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あの時の想いを今、叶えに。コピーライター 阿部広太郎さん 前編

「本を読む人が、減っている」。
と言われはじめ、ずいぶんと年月が経っているように思います。スマートフォンやSNSなどが、私たちのライフスタイルに大きく影響を与えていることが分かる一つの事象かもしれません。

2021年5月。一人のコピーライターが一冊の本を出版しました。「それ、勝手な決めつけかもよ?」というタイトル。

中を開くと、まるで詩集のよう。
短いセンテンスを通して、まるで「私だけに」語りかけるような文体で綴られています。その投げかけに、「自分」という枠に囚われている若者たちが多く共感しています。そんな生きづらさを抱えた人たちへの書籍を出版した阿部広太郎さんに、お話をお聞きしたくなり、思い切ってご連絡をしたところ、今回の取材が実現しました。

6月23日阿部さん3349

今回、お話を伺った阿部広太郎さん。
2008年、電通入社。人事局に配属されるも、クリエーティブ試験を突破し、入社2年目からコピーライターとして活動を開始。自らの仕事を「言葉の企画」と定義し、映画、テレビ、音楽、イベントなど、エンタメ領域からソーシャル領域まで越境しながら取り組んでいる。


コピーライターの仕事は、
「言ってほしかったことを、代わりに言ってあげる仕事」。

──阿部さんは、コピーライターとしてご活躍されています。コピーライターの仕事は、どんな仕事だと言えると思いますか。

さまざまな言い方があるかと思いますが「言ってほしかったことを、代わりに言ってあげる仕事」だと思います。言われた本人が、言われて初めて「あ、これが言ってほしかったんだ」と気がつく、そんな言葉をつくることが、コピーライターの仕事だと捉えていますね。

そのために、多くの人に共通してある、記憶を呼び起こせる言葉をいつも探しています。マグマのように熱い気持ちをそのまま直球ストレートで伝えても、全ての人には伝わらない。その言葉を見た時に、多くの人が「あ、なんか知ってる」とか「あ、懐かしい」と懐かしい気持ちが呼び起こされるような言葉を探してるのです。

──記憶が呼び起こされる言葉…。それを探す作業はとても難しいことのように感じます。

そうなんです。仕事する相手に問いかけながら、一緒に探していきます。人って時には、本当の気持ちと相反することを言ってしまうこともありますよね。時間はかかりますが「この言葉は、言い換えるとどうなりますかね」とお互い聞き合うようにしています。話し合うというより、聞き合う。

その時、大切にしていることは、自分の意見を押しつけることはせず、常に相手に問いかけることを意識すること。その場にいる全員の一体感を作っていくために、問いかける。そのために発言をしやすい、話しかけ方や雰囲気づくりを心がけていますね。なだらかな放物線を描いて、相手の胸元でキャッチできるような言葉を使っていくんです。

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自分に対して、
引いてしまった線を越えてほしい。


───阿部さんはコピーライターの仕事のほかにも、言葉や企画に関しての講師業をはじめ、幅広くご活動されていますよね。

僕の仕事は、人事の仕事からスタートして、コピーライターになりました。コピーライターの仕事って、すでに完成されたものをどう伝えるかという仕事で、自分のキャリアはコンテンツの外側を考えるところから始まったと思っています。つまり、すでに完成されたものをどう伝えるかという仕事ですね。ですが、ここ5、6年はもっとコンテンツの内側の0から何かを作ることに興味がわいてきたんです。特に、誰かと共につくると行為。一緒にコンテンツを作ることであったり、参加者と共に作り上げる講義であったり…。コンテンツの内側へ、内側へと入るようになってきました。

───今回出版された「それ、勝手な決めつけかもよ?」拝読いたしました。自分で自分を決めつけてしまい、自分の人生を生きられない方を、鮮明に捉えていると感じたのですが、それはご自身の経験からなのでしょうか。

様々な講座を開く機会をいただく中で、多くの参加者の方たちはやりたいことと、実際の社会との間でどう折り合いをつけていけばいいのか、ものすごく葛藤をしています。そのように悩む姿を、目の前で見てきたからということもあるかもしれません。

加えて、おっしゃる通り、僕自身の経験もあるかと思います。新卒で電通に入社して、第一希望ではなかった人事局配属になり、そこから社内の試験を受け、希望のコピーライターになることができました。ただその後、すぐに順風満帆とはいかなかったんです。肩書きはコピーライターですが、成果を残せていないという焦りがジリジリとあって…。その環境の中でジタバタともがくことで機会を掴めて、少しずつですけど、成果を残すことができた。

そのように右も左も分からず、どうしようかと悩みまくるシーンが僕の人生の中にもあったんです。そんな時に、僕に手を差し伸べてくれる人がいて、僕も夢中に手を伸ばして、ここまで来れたんだと思っています。僕が、かつてしてもらったように、人に手を伸ばしたい。そうすることで、かつての僕がそうであったように、自らに対して引いてしまった線を、越えるきっかけになってほしいという想いが強くあります。

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捉え方を見つけることで、
踏み出すきっかけをつくりたい。

───やりたいことがあっても、一歩を踏み出せずに悩んでいる方はたくさんいると思います。

そうですね。考え方ひとつで、自分でつくってしまった自分の枠から、踏み出すことができるんじゃないかなと思います。ものごとの捉え方を変えてみる。捉え方を見つけることで、踏み出すことに繋がるというか…。

人生は選択の連続で、無意識に何かを選択して、僕たちは生きているんです。その無意識の選択をもっと、意識するといいかもしれません。例えば、本当はAという道があるはずなんですけど、Bという道しかないように考えてしまう。Bに進んで行って、行き止まりになっている。じゃあ、どうしようとなった時に、そこで立ち尽くしてしまう。例えば、森の中で迷った時、歩いてきた道を少し戻ってみて、違う道があったことに気がつくと思うんです。ちょっと後ろに戻れば、違う道が見えるよということを伝えていきたいです。

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後編へつづく。

取材・文 :大島 有貴
写真:唐 瑞鸿 (MSPG studio)

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