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\オーストラリア発/オフィス勤務の義務化にNo!テレワークの権利を求める労働組合の闘い


企業はオフィス回帰へ。社員はテレワークの継続を希望

アフターコロナ以降、多くの企業が社員に対しテレワークを止めてオフィス勤務に戻るよう求めています。アメリカでは、これまで社員に対してフルリモート勤務を認めていたアマゾン、スターバックス、ディズニーなどの大企業も今年(2023年)に入ってから立て続けに、社員に対して週に3〜4日の出社勤務を求めました。

イーロン・マスクのテレワーク嫌いはよく知られており、テスラでは週5日の出社が義務付けられていますが、最近では、ChatGPTを作ったOpen AIのCEO サム・アルトマンがフルリモート勤務についてのネガティブな考えを語り注目を集めました。

❝ テック業界における最悪な間違いは、誰にとっても永久にフルリモート勤務が可能だと考えたこと。また、スタートアップで、メンバーが一緒に働かなくても創造性が失われることはないと考えたことでしょう。

フルリモート勤務の「実験」は終わりました。特にスタートアップでは、人々が永久にフルリモートで働けるほどまでテクノロジーは発達していませんでした。 ❞
                      Open AI CEO, Sam Altman

一方、在宅勤務についての調査研究を行っているWFH Researchの最新の調査(Working from Home Around the Globe: 2023 Report)によると、労働者側は、平均で週に2日の在宅勤務を希望していることが分かります。
これを週5日のフルリモート勤務の経験がある労働者に限ると、回答者の4分の1(25.7%)が引き続き週5日のフルリモート勤務を希望しています。

国や業種によって、労働者が求める在宅勤務の日数にはバラつきがありますが、テレワークを止めて出社を求める経営側と労働者の希望の間には、見過ごせない「ズレ」があるという点は、世界共通であると言えます。

オーストラリアでの在宅勤務を巡る労働組合の動き

多くの国で、社員をオフィスに呼び戻したい企業と、在宅勤務をしたい社員の間で静かな攻防が続いていますが、これはオーストラリアでも同じです。

人材紹介会社のロバート・ハーフが今月(2023年)8月に発表した調査結果によると、オーストラリアでは今年、約9割の企業が従業員に対して「出社義務のある日」を設けたそうです。

● 19% の企業は、週5日の出社を義務化
● 28% の企業は、週4日の出社を義務化
● 31% の企業は、出社義務化を理由に少なくとも1人は退職者が出た
● 40% の企業は、出社義務化を理由に今後退職者が出ることを見込んでいる

https://www.roberthalf.com.au/press/87-australian-companies-have-implemented-mandatory-office-days-staff

今年(2023年)オーストラリアでは、在宅勤務を標準的な従業員の権利にするために、労働組合が闘う動きが続々と出てきています。下記にいくつかの事例をご紹介しましょう。

公務員

労働組合との協議の結果、オーストラリアの公務員は、日数の制限なく在宅勤務を申請することができるようになると発表されました。対象となるのは、国内103の公共施設等の組織で働く174,000人以上の公務員です。

在宅勤務を認める柔軟な働き方の実現により、職場における多様性の実現を後押しすることが望まれています。
オーストラリアでは、35歳以上の女性の多くがパートタイムまたは臨時職員で働いていることが明らかになっています。今回の「在宅勤務の権利」の獲得により、これまでは公共施設で働くことができなかった人たちや、ライフステージなどの状況の変化により退職せざるを得なかった人たちにも雇用の門戸が開かれていくだろうと期待されています。

ナショナルオーストラリア銀行

ナショナルオーストラリア銀行は、今年(2023年)4月に約500人の管理職に対して、在宅勤務を止めて週5日のオフィス勤務をするよう求めました。これに「待った!」をかけたのが労働組合です。

結果として銀行側は、フルタイムの出社勤務指示を取り下げざるを得ませんでした。そして7月には、この500名の管理職を含む全従業員に「在宅勤務の申請権利」を与えると労働組合と同意したことを発表しました。

ナショナルオーストラリア銀行は、オーストラリア国内で3番目に大きな銀行であり日本にも支店があります。今回の決定は、アフターコロナ以降、多くの国で見られている企業と従業員間の在宅勤務を巡る闘いに、新境地をもたらすものだと言われています。

オーストラリア・コモンウェルス銀行

オーストラリアの最大手銀行であるオーストラリア・コモンウェルス銀行は、今年(2023年)5月に従業員に対し、月の勤務時間の半分はオフィスで働くように求めると発表し、7月から実施される予定でしたが、労働組合から不服の申し立てがされました。

労働組合は、銀行側が従業員に対して通知したこの出社義務化は、従業員および労働組合への相談なしに決定され、既存の労働契約に違反するものであり、子供の育児が必要な従業員や家庭における責任がある従業員に損害を与えるものだと主張しました。

競合他社であるナショナルオーストラリア銀行で「在宅勤務の申請権利」が認められたことを鑑みると、今後、オーストラリア・コモンウェルス銀行でも同様の権利を求める声が上がる可能性があるでしょう。

他国の状況

労働組合による「在宅勤務の権利」を求める動きは、オーストラリアに限ったものではありませんが、全ての国が勝利をおさめているわけではありません。

例えばカナダでは今年(2023年)の5月に、連邦政府職員を代表する労働組合が、2週間に渡ってストライキを行い、「賃上げ」と「在宅勤務の権利」などを要求しましたが、結局、労働組合は「賃上げ」のみを達成し「在宅勤務の権利」を勝ち取ることはできませんでした。

逆を言えば、今回ご紹介したオーストラリアのケースは、世界的に見ても先進的なもので、オーストラリアを在宅勤務天国と呼び始めている人も出てきているようです。

まとめ

今回は、企業と労働者の間で続いている在宅勤務にかかわる攻防戦に対し、オーストラリアでは労働組合が主導し「在宅勤務の権利」を勝ち取るための動きが活発している様子をリポートしました。

イマクリエでは、今後も海外のテレワーク事情について、最新の情報を発信していきます。どうぞご期待ください。

出典

WFH Research
Working from Home Around the Globe: 2023 Report
https://wfhresearch.com/wp-content/uploads/2023/06/GSWA-2023.pdf