褐色の積荷(3)

前(2)

 アジュメールは第一軍管区を進んでいた。眼下には広大な岩砂漠が広がり、テーブル状に張り出した台地が黒い影を落としていた。このあたりはヒグラート渓谷の裾にあたり、見通しの悪い起伏が増えてくる場所だ。言い換えれば邪な目的の船が隠れるにはピッタリの場所という事だがその分警備も厳しく、隠れている時間などないアジュメール号にとっては単なる難所でしかなかった。だが、今日はいささか事情が異なるようだった。
「妙だな、警備船がいないぞ」
 僕たちは第一軍管区の中頃まで来ていたが、未だに一隻の哨戒機にも出会っていない。今までの航海でも無かったことだ。管区境での哨戒隊の口ぶりからすれば、いつも以上の警備が敷かれていてもおかしくないはずだ。
「連中、昼寝でもしてるんですかね?」
 シウール准尉の呑気な口ぶりに、艦長が反論した。
「バカ言え、ここは正規艦隊の勢力圏だぞ。ボンクラ貴族のボロ艦隊とは訳が違う。」
 艦長が深刻な声で言うと、いつの間にか艦橋に立っていたベルティル大佐が口を挟んだ。
「何かの罠という事もあり得るか?」
「分からんな。どうにしろ、あるかどうか分からん罠を回避するために迂回する時間はないから、このまま行くしかないだろう。シュリヤ、シウール、警戒を怠るなよ!」
 艦長の命令に僕たちも気を引き締めた。

「共振器感あり、所属不明機3!近いぞ!見張員は機銃座に上がれ!」
 見張り中の僕らに艦長が叫んだ。アジュメールのデッキは死角が多く、艦後方の円錐状、及び艦底方向のほとんどに見えない部分が存在する。そこから接近してきたのだろうか?
 僕とシウール准尉はデッキにある階段から甲板の機銃座に上がった。すると、後方から所属不明機が迫るのが見えた。ゼイドラ1機、グランビア2機だ。
『降下して渓谷に入る、甲板にいる奴は振り落とされんなよ!』
 伝声管から艦長の声がすると、アジュメールはゆっくりと降下していった。下方向の死角から攻撃される危険を避けたいのと、戦闘の光で哨戒部隊を呼び寄せないためだ。
「艦長、所属不明機はゼイドラ1機、グランビア2機です!射撃しますか!?」
 僕が伝声管で伝えると、艦長の切羽詰った声が聞こえた。
『クソッ、こんなときに空賊か!迎撃しろ!』
 僕たちが機銃座についた時には、すでにグランビアは目と鼻の先だった。僕たちは先に射撃したがマトモな照準器もない機銃が当たるはずもなく、放たれた銃弾は光の帯になって空を切った。敵機は恐れること無く接近し、僕たちに向かって応射した。機銃弾が艦の上部装甲で炸裂し、僕を戦慄させた。こちらの対空機銃はむき出しで設置してあるだけで、機銃を喰らえばひとたまりもない。思い出したようにヘルメットを被り必死に応戦する。バリバリと音を立て発射される弾丸は一発も当たらず、グランビアはこちらを恐れることもなく機銃掃射を続ける。
「なんで榴弾砲を使わないんだ、なぶり殺しにする気か……!?」
 そんなことを考えながら応戦していると、機銃弾が無くなってしまった。慌てて予備弾薬を探すがどこにも見当たらない。弾切れだ。15fin重対空砲はこの距離では役立たずだ。
「艦長、弾切れです!そっちに機銃弾ありませんか!?」
『ねぇよ!そっちに置いてあるぶんで全部だ!』
「ど、どうすればいいですか!」
『艦内にヤーゲルライフルがある!それ使え!』
 飛行機相手にライフルで応戦など無茶だ。艦内に戻りながらそもそも何故予備の機銃弾が無いのだろうと疑問に思ったが、すぐに自己解決した。少しでも積載量を稼ごうとして下ろしたのだろう。規定違反だが、他の悪行に比べれば気にもならない程だ。
 ライフルをひっつかんで艦上に戻ると、シウール准尉も艦内に戻るところだった。
「新入り、本当に予備弾は無いのか!」
「ありませんよ!どうせ重くなるからって自分達で下ろしたんでしょう!」
「そんな訳……いや、そうだったかもしれねぇ……!」
 ライフルを空に向け虚しい応戦を続ける。いつの間にか艦は地上近くまで降下し、左右から台地の切り立った崖が持ち上がった。渓谷に入ったのだ。渓谷の中なら戦闘機の運動スペースも少なく、対空砲火を当てやすいかもしれない。もっとも機銃を撃ち尽くしていなければの話だが。
「艦長ぉ、これじゃ埒があきませんよ!どうにか振り切れませんか!」
 ライフルを持って帰ったシウール准尉が伝声管に向けて叫んだ。
『こちとら渓谷を全速で突っ切るのに忙しい!ここは本来な、この大きさの船がこの速度で進めるように出来てねえんだよ!』
 今にも左舷にこすりそうなほど突き出た岩を見れば、そんなことは言われなくても分かる。分かってはいるがこちらも大変なのだ。誰かに助けてもらえなければ、今にも榴弾砲が飛んできてこの船は木っ端微塵だ。誰か手が空いていて、助けてくれそうな人……
「シウール准尉、ホフマン少尉に話してみませんか?」
 僕の突拍子もない発言に、シウール准尉は驚きながら言った。
「爺さんか?確かにあの人は物持ちいいから、予備の機銃弾を持ってるかも……」
「それにいろいろ作ってますから、何か武器になりそうなものも持ってるかもしれませんよ?」
「確かにな……よし、お前聞いてこい!ここは俺に任せとけ!」
 空に向かいライフルを発射するシウール准尉を背中に見ながら、僕は艦内へと戻った。

