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2023年からのFIFA Football Agent 制度について(1)

【目次】

  1. はじめに

  2. FFARの特徴
    ⑴ 適用範囲
    ⑵ ライセンスの取得及び維持
     ア ライセンス試験への申請

     イ ライセンス試験
     ウ ライセンス取得の例外
     エ Continuing Professional Development(CPD)
    ⑶ 手数料の上限
    ⑷ 紛争解決

  3. その他

1 はじめに

 元来サッカー界では、選手又はクラブのエージェントをするためには、各国サッカー協会(FA)が開催する試験に合格することで発行されるエージェントライセンスを保有していなければならなかった(選手の親族や弁護士は除く)。
 エージェントライセンスは一度取得すれば、違反による停止等さえなければ生涯有効とされていた。しかし、FIFAは、2008年に行ったルール改正によりエージェントライセンスの5年ごとの更新制を導入した。もっとも、更新試験は一度も開催されることはなく、FIFAは、2015年4月から突如としてエージェントライセンス制度を廃止して、仲介人制度を導入することを決定したのは記憶に新しいところである。この仲介人制度は、欠格事由に該当しなければ登録することで、誰でも選手又はクラブの仲介をすることができるとするもので、かなりの規制緩和となり、少なく見積もっても日本における新規参入者はライセンス制度時の10倍を超えている。
 他方で、FIFAは、仲介人制度を導入した僅か2年後の2017年に、透明性の確保及びインテグリティの保護を企図し、包括的な移籍制度改革を行うべく、Football Stakeholders Committee(FSC)を組織した。そのFSCは、2019年に、①育成に係る報奨金、②期限付移籍、③ライセンス制度の再導入等を含むエージェント制度の各改革を柱とする第二次制度改革案を承認した。
 そして、③は、FIFAと様々な関係団体との協議とともに、FIFA Football Agent Regulations(FFAR)」のドラフトの数次にわたる修正が行われ、最終的に2022年12月16日にワールドカップで盛り上がるカタールのドーハで開催されたFIFA Councilで承認された。

2 FFARの特徴

 FFARの特筆すべき特徴は、適用範囲、ライセンスの取得、手数料の上限及び紛争解決の4つと言えるだろう。以下それぞれ概説していく。

(1) 適用範囲

 FFARは、「フットボールエージェント」の職業を規律し、国際場面でのすべての「代理契約」、又は国際移籍若しくは国際「取引」に関連するあらゆる行為に適用される(Art 2.1)。
 また、「代理契約」が、国際移籍に係る「特定取引」に関連する「フットボールエージェントサービス」、又は2つ以上の「特定取引」に関連し、そのうちの1つが国際移籍に係る「フットボールエージェントサービス」に適用される場合には、当該「代理契約」は国際場面に該当すると解される(Art 2.2)。

 一方で、「フットボールエージェント」の行為が、国内移籍若しくは国内「取引」に関連する場合、又は「代理契約」が、国際移籍に係る「特定取引」に関連しない「フットボールエージェントサービス」に適用される場合には、「代理契約」が締結された時点における「クライアント」が登録又は居住している国の「national football agent regulations(NFAR)」が適用されることとなる(Art 2.3)。

 これらの線引きで考えると、エージェントが、ヨーロッパのクラブへの移籍希望を持つJ1クラブに所属する日本人選手と対象クラブを特定しないヨーロッパのクラブへの移籍を業務内容とする代理契約を締結した場合や、J2クラブに所属するブラジル人選手と当該クラブとの契約更新を業務内容とする代理契約を締結した場合には、当該各代理契約には日本サッカー協会(JFA)のNFARが適用されることになると考えられる。
 別の事例として、J1クラブがブラジル人のクラブに所属している特定のブラジル人選手を獲得したい場合に、エージェントが当該J1クラブと当該ブラジル人選手とを双方代理し、①当該ブラジル人選手に係る国際移籍の完了及び②選手契約の締結、並びに③以後の当該J1クラブと当該ブラジル人選手との選手契約の更新を業務内容とする代理契約を締結した場合には、①及び②についてFFARの適用があることは明らかであるが、③についても、代理契約において①及び②を前提としているため、FFARの適用があると考えられる。なお、本事例における双方代理は、FFAR上は認められるが(Art 12.8)、JFAのNFARにおいても認められるかは未定である。

 JFAも含め各国サッカー協会(FA)は、2023年9月30日までにNFARを制定し、施行することが求められている(Art 3.1)。NFARでは、FFARの11条から21条までを参照の上当該条項及び国内法による必須の要素を組み込むことが強制されているものの、当該国の法律を考慮してFFARの規定より上乗せ又は横出しも許容されている(Art 3.2-3.3)。

 JFAは、現行制度における「仲介人に関する規則」においても、弁護士法等を考慮してFIFAが定める「Regulations on Working with Intermediaries (RWWI)」よりも一部厳しい定めをしていることから、NFARでもFFARよりも一部厳しい定めがなされることが想定される。

(2) ライセンスの取得及び維持

  ア  ライセンス試験への申請

 FFARでは、「フットボールエージェント」になるための一般的要件として、自然人であることを前提に、①エージェントプラットホーム(AP)による完全なライセンス申請の提出、②資格要件の遵守、③FIFAが開催するテストの合格及び④FIFAへの年会費の支払いが規定されている(Art 4.1)。

 ②については、申請に虚偽記載等がないこと、各種犯罪による有罪判決を受けていないこと、倫理規程等の違反により監督官庁等から2年以上の資格停止等を受けていないこと、FIFA等の団体の職員等ではないこと、及びクラブ等にいかなる「利害」も有していないこと、申請前の24カ月間に無資格で「フットボールエージェントサービス」を行っていたことが判明していないこと、申請前の5年間に個人若しくは法人の大株主等として破産手続開始決定等を受けていないこと、並びに申請前の12カ月間にスポーツベッティング活動を仲介等するいかなる事業体等といかなる「利害」も有していないことが挙げられている(Art 5.1)。
 なお、申請者が資格要件を充足しているかの調査権限はFIFA事務総局にある(Art 5.3)。

  本稿はここまで。次回はライセンス試験の内容から続きを書きます。


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