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【#006】たぶん、それは平行線

はじめに

おはこんばんちは。坂口です。
久々に文章を書きたい欲が生まれたので書いてみます。

先日からSNSを中心に賑わせている「#山路を登りながら」についてです。
Adobe Illustrator(通称イラレ)を使用している方ならピンと来ると思います。
イラレを使用してない方に簡単に説明すると、イラレとはアドビシステムズが開発・販売するベクターイメージ編集ソフトウェアで、主に印刷物やWEBサイトなどのグラフィックデザインやイラストの制作をすることができます。
そして、「山路を登りながら」というのはイラレでテキストを入力する際に出現するサンプルテキストのことです。
(夏目漱石の「草枕」の始めの一文が引用されています)

なぜこれがSNSを中心に賑わせているかというと、このサンプルテキストをそのまま気づかずに印刷工程にまわしてしまい、「山路を登りながら」という文章が完成した印刷物に掲載されているという事故が多発しており、界隈の人間が「恐ろしい」「目が覚めた」など戦々恐々としているのです。(2020年に始まったことではない)

それだけなら、大変だなぁ、気をつけよう。で終わるのですが、本題はなぜそんな問題を起こすこのサンプルテキスト機能があるのか??です。

おことわり

ここからはイラレを使っている方しか話がわかり辛いかもしれません。
そして、ここからの内容はボク個人の見解であり、決してデザインやイラスト、印刷を生業にしている方々の総意ではないのであらかじめご了承ください。

本題

この賑わいの最中、ボクもビックウェーブに乗るべく下記のツイートをしました。

するとですね、このツイートに関して
「サンプルテキストはOFFにした方がいい」
「サンプルテキストはONにしてる」
などなど、リプや引用RT以外にもエアリプと呼ばれるものまで賛否両論みなさんの反応がありました。
どうやら、あるまとめサイトで「#山路を登りながら」騒動がまとめられていて、そこに上記ツイートが掲載されているらしくそこ経由でもボクのところにも反応が来ているようです。

はい。
上記文面からわかる通りこのサンプルテキスト、イラレの環境設定でON/OFFが任意で設定できます。
(ちなみに設定方法は『イラレ環境設定→テキスト→新規テキストオブジェクトにサンプルテキストを割り付け』からチェックボックスでON/OFFが切り替えができます)

さてさて、このサンプルテキストのON/OFFについて色々と見解の違いがあります。
人間っておもしろいですね。
アナタはON派ですか?OFF派ですか?

結論 : どっちでもいい

とボクは思っています。
理由は大きく2つ。

①自身の制作の手癖やイラレを学んだ時期や環境による
②販売元(開発元)のAdobeが任意で選択できるようにしている

にも関わらず人は議論を交わします。
人間っておもしろいですね。

①自身の制作の手癖やイラレを学んだ時期や環境による
これは、このサンプルテキスト機能自体がリリース当初からの常設機能ではなく、CC2017から搭載された新しめの機能だからです。
イラレは1988年に初めてリリースされているので、約30年強になります。
サンプルテキスト機能なんて新参者です。
新参者はどこの業界でもいつの時代でも特別視されます。
なので、イラレ歴の長いベテランやそのベテランに教わった方なんかはわりとOFF派が多い印象です。

②販売元(開発元)のAdobeが任意で選択できるようにしている
販売、開発、研究をしているAdobeが「好きな方選びや〜」って言ってくれています。
要は「ウチらもどっちが使い勝手ええかわからんくて決められへんから、使いやすい方でかまへんよ」と言ってくれているんです。
Adobeソフトは専門職以外の方にも使ってもらえるよう、チュートリアルや手の出しやすい契約プランなどを発表しているので、初学者向けに。というのもありそうです。

この2点から「どっちでもいい」がボクの個人的見解です。

ここからが分岐点(ON推奨)

それなのになぜ「ON推奨派」と「OFF推奨派」に別れるのか・・・。
人間っておもしr

はい。
お気づきでしょうか??ここで矛盾が発生しています。
ボクは今「どっちでもいい」と言いました。
ではなぜ、上記ツイートでは「ON推奨」をしているのか。
ツイートにもある通り、ボクは講師のお仕事もしています。
主にデザインの講座が多いので、イラレの操作を初めて触る方へゼロから教えることが多々あります。
回数を重ねると、件のサンプルテキスト「山路を登りながら」の説明を必ずすることになります。
このサンプルテキストがあることで、今自分がどこの部分を作業しているか、どの順序で作業をしていくことが正しい道程なのかしっかり把握してもらいやすいと考えています。
落ち着いて自分の作業工程をしっかり把握していたら「山路を登りながら」が印刷物に混入してくることを未然に防げます。
それでもケアレスミスがあるんですね〜
人ge

逆にこのサンプルテキストがないと、ただただ画面にテキストカーソル(キャレットというらしい)がチカチカしているだけで見逃しやすい。
初学者はそれを見逃したことに気づかずに新たにテキスト入力を始めることが多く見受けられます。

見逃した何も挿入されていないテキストカーソルは「孤立点」という印刷には現れない、ただ少量のデータ容量を持っているだけの「透明なゴミ(余分なポイント)」になります。
それが印刷や印刷データチェックの際、不具合を起こす可能性があります。
(孤立点は入稿時にチェックして消去しましょう)
イラレを触り始めて間もない方のデータを見たことありますか??
イラレをゼロから教えたことのある講師の方は経験あるのではないでしょうか。

