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恋とか愛とか言う前に

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140字で綴る恋愛物語。どこかの、誰かの、強く焦がれる想いのかけら。
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2017年9月の記事一覧

微睡む午後。肌触りの良い毛布に包まる。浸透する温度の心地良さに吸い込まれ、より一層深い眠りに沈む刹那、無慈悲にも贅沢な時間が破られた。薄らと覚醒すると、無粋な侵入者が甘やかな声で囁く。「温めて?」絆されて冷えた身体に頬を寄せるのは、勿体なくてもこの至福を分け合いたいから。

青桐美幸
6年前
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満ちる月に魅せられて。気づけば握り締めていた携帯を片手に家を飛び出した。『もしもし』「今、何してる?」『月を見てた』「え」『あまりに綺麗だったから』一緒に見たくなった、と電話越しではない声が耳を打った。目の前に佇む姿を捉えて、結ぶ眼差しを照らす月がどこまでも追いかける。

青桐美幸
6年前
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不意に顔を近づけられ、吐こうとした息は口内に飲み込まれた。けれどすぐに離して顰め面。どうしたの、と問えば無言で眼鏡を取り払われて。見えない、と文句をつけると「後でどうでもよくなる」と傲岸不遜な返答。例え見えなくても、手で、耳で、肌で感じられるけれど、その熱を宿した目を確かめたい。

青桐美幸
6年前

刻みつけられた痕も、流し込まれた言葉も、うつされた熱も。全て覚えているけれど、消化することは叶わなくて。溢れ出て沈んでしまう前に抜け出したかったのに、「行くな」遮られ閉じられ囲われて、強制的に甘い眠りに落ちるだけ。逃れられたのは涙一筋。向かう先は、自由を追い求めた過去。

青桐美幸
6年前