理な行動を取ることはないはずです。

例えば、目の前に、全く同じペンが100円と150円で売っていれば、間違いなく100円のペンを選ぶはずです。

いわゆる伝統的な経済学においても、私たち人間は以下の通り合理的に行動すると捉えられていました。

人間は、非常に合理的で、完全な情報と計算能力を持っていて、常に自分の満足度を最大にするように行動する。

(2)効率的市場仮説

そして、このような考え方に基づけば、株式市場における株価も、常に合理的な価格に落ち着くのであり、市場を出し抜いて利益をあげることは不可能です。

このような考え方は「効率的市場仮説」と呼ばれています。

つまり、「株式市場には何万人という人たちが参加しており、合理的で計算能力のある数万もの人が、ある株式について情報を集め、入念かつ客観的に評価したら、その資産の価格は本質的価値から大幅に乖離するわけがない」ため、株式市場で皆を出し抜いて一人だけ利益を上げることは不可能になります。

この点については、以下の書籍で詳しく説明していますのでご参照下さい。

2.しかし、実際は「予想通りに不合理」に行動する

しかし、私たちの実際の行動には、とても合理的とは言えないものが多く見られるのです。

つまり、私たちが下す決断は、実際には、従来の経済理論が仮定するほど合理的ではなく、はるかに不合理だったのです。

そして、そのような不合理な決断・行動を行う場面は、デタラメでも無分別でもなく、規則性があり、ある特定の場面に決まって登場しています。

つまり、特定の場面で同じような不合理な決断・行動を繰り返しているのです。

このように、私たちの行動には、以下のような特徴があったのです。

(1)人間は時に不合理な行動を取る。
(2)ただし、どのような場合に不合理な行動を取るかも予想できる。

3.そのような「不合理な行動」を行う場面とは

本書では、多くのユニークな実験に基づき、実際に私たちが不合理な行動を取る場面を教えてくれます。

以下に本書の各章の題名を挙げていますが、それぞれの章において、私たちがいかなる場面で不合理な行動を取っているのかを、実際の実験を示して紹介しています。

1章 相対性の真相
2章 需要と供給の誤謬
3章 ゼロコストのコスト
4章 社会規範のコスト
5章 無料のクッキーの力
6章 性的興奮の影響
7章 先延ばしの問題と自制心
8章 高価な所有意識
9章 扉をあけておく
10章 予測の効果
11章 価格の力
12章 不信の輪
13章・14章 わたしたちの品性について
15章 ビールと無料のランチ

いずれの章も独立した話になっていますので、興味のある章から読むことができ、また、文体も非常に読みやすいものになっていますので、手軽に読み進めることができます。

以下では、私たちの資産形成に役立つものとして、支出に関する不合理な行動をピックアップして紹介します。

4.相対性の原則

私たちは、物事を判断する際に、常に何かと比べて相対的に判断する傾向があります。

価格の割安感や割高感についても、その割引の絶対額ではなく、相対的な判断を下しています。

本書には、とても分かりやすい例示がありますので、以下の事例を考えてみて下さい

以下のそれぞれの場面において、特別セールを行なっているお店まで改めて買いに行くでしょうか。(本書第1章より)

(1)2,500円の万年筆を買おうと思ったら、15分歩いた先にあるお店で特別セールをやっており、同じ万年筆が1,800円で買えることが分かった。

(2)45,000円のスーツを買おうと思ったら、15分歩いた先にあるお店で特別セールをやっており、同じスーツが44,300円で買えることが分かった。

どちらも同じ700円の値引きですが、私たちは、元の値段からの割安感で相対的に判断するため、(1)においては15分かけて別のお店に買いに行こうと思う人が多いですが、(2)においては別の店にわざわざ行かない人が多くなります。

私たちが合理的に判断するのであれば、どちらも同じ700円の値引きである以上、(1)と(2)のいずれにおいても同じ結論になるはずです。

しかし、実際には、異なった行動を取ってしまうのです。

そして、このような行動は、私たちの日常生活においても良く見られる傾向です。

例えば、スーパーでの買い物では、毎日数十円・数百円のセール商品を追い求めますが、高額商品の購入となると、数十円・数百円の追加支出など気にも止めなくなってしまいます。

