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受験生のサバイバル

京都大学、合格。
東京大学大学院、合格。
司法試験、不合格。

もういい歳なので、このおもしろ学歴を思い出す機会は1つしかない。
知り合った子どもやその親から「受験勉強の秘訣」を聞かれるのだ。

毎回違う言葉で話すものの、整理するとたった一つのことを言っている。
これから何かの受験に挑む誰かにとって、少しでも役に立てば幸いだ。


先に結論を書いておく。
「絶対に合格したいという強い意志、目的意識」が、合格の秘訣だ。


精神論、根性論だ。
もう、間違いなくだるい。
ただ、京大に合格したその瞬間から15年以上経った今の今まで、
私の中で変わらない答えが、これなのだ。

結局、どんなに良い予備校の先生についても、どんなに良い参考書を買っても、
どんなに効率の良いノート術や暗記術を身につけても、
分からないことを分かるようになるために、時間を使って勉強するのは自分だ。

そして、目的意識なく時間を使うには、生活というものはハードすぎる。

例えば高校生なら、週5ないし週6で学校に通っているだろうが、
授業内容を大学受験に全振りできるわけではない。
「受験科目に体育はないから体育の授業はやめてください」とか
「数学が苦手だから週10で数学をやってください」とかは、普通はできない。
家族や友達と話す時間もあるだろうし、SNSを見る時間もあるだろうし、
趣味にあてている時間もあるだろうし、部活やバイトもしているだろう。
高校生の中でも、置かれた環境によって違いはあるだろうし、
高校生でなければ、学校が仕事や家事に置き換わったりするだろうが、
とにかくみんな忙しい。

目の前にあるもの、急かされていること、今までずっと続けてきたこと、
をしているうちに、そして夜になる。
そこをぐっとこらえて、
寝る前の5分に単語帳を開けるか。
通学中に好きな音楽を聞く代わりに英語のリスニングをできるか。
休み時間に一人で図書館に行って問題集を開けるか、あるいは友達を誘って問題を出し合えるか。
その行動の原動力になるのが、「絶対に合格したい」という意志、目的意識だ。

高尚な動機でなくていい。
大学で何を学びたいとか、大学を出て何になりたいとかは、
あればあったでよいが、なくてもよい。
ただ、自分が心から、強く望むことができるものでなければならない。
例えば、誰か特定の人を見返すために特定の大学に行きたいと思うのは、
それがあなたの本心なら全く問題ないが、
心のどこかで1ミリでもバカバカしいと思っている自分がいるなら、
別の目的を探すか、適当に頑張って行けるところに行けばいい。
(当然だが、大学に行くことが人生の全てでもないので、無理のない範囲でやれることだけをやって、行ける大学に行くという選択肢もある)

ちなみに、私は絶対に一人暮らしがしたかった。
別に家族仲が悪かったわけではないが、一人暮らしというものに強烈に憧れた。
両親が一人暮らしを認めてくれる条件が、東大か京大に合格することだったので、
京大を受けたのだ。
人によってはバカバカしい動機に思えるだろうが、私は大真面目だった。
一人暮らしの朝起きてから寝るまでのかなり具体的なイメージがあり、
つらい時はそのイメージから妄想を膨らませて頑張った。
(逆に、司法試験に落ちたのは、当時は心のどこかで正義というものをバカにしていて、明確な目的意識を持つことができなかった結果、目の前の楽しいことやバイトで生計を立てることに腐心し、十分な努力をする時間を取らなかったせいだと思っている。)


最後に、正直に伝えておく。
合格した瞬間の喜びの絶頂は、長くて数時間しか続かない。
合格発表で自分の受験番号を見つけ、周りの人に報告をし終わると大体しぼむ。
その後、学校の先生に祝われたり、入学書類が送られてきたりで、
都度じんわりと喜びが再燃し、入学式でしみじみと喜びを噛み締めて終わりだ。
しかし、合格後のあなたは、
それまでの人生でおそらく最も大きな一仕事を成功させたあなたであり、
意志の力を知ったあなたであり、
膨大な努力の経験を持ったあなただ。
その後の人生で、意志の力が必要な時、努力が必要な時に、
文字通りの受験戦争を生き残ったあなた自身に励まされる日が来ると思う。

一方、不合格の痛みも、一過性のものだ。
私も、不合格通知を受けて1週間くらいは、
屋上を見つければ飛び降りたくなり、精神科の世話になったりもしたが、
その後も人生は何とか続き、私の人生もずいぶん遠くにきたと感じる。
しかし、眠れない夜、何もかもが上手くいかない朝、
5年以上経った今でもふと思い出して頭をかきむしったりする。

これを読んでくれたあなたには、生き残って欲しい。


【補足】理論と実践編
※ 上に書いた精神論を、もう少し論理的に書いた内容は以下である。
  結論は変わらない。
  理論が気になる人や、より実践的な内容を知りたい人だけ読んで欲しい。

勉強に限らず、たいていの行動の効果は、質と量の掛け算だ。

(勉強の効果)=(勉強の質)×(勉強の量)

さて、あなたが受験勉強に関する情報として目にしたり耳にしたりするのは、
「質」に関するものと「量」に関するもの、どちらが多いだろうか?

