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長野県飯田市「新時代の部活動」への挑戦|長野県飯田市教育長・代田昭久氏インタビュー

※本記事はイマ.チャレ第2号に掲載されております。また、記事中の所属・役職は取材当時のものとなります。

本記事では「これからの時代の部活動の在り方」の実現に向けて、市全体で取り組む長野県飯田市の取り組みを紹介します。「オフ期間の導入」「全市型競技別スポーツスクールの立ち上げ」「筑波大学アスレチックデパートメントとの連携による学術的サポート体制の構築」など、革新的な取り組みを多く行っている飯田市。教育長である代田昭久氏にお話を伺いました。

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代田 昭久(しろた あきひさ)|長野県飯田市教育長。民間企業を経て、2008年に東京都杉並区立和田中学校校長、2013年佐賀県武雄市教育監、2014年より武雄市立武内小学校校長・教育監を経て、2016年より現職。

■部活動改革に至るまでの経緯

―なぜ部活動の在り方を改革しようと考えたのでしょうか?                     私ごとで恐縮ですが、大学卒業後10年にわたって社会人のアメリカンフットボールクラブに所属しました。アメリカから招聘されたプロコーチは、いつもポジテイプなメッセージでチームを鼓舞し、合理的な練習を行いました。

また、専属のトレーナーからは、体づくりや栄養学を学び、今までとは別次元のスポーツの楽しさ、素晴らしさを味わうことができました。そのおかげで、今でもスポーツや体を動かすことが大好きです。

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さて、中学校の部活動ではどうでしょう。多くの生徒が卒業文集にその思い出を書くほど、 学校の中心的な教育活動です。ただその一方で、生徒を怒嗚ったり叱ったり、練習は裏切らないとばかりに長時間の練習を強いる現実があります。目の前の勝利にはこだわりますが、 卒業後の競技人生や、さらにその先に続く健康的なスポーツライフを見据えているかと言えば、疑問符がつきます。

部活動は、制度上は教育課程外の「やらなくてもいい」活動であるがゆえに、安全面や健康面の管理体制が不十分になり、過熱化しています。これからの社会は人生100年と言われる時代となり、今の中学3年生の半数は107歳より長く生きると推計されています。

成長過程である生徒に怪我をさせない、バーンアウト(燃え尽き)させないことは大前提です。「子どもたちが生涯にわたってスポーツを好きでいられる環境づくり」を、今こそ、学校だけではなく地域社会全体で取り組む必要があるのです。

■飯田市が取り組む部活動改革

─どのようなプロセスで、改善されてきたのでしょうか?          まずは、現状の把握から行いました。平成30年度に9つの中学校の実態調査を実施し、 生徒が一年間に部活動に関わる時間は平均で665時間、1000時間を超える部活もありました。

年間の総授業時間数が約850時間であることを考えると、心と身体のバランスがとれた状態ではありません。また、運動部活動の加入率が60%を割り、年々減少している実態も明らかになりました。

そこで、スポーツ庁のガイドラインや県の指針に則り、適正な活動時間になるように見直しを図るとともに、何を大切に、何を目指していくかなど、まさにイマ.チャレの創刊号にも書かれていた「目的の明確化」から改革の議論をスタートさせました。

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校長会と協力しながら約一年にわたる議論の末、「新しい活動方針」を打ち出しました。その柱の一つは、保護者の車による送迎を前提にして夜まで活動を延長することを原則禁止とし、「部活動は完全下校時刻まで」としたことです。これまでは、車の迎えがないために部活を断念する生徒もおりましたが、公教育の活動である以上、すべての子どもたちに活動を保障できるかたちで実施することにしました。

完全下校時刻とは、生徒が明るいうちに安全に帰宅できる下校時刻のことで、完全下校時刻が早まる冬季(概ね11月~1月)は、放課後の部活動が実質的に行えない期間(以下オフ期間)になります。2020年1月の一ヶ月間、放課後の部活動オフ期間を試行した上で、2020年9月から「新しい活動方針」にしたがって運用を始めました。

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—改革をしていく上で、難しかったところはどんなところですか?