本書でも述べられていますが、5万円の本革のソファーを買うことにはためらうにもかかわらず、200万円の新車を買う際には、10万円の本革シートのオプションを簡単に選んでしまうのです。

私たちの行動におけるこの「相対性の原則」は、支出管理において常に意識する必要がある重要な点です。

そうしないと、私たちは、せっかく日々の生活において数百円の節約を積み上げてきたにもかかわらず、大きな買い物の際に、それを帳消しにしてしまう無駄使いをしてしまう恐れがあるのです。

5.無料のコスト

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私たちの誰もが「無料」は大好きであり、「無料」が嫌いな方はほとんどいないはずです。

無料」という言葉があると、自分が本当に求めていないものでも飛びついてしまいます。

こうして、私たちは、「無料」のせいで、合理的な判断が妨げられてしまうのです。

例えば、通販で「〇〇円以上は送料無料」というサービスがあれば、何とか送料を無料にするために、直ちに必要とは言えない物までも追加で買ってしまったことは、多くの方に経験があるのではないかと思います。

さらに、面白い事例が本書では挙げられています。

例えば、以下のうち、いずれか一つを選ぶとすれば、どちらを選ぶでしょうか。

(1)100円の定価を50円に値下げしたチョコ
(2)50円の定価を無料にしたチョコ

経済的な利得で考えれば、(1)も(2)も50円の得であり、どちらも同じです。

しかし、実際の実験では、(2)を選んだ人が圧倒的に多かったのです。

この事例では、どちらを選んでも損得は同じでしたが、では以下の事例ではどうでしょうか。

(1)2,000円のamazonギフト券を800円で買う
(2)1,000円のamazonギフト券を無料で貰う

経済的な利得を合理的に考えれば、(1)は1,200円の得に対して、(2)は1,000円の得であるため、(1)を選ぶはずです。

しかし、実際に実験では、「無料」の魅力により、(2)を選んだ人が多かったのです。

amazonを一切利用しない人であれば別ですが、amazonで買い物をする人であれば、2,000円のamazonギフト券はほぼ現金と同価値です。

それにもかかわらず、私たちは、(1)の1,200円の利得を捨てて、(2)の1,000円の利得を選んでしますのです。

このように「無料」は私たちの合理的な判断を狂わす力を持っているのです。

そのため、日常生活においても、「無料」という言葉があれば、それにつられて私たちの合理的な判断が狂わされている恐れがある点を注意する必要があります。

6.所有効果

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私たちは、物を一度手にしたら、その物に惚れ込んでしまい、その物を過大に評価し、手放したくなくなってしまうことがあります。

例えば、あなたの所有している自動車を売る場合、買取業者から提示される価格は、想像していた売却価格より低いことが一般的です。

また、同様にマンションや不動産を売却する場合も同様です。

あなたにとっては気にならない傷や汚れでも、当然、他の人にとっては評価を下げるポイントです。

そして何より、あなたが使用していたという事実は、あなたにとっては何らマイナスではなく、むしろ思い出が詰まった自動車や不動産となり評価を上げることになりますが、買い手にとっては、単なる中古であるという意味しかなく、その物の評価を下げることになります。

このように、所有者のその物に対する評価は、他の人に比べて過大になる傾向があります。

この「所有効果」により、私たちは不合理な行動を取ることがあります。

例えば、ネットオークションにおいては、一度でも商品に入札してしまうと、落札前から既にその商品を所有した自分をイメージしてしまい、所有意識が生じてきます。

その結果、その商品を過大に評価し始め、誰かがより高い価格で入札すると、当初の予定していた金額を超えてでも入札してしまう傾向があります。

同様に、「30日間返品保証」といったサービスにも注意が必要です。

「気に入らなければ返品すれば良い」という気軽な気持ちで購入しても、実際に一度商品を所有してしまうと、この所有効果により、もはやその商品を手放せなくなってしまうのです。

そして、究極的には、この所有効果は私たち生活スタイル全般にも影響します。

つまり、一度手に入れた豪華な生活スタイルを手放すことは難しいのです。

一度、高級車に乗り、高価なマンションに住むと、所得が下がり始めても、元の生活には戻れないのです。

一度生活の質を上げてしまうと、元の生活に戻れなくなるのは、このような所有効果から説明できるのです。

7.予測の効果

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プラセボ効果」という言葉は聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれません。

