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実務者向け原産地規則講座

我が国との二国間貿易のみならず、第三国間のFTAの活用を視野に入れた日・米・欧・アジア太平洋地域の原産地規則について、EPA、FTA、GSP、非特恵の各分野での税関当局実務責任者…
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#実質的変更

実務者向け原産地規則講座 目次

2022年4月1日配信開始 米国の経済安全保障における原産地規則の役割序章  経済安全保障に関連する貿易制限措置 第1章 ウイグル強制労働防止法(2021年12月成立) 推定に対して米国税関が輸入者に求める反証 米国政府から企業者への警告 ポリシリコンに係るサプライチェーン・トレースを行う上での注意点 ウイグル強制労働防止法上の推定への反証と原産地規則が果たす役割 第2章 米国の制裁措置の全体像と経済制裁 第1節 米国の制裁措置の全体像とその権限 (1) 大統

特集:米国の原産国判断(その他の製品)

2024年5月2日更新 事例1:フィンランド製の原紙を中国で印刷し、米国で小売用のギフト包装用紙に加工する場合の原産国N339156事案(参照番号等:2024年4月24日、MAR-2-48:OT:RR:NC:N5:130) 生産工程:原紙はすべてフィンランドで製造され、印刷は中国で行われる。フィンランドにおいてパルプが加工され、シート紙が製造され、原紙が仕上げられる。その後、軽量コート紙のマスターロールが中国に輸出され、グラビア印刷機で色やデザインが印刷される。マスターロ

特集:米国の原産国判断 (農水産品・同加工品)

2024年5月2日更新 事例1:中国産のニンニクを日本で漬物とし、米国に輸出した場合の原産国N335545事案 (参照番号等:2024年4月11日、CLA-2-20:OT:RR:NC:N5:228) 生産工程:本事例の対象であるニンニクの漬物は、様々なアジアスタイルの食事を補完するサイドディッシュとして説明されている。ニンニクの漬物は454グラムの乾燥状態で輸入され、1カートン20袋入りで、主に外食産業向けに販売される。ニンニクの漬物は、ニンニク67%、果糖ブドウ糖液糖8

5. プログラミングを実質的変更とする判例を受けた半導体関連機器の原産国判断

 最初に米国税関職員Monika R. Brenner氏 (Chief、Valuation and Special Programs Branch: 2023年8月現在) の論文 (2019年11月18日に米国国際貿易裁判所が主催した「第20回 司法カンファレンス」の資料として同裁判所ウェブサイトに掲載)の一部を引用します (以下、翻訳は筆者による仮訳)。事前教示において実質的変更を判断する立場からプログラミングに係る米国税関の対応について言及しています。

特集:米国の半導体関連製品に関する原産国判断の推移

 米国税関の事前教示事例検索サイト 「CROSS」 から、半導体関連製品に係る実質的変更判断が組立加工を行う「後工程」から拡散工程などを行う「前工程」に変更されたことについて、本稿では基幹部品としてのトランジスタ、集積回路を、次回はその他の半導体関連製品を追ってみます。なお、CROSS掲載事例の翻訳は、筆者による仮訳です。 1. トランジスタなどの半導体デバイスの原産国判断基準を「組立工程」としていた当初事例事例1:【当初事例】 トランジスタの原産国は、「組立て」を行った国

第5章:米国の原産国決定事例 (事例3-4)

 米国税関の事前教示事例検索サイト 「CROSS」 から、中国原産の部材と第三国 (メキシコ) 原産の部材を使用して当該第三国 (メキシコ) で加工・組立てを行った最終製品の原産国が第三国 (メキシコ) とされた事例3と、中国原産の部材を一部使用して中国で組み立てられた最終製品の原産国が最終組立国 (中国) ではなく主要部品の原産国 (日本) とされた事例4を掲載します。なお、CROSS掲載事例の翻訳は、筆者による仮訳です。 事例3: 中国原産部品とメキシコ原産部品をメキシ

第5章: 米国の原産国決定事例

 第5章では、米中間の緊張の高まりの中で、現実的な問題として中国の生産拠点の一部をアセアン諸国又はNAFTAの後継貿易協定である米国・メキシコ・カナダ協定 (USMCA) の活用を意図したメキシコ・カナダなどの第三国に移転させ、単なる迂回ではない最終製造工程を伴った「第三国製品」の米国への輸出を模索する日系企業の参考となるよう、米国通商法第301条の適用に際して適用される原産地規則に焦点を当て、米国判例及び米国税関の事前教示事例の概要を掲載します。  可能な限り材料輸出国が

米国の対中国追加関税措置と原産地規則

 「経済安全保障における原産地規則の役割」と題して日米欧の経済安全保障法制の概要と実務について述べてきましたが、本稿では原産地規則の観点から、米国の対中国追加関税措置に代表される1974年通商法第301条 (以下「第301条」) に基づく措置ついて考察します。トランプ政権によって採られた本措置 (通常関税に加えて25%の関税上乗せ)は、過去の政権の対中協調による共存政策から米国の覇権をかけた敵対的な政策への転換の象徴となるものでした。「経済安全保障」 の定義にもよりますが、自

第5章 一般特恵制度 (GSP):GSP原産地規則の創設時からの変遷

 前回は、一般特恵制度 (Generalized System of Preferences: GSP) が実施されるに至った歴史的な背景と制度の概要について述べました。今回は、GSP創設時の原産地規則がどのように変遷していったのか、またその理由などについて解説していきます。 1. 初めに 本稿では、UNCTAD事務局がGSP技術協力プロジェクト用に編集した「Generalized System of Preferences - Digest of Rules of Or

第1編 第2章 原産地決定のための方式

第1節 実質的変更1947年ガット  そもそも、原産地規則について国際的に定めた規律は極めて数少ない。原産地をどのように決めるのかということに関しては、1947年ガット(General Agreement on Tariffs and Trade: GATT)の準備段階において、最恵国条項の適用のために物品の原産国を決定することは輸入締約国の国内法の規定によるべきとの議論があったとおり、ガットに原産地規則の内容に踏み込んだ規定は存在しない [1]。 京都規約  国際規律