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アルゼンチンのサンタクロースは隣国チリへ行く

クリスマスが近づいてきている。アルゼンチンは日本と季節が真逆。つまり、サマークリスマスというわけだ。毎年のことながら、日本で生まれ育った僕は、景色や気温でクリスマスを実感しない。

クリスマスの訪れを感じるのはお菓子だ。アルゼンチンでは、クリスマスシーズンだけ販売される甘いパンやお菓子がある。

それらが店頭に並び始め、食卓に出始めると、「もうすぐでクリスマスだなあ」と感じるようになった。というか、今もクリスマス・パンを食べている。

もう1つクリスマスを感じる出来事がある。それがチリ旅行に行くアルゼンチン人が増加することだ。

スペイン語が母語のアルゼンチンでは、サンタクロースはパパ・ノエルと呼ばれる。子供たちがパパ・ノエルが来るのを待ち望んでいるのは、日本の裏側であろうと同じだ。

話を進めたいが、ここからはサンタ、いやパパ・ノエルの存在を信じている良い子のみんなは読み進めてはいけない。

クリスマスの食卓に並ぶお菓子。12月はほぼ毎日お菓子を食べる。

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この文章を読んでいるキミは、パパ・ノエルの正体に気づいているはずだ。いや、はっきり言うべきだろう。同志たちよ。キミたちの中には、パパ・ノエルがいるはずだ。4年前に子供が生まれて以来、僕は毎年パパ・ノエルとしての責務を果たしている。

愛する同志たちに、今更言う必要もないが、我々パパ・ノエルの最重要任務は、正体がばれないよう隠密に行動すること、そして25日に愛するわが子へクリスマスプレゼントを届けることだ。

ここでは、家族総出でクリスマスを祝う。アルゼンチンに住む僕は、僕の家族、義姉の家族、そして義父母の家族で過ごす。サンタクロースの存在を信じる子供の数は全3名。

ここでは、クリスマスにアサード(BBQ)をするのが伝統。外で食事できるのは、サマークリスマスの特権である。

アサードを食べた後、24日23時30分頃にとびっきりの甘いお菓子を出すのだ。もちろん子供たちは夢中である。その間に、我々パパ・ノエルたちは室内にあるクリスマスツリーの下にプレゼントをセット。

25日になった瞬間、義母が大げさに辺りを見回し、「パパ・ノエルが来たみたい!」と叫ぶ。すると、子供たちは室内に全速力で駆け出し、プレゼントを見つけるというわけだ。

本題から話がそれてしまった。クリスマスプレゼントについて僕は話したい。正直になろう。クリスマスプレゼントは高い。少しでも安く抑えたいのが本心ではないだろうか。それはアルゼンチン人も同じだ。だからこそ、我々はチリへ行くのだ。

煌めくクリスマスツリーとプレゼントの包み紙の残骸。

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アルゼンチン人はクリスマスプレゼントをチリで買う。少々、主語が大きくなったから、もう少し範囲を狭めよう。アルゼンチン側パタゴニア地方へ住む人々は、チリでプレゼントを調達する。その理由は単純明快。チリまで近いうえ、品物が安いからだ。

主観的な意見だが、ネウケン州で販売される洋服よりも、チリの方がおしゃれだ。さらにリーズナブルときている。僕は2015年にアルゼンチンに移住したが、アルゼンチンで洋服を買った回数は片手で数えられるほど。

25歳のアルゼンチン人妻アント、並びにその家族も、洋服はチリでまとめ買いする。だって、アルゼンチンの洋服よりも、格好いいし安いのだから。

もちろん、僕達はチリでスマホを買った。だって、アルゼンチンで買うよりもずっと安いのだから。

今年息子は4歳の誕生日を迎えた。トイ・ストーリー4が公開されたこともあり、彼はトイストーリーに夢中。僕達はウッディの喋るオモチャをプレゼントすることにした。アルゼンチンの店やメルカドリブレ(Amazon的存在)をチェックすると、その額は約10万ペソ。ちなみに、当時の家賃は7万ペソだ。

でも、チリならもーっと安い。同じ商品が約3.5千ペソで購入できるのだ。バス代約2千ペソ加えても、十分なおつりが返ってくる。

妻アントはバスでチリ・テムコまで8時間かけて向かい、お目当ての代物と洋服を購入してきた。親戚の家に泊まるから、宿泊費は無料である!