圧倒的に「質」に関する情報が多いはずだ。
「質」を「効率」に置き換えると分かりやすい。
「効率の良い勉強法を教えます。」
「効率的に学習できる参考書です。」
「ガリ勉にならなくてもいい。効率良く勉強して遊びも恋も楽しもう。」
もちろん、一つも間違っていない。
時間は有限だから、効率は追求した方がよい。

しかし、忘れてはならないのは、効果を上げるには、つまり合格するには、
「質」と「量」の両方が必要だということだ。
ノートの取り方を変えても、参考書を変えても、
予備校を変えても先生を変えても、質は(体感だが)10倍にはならない。
つまり、どれだけ効率を上げる工夫をしたとしても、
合格に必要な勉強時間は10分の1にはならない。
(蛇足だが、それではなぜ量に関する情報よりも質に関する情報が圧倒的に多いかといえば、質に関する情報の方が金になるからだ。…もう少し大人な言い方をすれば、周りは質に働きかけることしかできず、量を積み上げられるのは本人しかいないからだ。)

それでは、どこまで「質」を追求するか。
ほどほどでいい。
受験市場はある程度成熟した市場だ。
それなりの本屋にある参考書や問題集なら、どれも大差ない。
それなりに名の通った先生の講義なら、どれも大差ない。
良さそうなもの、ほんの少しでも好きだと思えそうなものを選べばいい。

「質」について、ポイントは2つある。

1つ目は、「やりきる」ということだ。
参考書でも問題集でも、あるいは予備校の講義でも、
フィーリングで「これ」と決めたら、まずは最後までやってみる。
この「最後までやる」ことが、質の観点では非常に重要だ。
似たような参考書や問題集を取っ替え引っ替えする人がいるが、
参考書や問題集は大体どれも似たような目次立てなので、
最初の方の単元だけものすごくできるようになり、
最後の方の単元はいつまでもできるようにならない。

2つ目は、「間違いに向き合う」ということだ。
間違いというのはとにかく不愉快なものだが、
「できなかったことができるようになる」ことでしか、合格には近付かない。
できたことを繰り返しても、自分が気持ちいいだけで1点の足しにもならない。
間違えたら、解説を読んだり先生や友達に聞いたりして、
「どうすればできるようになるか」を理解する。
そして、その場でもう一度解き、翌日にもう一度、数日後にもう一度解く。
分からないことはストレスだし、人に教えを乞うのもストレスだ。
不愉快だし面倒くさい、できればやりたくないことだ。
しかし、この不愉快で面倒なことにどれだけ向き合えるかが、
あなたの勉強の「質」を大きく決定づける。

さて、「質」がある程度高まったら、次は「量」だ。
とにかくやるだけ、といえば、それはそうだが、
普通はこの2つが気になるのではないだろうか。
「何時間やればよいか」
「どうやって時間を作ればよいか」

1つ目の「何時間やればよいか」については、
あなたの志望大学と学部、現在の学力、学年その他の状況による。
というわけで、あなた自身が考えるしかないが、手がかりはいくつかあると思う。

まず、当たり前だが、受験勉強は〆切=受験日が決まっている。
あなたが高校2年生以下の場合、正確な日程はまだだろうが、
何ヶ月も変わることはそうそうないので、今年度の受験日を想定しておけばよい。

次に、そこまでに必要な学力が大体分かると思う。
一番分かりやすい目安は、模試のA判定だろう。
A判定に必要な偏差値と現状を見比べて、
どの科目のどの単元が、あとどのくらいできるようにならなければならないか、
を分析する。
学校や予備校、塾や家庭教師の先生の力を借りられるようなら、
借りてみてもよい。

最後に、「いつ」「どこまで」できていればよいかがハッキリしたところで、
今から少し先、例えば3ヶ月先に、あなた自身がどうなっている必要があるか、
を考える。
とある講義を聞き終えて、模試で何点取る、かもしれないし、
この問題集を解き終えて、1つも間違えないようになる、かもしれない。
ここまで分かれば、あとは割り算をして自分のスケジュールに当てはめるだけだ。
例えば、100ページの問題集なら、3ヶ月=12週間で割ると週に7ページ、
平日5日で毎日2ページ+間違えた分をやればお釣りがくる。
ここまでくれば、毎週月曜日は英語の講義を60分、古文の単語を20個、
数学の問題集を2ページ…と、やるべきことが決まり、必要な時間も決まる。

