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まいにちてがき絵日記 | No.385 | ある旅の記憶「鹿の集会」

わたしの一風変わった旅の記憶を絵と供に。

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日光の山奥で鹿の集会に闖入してしまったことがあった。もう10年くらい前になる。

友人5人くらいで日光へ行ったことがあった。真冬だった。
宿の近くに滝があるというので、早起きして川沿いの雪の積もった坂道を散歩することにした。その頃、わたしは取り憑かれるように朝の散歩をしていたのだ。
途中で木々の向こうに真っ赤な朝日が昇ってくるのをみた。なんとなく引き返そうかと思っていたところに友人がひとりやってきて朝日をみたかという。あんな美しい瞬間を他の誰かもみていてよかったと心細さも消えてふたりで滝に向かうことにした。
滝は登山道の入り口のようだった。神社があって入山者を記すノートの置き場が雪を被っていた。とても静かなだった。滝つぼをのぞきこむとその周りを囲むように5、6匹(あるいはそれ以上)のメスや子どもの鹿がいた。人の姿をみても慌てて逃げることもなく、攻撃してくるわけでもなかった。ただ警戒するように鳴いていた。犬みたいな声で。わたしたちも鳴き真似をしながら、しばらくつんと冷えた山の空気を吸った。なぜ逃げないのか不思議だった。鹿たちがどこへ行くのか見たかったけれど、わたしたちには朝食の時間が迫っていて、息を切らしながら山を駆けおりたことは覚えている。
鹿は珍しくもない。朝の水飲み場だったのだろう。そのときはそんな気分だった。友人も同じように感じたのか今までこの日の出来事が話題に上ったことはない。
もう覚えているのはわたしだけなのだろうか。
鹿なんて珍しくない。けれど、あんなに群れでいるのをみたのは後にも先にもこの一度だけだった。わたしは今もときどきあの雪の中の木々の景色を思い出して、同じ時間にあそこへ行けばまた鹿たちが集まっているのだろうかと考えることがある。

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まいにちてがき絵日記◼️ほんともうそも時間も場所もなんでもあり。とにかく1日1ページ。ありふれた道具で描く平凡な生活のひとコマ◼️

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