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忘れたくない、大事なこと。後編 一般社団法人 ティシュー 代表 田島 大資さん

動画を制作しました。よろしければご覧ください。


ゼロから創造的なものを作りたい、という自身の気持ちに気付き、様々な経験を積んできた田島さん。現在の、まちづくりを始めとしたイノベーションに関わる企画・プロデュースのお仕事について、さらにお話を聞いてみました。

前編はこちら

抽象的な概念を、どう伝えていくか。

──現在は具体的にどのようなお仕事をされているのですか。

 まちづくりをはじめとした、創造的な場所の構築を仕事にしています。そこには、日常的に歴史の勉強をしていることが活かされています。例えば、人類の歴史の中だとこの活動は、この時代のこの出来事に位置付けられるな、と俯瞰して捉えることができます。つまり、こういう視点で切り口を作れば面白いことができるのではないかと考えることができる。それらを企画書にして、各所に合意形成を図ります。

──企画の視点、切り口を考えるのも大変だと思いますが、様々な立場の方に合意形成を図ることは、とても難しいことなのではないでしょうか。

 とあるプロジェクトの際、デベロッパー12社を相手に合意形成を図っていたことがあって…。壮々たる企業が並んでいましたね。12社全てが納得しないと前に進まないので、一社一社と丁寧にコミュニケーションして、細かい要望を実現しつつも、その地域のためになることはブレないよう一本筋を通すようにして進めら必要がありました。当然ながら私一人で行ったわけではありません。多くの関係者の熱量でかたちになっていきました。

 僕が携わってきた都市開発では、その土地の地域性や歴史背景をリサーチすることに多くの時間を割きます。リサーチで得られるのは定量的には測れないようなものばかり。それを本当にそれでいいんだと誰もが納得する形にすることが必要なのです。そのためには、書類、つまり企画書が大切になってくる。可視化することで対話が生まれるし、意識がまとまってくるんですね。おかげで企画書作りとプレゼンは、どんどん上手になっていきました(笑)。企画の核となる価値観、すごく抽象的で、ふわっとしているけれども、ものすごく大切なことをどうやって対話的にブラッシュアップし、共通認識にしていくことができるのか。そこを大切にしています。

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水や山の中で体験した
「個の消失」。


──田島さんが今現在、 お仕事をしていく中で、大切にしている考え方を教えてください。

 現在、僕は「価値創造」をテーマにした仕事をしています。ですが、それはそう簡単にはできなきことです。現在、大きな社会問題や環境問題と直面する中で、多くの方が気付き始めていると思いますが、今、私たちには人間以外の生命や地球環境のことを考え、行動に移すことが求められています。地球のあらゆる関係性の中で生かされている。つまり、生物史という大河の中にいることに、自覚的になるべきだと思います。「生物としての人間」という視点を大切にしてかなければならないと思うのです。

──生物としての人間…。

 水の中で生活するという期間が10年くらいあったんです。幼少期から学生時代の10年くらい、ただ水泳をやっていたということなのですが…。休み時間も水の中だったし、水の中で生活する時間が長かったことは、今思えばいろんな影響があったように思います。「生物としての人間」という視点を大切にするようになったことも、このころの原体験がつながっていますね。

 例えば、今ここで腕をブンブン振り回すと、空気と体がぶつかって、わずかながら抵抗を感じ、気流が発生するじゃないですか。それが、水中だと、他のものとインストラクションしている状態が、すごく可視化されるんですよ。皮膚の感覚としても体感できる。

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手をブンブン振り回す田島さん。


 プカーっと水に浮かび、流れに身を任せて、表向いたり、裏向いたり、沈んだりして、漂うように遊んでいました。水のうごめきや自分の鼓動が聞こえるんだけど、しだいにそれも聞こえなくなっていく。感覚としては自分という個が消失していくよう感覚。存在しているんだけど、存在していないような…。自分と外の世界の境界がなくなっていくように感じたのです。当時は、そのような体験を水の中でたくさんしていました。後の大学時代、メディアアートの先生にこの原体験の話をしたら「あなたは、仏教とか量子力学の本をたくさん読んだ方がいい」と言われ、勉強しました。その影響はまだ受けていますね。

 それらを勉強していると「この世界は何なんだろうか」と自分や世界の存在自体を、疑うようになってくるんですよ。学校や会社で当然のように与えられる「目的や課題に向かって取り組む」ということは、何に基づいているのだろう?と疑念がわいてきます。「なんのためにこれをやるのか」ということを、本気で突き詰めていくとその理由ははっきりとはしない。日常の些細なことまで問いでいっぱいになってしまうんです。「生きている」とはなんだろうと知りたくなりました。自分や世界が存在していることの肌ざわりを得たくて、山にひとりで入ったこともありましたね。

──ひとりで、山に入った?

 本を読んで学ぶだけではなくて、体験として”生”を感じたかったのです。夜な夜な一人山に入って、ほどよい岩や落ち葉に座っていました。周囲の川のせせらぎや木々のざわめきに耳を澄ましたり、心の内面に耳を澄ましたり…。無意識だと、いろんなことを考えてしまうのですが、できるだけ考えることを遮断して、ただただ呼吸をしていました。存在してる、存在していない、という感覚の連続…。そのまま眠ってしまうこともありました。クマや蛇、おぼろげな月明かりなど、恐怖とも隣り合わせでしたが、そこには不思議と安らぎもありました。山では人が弱者なのです。そういうことを本気でやっていた。そこには、めまぐるしい都市生活では感得しえない、何か自身の体が、忘れかけている大切なものへの手がかりがありました。このころの体験が、今でも自身の思想の根本を形づくっていると感じます。