品物(特に電化製品))が安い・親戚がいる(宿泊費無料)・近いの三拍子が揃っているから、ネウケン州の人々は頻繁にチリへ向かう。旅行というよりも、物資調達という言葉の方が適切かもしれない。

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チリに多くのアルゼンチンナンバーの車が集合する時期は、クリスマス前だろう。去年は日本で過ごしたから分からないが、2年前のチリ・テムコには多くのアルゼンチン人が集合していた。ショッピングモールに停まる車の大半がアルゼンチンナンバー。

つい先日、僕達は2年ぶりにチリへ向かった。目的はプチバカンスだが、クリスマスプレゼント調達する気まんまんでもあった。

レゴショップへ向かい、息子の好きなスターウォーズのレゴを購入。約4千ペソ支払った。アパートに到着して、「アルゼンチンではいくらか調べてみなよ」と僕は得意げに言う。すでに彼女は調べていた。約6,300ペソ。ほらね。

驚いたことに、テムコのシュンボ(イオンみたいなとこ)にH&Mができていた。僕とアントのテンションは爆上がりだ。あのH&Mがあるなんて予想だにしなかった。

僕とアントは日本で何度もH&Mに行っているし、正直テイストが好みじゃなければ、高いので好きではなかった。アントの日本の行きつけは、ユニクロやH&Mではなく、しまむらとフォーエバー21。価格重視なのである。

でも、チリや南米大陸で拝むH&Mは格別だ。やはりチリにあるからだろうか、全体的に洋服がおしゃれな気がする。心なしか値段も安く感じる。さらに、ブラックフライデー期間中のため、対象の商品を2つ購入すると、1つは無料になる太っ腹ぶり。さすがチリは違う。

「少し早めのクリスマスプレゼントだね、フェリス・ナビダッド(メリークリスマス)」、テンションあがった僕は普段なら絶対に言わない軽口を叩く。

彼女もまた「ありがとう!フェリス・ナビダッド」と言って抱き着いてくるから、チリの魔力は怖い。

昔ほどではないが、それでも未だにチリで爆買いしているアルゼンチン人は多い。帰りのバス、みんなの荷物が来る時よりも多くなっていたのは、気のせいではないだろう。

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この文章を書くきっかけは、先日義父母が「ちょっとチリ行ってくるわ」と言ったからである。さすがパパ・ノエル歴30年を超える大先輩は貫禄が違う。

チリが近いと言っても、車で約8時間かかれば、アンデス山脈を越える必要もある。だが、義父母の言葉にはそんな重みを一切感じさせない。

クリスマスのアサードはこんなに豪華

そう言えば、2年前のクリスマスも同じだった。彼らは、本当にちょっくらチリに行ってきて、クリスマスプレゼントを調達してきた。

2017年12月24日、義母の大げさな演技で、子供たちが名前の書かれたクリスマスプレゼントを発見した。誰もが、義父母は孫たちだけにクリスマスプレゼントを購入したと思い込んでいた。

それは間違いだった。一番下のダニエラを除けば、娘たちは立派な大人である。しかし、義父母にとっては何歳になっても、娘たちは愛らしい子供のまま。

義母が自室から3つのプレゼントを持ってきた。幅は薄いながらも、大きな長方形のプレゼント。赤のリボンがキュートだ。そして、義父がプレゼントを1人ずつ渡す。受け取る前、彼らは熱い抱擁を交わして、今年も共にクリスマスを迎えられたことを祝った。その美しい情景に、僕は思わず涙を浮かべてしまった。

ワクワクした義母がプレゼントを開けるように言う。彼女の気持ちはよくわかる。子供たちの喜ぶ姿こそ、パパ・ノエルにとってのクリスマスプレゼントなのだから。

三姉妹は、かつてのように包装をビリビリに破かない。成長した彼女たちは、丁寧に包装をとくのだ。唯一変わらないのは、子供時代と同じであろう、興奮を隠せない笑顔を浮かべていること。彼女らが受け取ったパパ・ノエルからのプレゼントは、

バスタオルだった

1人1枚バスタオルが贈られたのである

クリスマスプレゼントに

あまりにも長すぎる一瞬の沈黙が訪れた。

ダニエラもこの表情。唇をかみしめているようにも見える

アントと義姉はもう大人だからいいとして、一番下のダニエラは当時14歳である。正直に言うと、「14歳の子にバスタオルか...」と思ってしまった。

2秒ほどの沈黙を破ったのは、ムードメーカーの義姉ノエ。彼女が声を上げて笑い始めると、彼女につられて、その場にいる全員が笑った。

クリスマスの奇跡だ

と当時の僕は思ったが、義姉は大人として正しい振る舞いをし、僕達もまた、大人として正しく振舞ったのである。

クリスマスプレゼントと記念撮影。義母の満面の笑み

バスタオルはチリで購入したそうだ。「2枚購入したら1枚無料だから丁度良かった」と義母は言う。確かに、アルゼンチンではバスタオルも安くはないし、日用品だからありがたい。ある意味で、思い出に残り続ける最高のクリスマスプレゼントだ(ダニエラはそう思わないが)。

先日、ダニエラに去年のクリスマスプレゼントを尋ねてみた。彼女は笑いながら、「チョコレート」と言う。「えっ、チョコレート?」と聞き返してみると、「チリで買ったチョコレート」とはっきり言う。

クリスマスが間近に迫っている。大ベテランのパパ・ノエルこと、義父母はチリに出発した。バスタオル、チョコレート、全く法則性が見つからない。それゆえに、僕達は毎年、大きなサプライズ感に包まれるのだ。

アルゼンチンのサンタクロースたちは、チリでどんなプレゼントを調達しているのだろう。

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