面倒くさいと思った人もいるかもしれないが、逆にこれをしないと、
受かるか受からないか、いつになったら自信を持って「合格するぞ!」と言えるか分からないまま、ただ無限に勉強しなければならないような嫌な気分だけを抱えて、何となく勉強しなきゃいけないという気持ちから、その時々でヤバいと思った科目に手を付けたり、嫌になった時は遊びに行く、という生活になる。
何となく不安な気持ちを抱えたまま遊んでも、何となく楽しくないし、
何より受験日までに必要な学力を持てるかが運任せになるので、合格率は下がる。
頼れる大人がいればどんどん頼りながら、ぜひ試してみて欲しい。

2つ目の「どうやって時間を作ればよいか」だが、
結論から言うと1つ目の「何時間やればよいか」が分かっている以上、
その必要時間を確保するために手を尽くす、ということになる。
なお、そもそも必要時間を考えた結果が、
睡眠時間と食事時間と授業などのどうすることもできない時間を差し引いた
残りの時間を既に超えている、という場合は、下の3つについて考え直す。
・一つひとつの所要時間を長く見積もりすぎていないか
 (英単語30個を見るのに30分はかからない)
・3ヶ月後に必要な能力を高く見積もりすぎていないか
 (あなたが高校2年生なら、まだ過去問は解けなくてよい)
・目標が高すぎないか
 (3つ目はあくまで最終手段だ。たいていは上の2つでどうにかなる)

それでは、本題の「どうやって時間を作ればよいか」だが、
私自身が高校生だった頃から今までの周りの人々や、
学生時代に家庭教師やら塾講師やら学校派遣やらで相談に来る人々を見ていると、
「時間がない」問題を抜け出すステップは大体3つある。

1つ目は、「まとまった時間」の呪縛から解放されること。
「勉強」と聞いた瞬間に「30分以上机に向かう」ことを連想してしまうタイプ。
1時間あれば過去問を半分解けばいい。
30分しかないなら数学の証明問題を1問解けばいい。
2分しかないなら英単語を5つ覚えればいい。
乗り換えの電車を待つ2分で見た英単語の方が、
自宅の机で10分眺めたものより案外覚えていたりするものだ。
あなたの1日の中で、長い時間を取れる時と短い時間しか取れない時を探して、
それぞれにふさわしい内容の勉強をあてよう。

2つ目は、「息抜き」の誘惑から解放されること。
3時間机に向かっていても、1問解いてはメッセージを返し、
1ページめくってはSNSを見ていては、勉強時間は半分の1.5時間かそれ以下だ。
偉そうに言うが、このタイプは子どもに限らず大人にも多いし、
私も司法試験の勉強に身が入らなかった頃はずっとまとめサイトを見ていた。
そして試験に落ちた。
だからこそ言うが、
30分以上机に向かっていられる時は30分以上連続して勉強した方がよいし、
30分未満しか時間が取れない時はそもそも息抜きなんかしない方がよい。
1.5時間勉強して1.5時間遊ぶのと、3時間机に向かって半分で息抜きするのは、
数字だけ見ると同じことのような気がするが、
ちょいちょい息抜きの害悪は思いつくだけでもこれだけある。
・集中力が続かない脳になる(試験本番は数時間に1回しか休憩がない)
・息抜き中も机には向かっているので「やった気」になってしまい、
 妙な満足感もあり、妙な疲労も溜まる
(最近の研究によると、脳は「ここは何をする場所か」を覚えているらしい)
・勉強しなければならない時に息抜きをしているという罪悪感があるので、
 それほど楽しくない。満足できないため、もっと息抜きしたくなる。
息抜きの誘惑からの解放は、最も意志の力を問われる。
何故志望校に合格したいのかを今一度思い出して、なんとか踏ん張って欲しい。
また、最近は勉強中にスマホを触らなくなるようなアプリもたくさんあるので、
スマホ依存の人は試してみてもよいと思う。

3つ目は、「同調」の圧力から解放されること。
例えば、朝の通学中にどうしても古文単語を覚えてしまいたいのに、
近所から通っている友達がずっと話しかけてくる。
塾の講義の前に自習したいのに、コンビニやカフェに誘われる。
ちなみに私の場合は、毎日夕方に両親が買い物に連れ出してくる、
という家庭内の同調圧力に苦しんだ。
こういう時に、明るく「勉強したい」あるいは「一緒に勉強しよう」と言うのは、
大変なことだが、あなたの勉強時間の確保に必要ならぜひ挑戦して欲しい。
私の経験から言えば、両親も友達も、最初は少しギョッとするが、
数日経てば慣れて、何も言わなくなったり、一緒に勉強してくれたりする。
別に誰とも喧嘩にならなかったし、縁も切れなかった。
卒業してから何年も友達だった人もいるし、20年の付き合いの友達もいる。
「邪魔しないで欲しい」とか「ウザイ」といったネガティブなメッセージでなく、
「私の望みのために協力して欲しい」とか「あなたと一緒に目標を達成したい」
というポジティブなメッセージを、言葉と態度で示すことがポイントだと思う。

とんでもなく長い文章を読んでくれてありがとう。
もし質問や相談があれば、連絡をもらえればできるだけ対応したいと思う。

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