具体的には、プラセボ効果とは以下のようなものです。

【プラセボ効果】

効き目のある成分が何も入っていない偽薬(プラセボ)を患者に投与しても、それが効果のある薬であると患者に伝えると、患者自身は、自分が飲んでいる薬は効き目があると思い込むことで、病気の症状が改善すること。

このような効果は、薬だけでなく、私たちの日常生活の様々な場面で登場します。

例えば、レストランで、トマトとチーズの入ったサラダを食べたとします。

その際、その料理名が以下のいずれの場合の方が美味しく感じるでしょうか。

(1)トマトとチーズのサラダ
(2)新鮮なローマ・チェリートマトとシャキシャキ野菜に、シェーブルチーズを添えたサラダ

おそらく多くの方が、(2)の方が美味しく感じるはずです。

実際は同じ内容のサラダでも、料理名から何となく美味しそうと思うだけで、実際に感じる美味しさも異なってくるのです。

実際、上記の2つのサラダがあれば、(2)のサラダを注文する方が多いはずです。

また、この効果は、価格によっても影響します。

以下の2つの偽薬のうち、効果が高かったのはどちらでしょうか。

(1)1錠300円の薬と言われて渡された場合
(2)1錠10円の薬と言われて渡された場合

結果は、おそらく皆さんの予想通り、(1)の場合の方が効果が高かったのです。

つまり、同じ偽薬でも、価格が高いと言われた薬の方が、効果も高いと感じてしまうのです。

そして、逆に見れば、価格が安いと言われた薬は、効果が薄れてしまうのです。

このことは、私たちの日常生活でも見られます、

例えば、風邪をひいて薬局に行けば、多くの風邪薬があります。

しかし私たちは、その内容成分を見ても優劣の判断がつけられないため、どうしても価格の高い方が効果が高いと感じてしまいます。

しかし、実際には、500円の風邪薬も2,000円の風邪薬も効果にほとんど違いはないかもしれません。

このように、私たちは、無意識のうちに、その名前や価格などから物事の品質や効果を判断してしまいます。

そのため、このような傾向を理解していないと、知らず知らずのうちに、同程度の品質・効果の商品にもかかわらず、無駄に高い支出をしている可能性があるのです。

8.自分の不合理さを知ることで、支出の削減や無駄な出費を抑えることができる

上記は、本書で紹介された事例のほんの一部を取り上げたに過ぎませんが、それでも、私たちの日常生活で行なっている行動において、不合理なものが多くあると感じたはずです。

本書を読めば、私たちはいかなる場面でどのような不合理な行動をとるクセがあるかが分かります。

このような私たちの意思決定・行動の傾向を理解していれば、そのような場面において、もっと慎重になって判断をする努力もできるようになります。

例えば、大きな買い物をする時ほど、割引率ではなく絶対額で考える必要があります。

また、それに付随するオプションサービスなども、絶対額で考える必要があります。

既に述べた通り、スーパーの買い物などで一生懸命に数百円を節約しても、新車の購入時などには数万円のオプションを簡単に付けてしまうのです。

また、私たちは、一度所有してしまうと、その物を過大に評価するとともに、手放すことが出来なくなってしまいます。

例えば、「返品無料」といった謳い文句で安易に買い物をしてしまうと、少しイメージと違った商品でも、所有することで何となく気に入ってしまうことがあります。

そして、一度上げてしまった生活水準を手放すことも、実際には難しいのです。

このような考え方を知ることは、私たちの生活における支出の削減に大いに役立ちます。

逆に、このような行動を取ってしまうことを知らなければ、私たちは知らず知らずのうちに、とんでもない無駄遣いをしている可能性があるのです。

9.資産運用に役立つヒントも多くある一冊

本書は、このような支出の削減に役立つヒントだけでなく、資産運用に役立つヒントも多くあります。

例えば、第2章で紹介されている「アンカリング」という理論は、私たちが株式を購入する際に、自分の購入価格を基準にしてあらゆることを判断してしまうという不合理につながります。

そのほかにも人生において役立つ話が多く、読んで損のない一冊です。

本日も最後まで読んで頂きありがとうございました。

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