ほんともうそれはそれは満開のキレイな花吹雪です。
ディスってるわけではなく誰もが通る道だし、消去すれば全く問題ありません。
そのうち孤立点が理解できてくれば、制作しながら孤立点の存在を自分で管理できるようになります。
最初は自分の作業段階、作業工程を確実に着実に理解して進めていくことが大事。

以上の理由からボクは講師の立場として「ONを推奨」しています。

ここからも分岐点(OFF推奨)

ON推奨の話を先にしましたが、OFF推奨している方々の見解ももちろん理解できるし賛同もできます。
OFF推奨はやはり「山路を登りながら」が印刷物に誤って混入してしまう可能性がある。が1番大きな理由でしょう。
どんなベテランデザイナーでも校正者が何人いようが「誤植」や「見落とし」はどうしても起こります。
ヒューマンエラーですね。これは完璧な人間などいないことの立証でしょうか笑
孤立点は基本的に印刷されません。
あくまでデータ不備の対象で処理されます。
ですが「山路を登りながら」は残念ながら印刷されてしまいます。
事故としての規模は「山路を登りながら」の方が断然大きいです。
事故を未然に回避できるなら「OFFを推奨」するのは当然ですね。
(校正をしっかりしましょう※自戒)

なら、OFF推奨でよくね?

そうですね。
今までは印刷物の制作や入稿するのは専門職と言われる技術者でした。
入稿作業に関しては、見習いや初心者のペーペーではなく、それなりの経験と責任のある立場の人のお仕事です。(作業はしなくても必ずデータチェックはするでしょう)
技術者はイラレを熟知しているので、孤立点は消去するし存在も認識できます。なのでサンプルテキスト「山路を登りながら」は不要なんです。
しかし不思議なことに不要なテキストは時に全てのチェックを潜り抜けるのです。それが今回の「#山路を登りながら」が賑わっている理由です。
画像は載せませんが、どう見てもデザイナー歴の長いそれなりの知識と技術を持っている方が作ったであろう制作物に紛れ込んでいるから恐ろしいのです。

2020年現在、時代は進歩しイラレを使うのは専門の技術者だけではありません。
飲食業、小売業、企業の営業職、劇団員、ミュージシャン、PTA役員、自治体の広報担当者などデザイナーやイラストレーターと名乗らない職業の多くの人々でも気軽に扱える時代になりました。
正直なところ、ググれば気合と根性があれば独学でそれなりに使えるようになります。
(ボクも元々は独学でした。その後現役デザイナーの先生に基礎からみっちり教えてもらいました、ありがとうございます。)

上記の「ON推奨」でも登場した初学者が作るデータは不完全なものが多いことが常です。(いきなり初学者が独学で完璧なデータが作れたら専門でやっている人間の立場がありません笑)
原因は多種多様ですが、プロの技術者が見れば見なかったことにしたいレベルのものも少なくありません。
それでも印刷物として納期通り発行できるのは、印刷会社の職人さんや印刷オペレーターさんが不完全なデータを印刷できる状態のデータに修正してくれているのです。

だからボクはせめて自分が教える方々には完全データ(不備のない印刷可能なデータ)を作れるようになってほしいという思いでイラレを教えています。
「山路を登りながら」が出現する理由、孤立点の存在、もちろんON/OFF切り替えの話もします。
事故が起こる理由や背景、完全データの話も時間が許す限りします。
そしてON/OFF切り替えの判断は各々でするようにと。強制はしていません。
でも最初はONの状態の方が操作に慣れやすいのではと思っています。

線路は続くよどこまでも

長くなりましたがこれがサンプルテキストの「ON推奨」「OFF推奨」が別れてしまうボクなりの個人的見解です。
そして「山路を登りながら」の問題と「孤立点」の問題は同列で比較するものではないと思っています。
互いの主張のレイヤーが違うからいつまで話しても平行線なんです。
上も下もない。正解も不正解もない。
ホントどっちでもいい。使いやすい方で使えばいいと思います。

吉野◯と松◯の牛丼がどっちが美味しいかを議論してるようなもんです。
人それぞれなんです。それで言い合いになるなんてアホらしいし悲しい。

あとがき

長々と書き殴りましたが、最後にこれだけ。
今回の「#山路を登りながら」を辿ると『印刷事故』という言葉をいくつか目にしました。
たしかに『印刷事故』と言った方が他業界の人にも伝わりやすいしインパクトもある。
「山路を登りながら」の問題にしろ「孤立点」の問題にしろ大きいくくりでは『印刷事故』なのかもしれません。
しかし、印刷会社の方々やオペレーターさんは入稿されたデータを注文書の指示通り間違いなく、そして技術や経験を活かしてより良い印刷物になるよう様々な調整の上、作業をしてくれています。(「山路を登りながら」を見つけるのは業務外です。それでもたまたま見つけたら連絡をくれたりします)
それをあたかも印刷工程上(印刷会社内)でミスがあったような印象を抱きかねない『印刷事故という言い方に違和感を覚えました。
今回の「#山路を登りながら」騒動に関しては『印刷事故』ではなく『校正や確認不足による、制作者側の人為的ミス』だと思います。
ボク自身1番上のツイートで『印刷事故』と発言してしまって反省しています。申し訳ございませんm(_ _)m

ちょっと熱くなってしまいましたが、ボクも制作者、講師としてまだまだ勉強不足なことはたくさんあります。(間違っているところはつっこんでもらえるとありがたいです)
そして色んなことに気を配れるよう精進していきたいと思います。

長文お読みいただきありがとうございました。
また気が向いたらそのうち。

読んでいただきありがとうございます。 サポートいただいたお気持ちは今後の制作活動に使わせてもらいます。