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自然の恵みを、いただいて成り立つ人間。

──「生物としての人間」という観点から、今、気になることはありますか。

 「イノベーションだ!」「再開発だ!」という掛け声のもと、ビジネスの世界では巨大な資本を動かして、さまざまなモノやサービスがつくられている。ですが実は、そこで生まれたものは環境や地域コミュニティをはじめとした、様々なものに弊害があることが多い。取り返しが付かなくなった時には、もう遅いんです。

 埼玉県の秩父にある武甲山って知っていますか?大半が石灰石でできている山です。その石灰石からコンクリートをつくっていて、都市開発にとって重要な素材です。質もすごく良いので、東京の開発では武甲山から持ってきているものが非常に多いそうです。それが今、大きな山の半分がえぐり取られていて、はげ山になっているんですよ。武甲には元々、縄文遺跡などがあり、大事にしていかなければならないであろう、人の営みの痕跡があった場所なんです。希少な生物もいたと聞きます。そういうものには目をつぶり、採掘し続けている。

 そのようにして調達したものを使って「これで人の暮らしが豊かになる!」と提供していることに違和感を覚えます。もちろん、それが全部が悪いんじゃなくて、チャレンジには大賛成だし、やった方が現代を生きる私たちのためになることもあると思います。

そんなジレンマを抱えながら僕は今、取り組んでいます。そして、そのジレンマを抱えながらやるという姿勢が、都市開発やイノベーションに携わる者として、非常に大切なのかなと感じているんです。

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どうやって、
自然との関係の結び直しを行うか。

 例えば、木に苔が付くじゃないですか。そうやって、何かに寄生したり、共生したりしている状態が、生物としては普通なんじゃないかなと。今はあまりにも、人間が他の動植物から必要とされる依存関係が少ない。人は自然から色々といただくけど、自然から人は求められていない。人間が、寄生されてもいいくらいのちょっとした余白を持たないと。

 「生態系サービス」という言葉があります。山が水をきれいにして運んできてくれるというのは、費用に換算するといくらになるか、といったように自然の営みをサービスとしてとらえる考え方。では、人間がテクノロジーを使って、山よりも効率的に水を生産できるようになったら山はいらないのかというと、そうじゃないと僕は思いたいんです。

──例えば、大自然の中に身を置くと、心が開放的になる。何かわからないけれど「人間が生物として」感じ取ることのできるものへの尊敬、敬意を忘れがちですよね。

 そういう感覚が育まれる環境をつくりたいです。文化の多様性も、生物の多様性と密接に関係して育まれるものです。どのようにしたら、自然との関係を結び直すことができるか。「生物としての人間」という視点を大切にして、創造的な仕事をしていきたいと思います。

田島さん

木の苔を愛おしそうに眺める田島さん。

人々の根底に、
「生物としての人間」が流れるような
都市を設計していきたい。

──その意識をより多くの人間が持つためには、何が必要だと思いますか。

 「イノベーションで社会課題解決!起業します!」というのは、もちろん良いことです。ですが、それを担う人間が「生物としての人間」という視点で、ものを見ることができることが重要だと思うんです。例えば、街を歩いていて、「この坂をくだると青竹の香りがするなぁ。この季節は東から風が吹いているのか。都心でも感じるこの気持ちは何だろう」とか「この虫は普段ここでは生きられない虫だな。もしかして、鳥が運んできたのかな。しかし気持ち悪いな」など。そんな小さな体験や問いが大切にできることかもしれない。

 自分がつくろうとしているものや、日々選択していることが、物事にどんな影響を与えていくのか。そのような問いにいざない、個々の人の答えが違っても変化を許容する。そんなシステムが、今の時代には必要なんだと思います。それが地球にとって良いことなのか、人類にとってはどうなのか。他の生物にとってはどうなのか…。そうやって、色んなことを考えなければならない時代だからこそ、都市開発やイノベーションの支援を通して、そこにいる人たちの根底に「生物としての人間」という考え、空気が流れるようにしていきたい。一人一人が「これがやりたいんだ」と考えたものが、自然とその時代の倫理観や生物としての正しさと合うようになっていく。そんな環境をつくっていきたいと思います。

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朝起きて、蛇口を捻ると、水が出る。
その水で、朝の乾いた身体を潤す。

夜、ガスコンロのつまみを捻ると、火が出る。
その火で、食事をつくる。

当たり前の日常。
それらのほとんどが、地球の資源を使ってつくられている。
自然の恵みをいただいて、生きていることを私たちは忘れがちです。

たとえば、大きな山や海に身を置くと、自分がちっぽけな存在に思える。
その感覚こそが、「生物としての人間」なのではないかと思うのです。

その感覚を当たり前に、私たちが感じ取れるような場所をつくりたい、と話す田島さん。
そんな田島さんのことを、これからも応援していきたいです。
そして、私もそのような観点で文章を書き続けていきたい、と思いました。

田島さん、ありがとうございました。

取材・文 :大島 有貴
写真:唐 瑞鸿 (MSPG Studio)


田島さんが代表を務める、一般社団法人ティシュー のHPはこちら
TISSUE org. Website

主な田島さんのお仕事
[大阪駅前再開発] 知的創造拠点「ナレッジキャピタル」(2013年開業)
複合施設全体の仕組み、中核施設の構想・計画全体のディレクションに携わる。

[渋谷駅直上再開発] 問いを起点にした共創拠点「SHIBUYA QWS」(2019年開業)
計画がまっさらな時期より、構想・計画全体のディレクションに携わる。

[うめきた2期区域開発] 緑とイノベーションをテーマにした都市公園(2024年開業予定)
事業者募集のコンセプト開発に携わる。


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