「新しい部活方針」については、職員会、保護者会などで説明会を繰り返し開催しました。30回は優に超えたと思います。「練習時間が減れば競技力は向上しない。負ければ子どもたちが悲しむ」、「子どもたちがやりたいのであれば、その自主性を大切にすべきだ」といった声をいただきました。

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新時代の部活動の実現に向け、飯田市では職員会、保護者会、スポーツ団体も含めて、これまでに繰り返し議論が行われてきた。

教育委員会としては、公教育であることを前提として、長時間化に歯止めをかけたいこと、生徒がやりたいと言っても怪我やバーンアウトを回避する責任があることなどを説明しますが、なかなか共通理解をはかることができませんでした。「子どもたちのために」という想いは、教育委員会と同様、教職員も保護者も同じだからです。

■オフ期間には肯定的な意見が多い。否定的な意見もあるが、大切なのは意見を出し合うこと

—賛否がある中で、どうやって改善策を見つけていきましたか?      2021年2月に、中学1、 2年の全生徒と教職員にアンケート調査を実施しました。この年から生徒一人一台のパソコン環境が実現したので、様々なアンケート項目を設定でき、 生徒や教職員の声をたくさん集めることができました。

<飯田市の全中学校に対して、部活動に関するアンケートを実施>

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アンケートで得た結果(上記の図)を各学校にフィードバックし、生徒、教職員、保護者で改めて話し合いの場を持ってもらいました。ある学校では、生徒から「オフ期間に賛成の人たちがこんなにいるのは信じられない」「勝つ気がないのなら、やめたほうが良いのでは」という意見や、「勝つことが大事、楽しむことが大事という両方の人がいる。

大切なのはこうした違った意見を出し合って、みんなで調整していくことではないか」という意見もあったそうです。部活動を何のためにやるのか、どうしていきたいのか、生徒自身が自分のこととして考え、お互いに意見交換をしたことは大きな転機となりました。そして、それを見守っている教職員、保護者の風向きも変わってきたように感じます。

■筑波大学アスレチックデパートメントとの協定を締結。明確な根拠に基づいた部活動改革を目指す

─2021年9月1日、筑波大学アスレチックデパートメントとの協定を締結されました。 どのような連携を期待していますか?            できる限り生徒や顧問の悩みを聞いていただき、学校現場とのやりとりも含めて、専門的な見地からアドバイスをいただけることを期待しています。改革を進めるためには、学校関係者だけでなく、保護者や地域の方々とも問題意識を共有し、新しい知見や考え方を一緒に学んでいく必要があると思っています。部活動が、地域の社会体育活動としてそのまま差し替えられてしまうと、より過熱し、歯止めの効かないものになってしまう可能性もあります。

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前述の全市型競技別スポーツスクールや、地城の社会体育活動が、部活動とうまく連携、 機能するためにも、専門的且つ新しい時代に合わせた価値観の共有が必要不可欠です。日本のスポーツ・教育の発信拠点である筑波大学の学術的な知見とその実績を遺憾なく発揮していただき、この改革が、地域社会のムーブメントになるように、本誌イマ.チャレや新聞、オンラインプログラム、シンポジウムなどとも一体となって是非、多くの関係者を巻き込んでいってほしいと思います。

—今後実現していきたいことについて教えてください。
これからの時代を生きる子どもたちには、自分で思考、判断し、表現する力が必要です。 考える癖をつける、創造的に行動する、思い切り楽しむ、お互いを尊重する。こういった姿勢や態度を育むのは、実は、スポーツが得意とするところだと思っています。部活動やスポーツでの指導が変わり、生徒に新たな力が育まれることで、学校での授業、家庭学習、地域での学びも変わっていくことになるでしょう。子どもたちには、人生100年と言われる時代を、是非スポーツ本来の価値と共に心も身体もたくましく、生き抜いていって欲しいと思います。

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