「少尉!予備の機銃弾はありませんか!」
 機関室の扉を開けると、ホフマン少尉が床に座って生体器官を調整していた。少尉は振り返ることもせず言った。
「もう撃ちきったのか、そんなもん持っとらん!こっちだって忙しいんじゃ!」
 予備弾の方は駄目だったようだ。そうなるとホフマン少尉の秘密兵器に期待するしかない。僕は散らかって足の踏み場もない機関室へ踏み込み、何か使えそうな物が無いか見回した。すると、部屋の棚に見慣れない機関銃が置いてあるのを発見した。
「少尉、この機関銃は使えないんですか!」
「アーキルのナバンカ機関銃か?銃は使えるが弾がない!武器を探しに来たなら、この部屋に戦いに使えるものなんて無いぞい!」
 改めて棚を見ると、他にはごちゃごちゃした機械ばかりで、確かに戦いに使えそうな物は何もない。諦めて機関室を出ようとした時、壁際にぞんざいに置かれて埃を被った、円柱状の何かが目に入った。
「これは何ですか、少尉?」
 ホフマン少尉は初めて顔を上げ、ゆっくりと言った。
「それは……それは、使えるかもしれんの……」

 アーキル製、597式重空雷。円柱状の何かの正体だ。これは巡空艦用の空雷で、ホフマン少尉によれば信管は無いものの炸薬は生きているらしい。つまり爆発物として使えるということだ。どこから持ってきたのかを聞くのは諦めることにして、僕はより重要な質問を選んだ。
「でも、こんな物どうやって使うんですか?流石に戦闘機には当てられませんよ」
 僕が疑問を口にすると、ホフマン少尉はニヤリと笑った。
「ひひひ、分かっとらんの。これそのものを当てられない事など百も承知じゃ。岩にぶつけるのよ。」
「岩に、ですか?」
「そう!岩にぶつけてこいつが炸裂すれば、辺り一帯にバラバラになった石っころが飛び散る!上手く行けば連中を一網打尽じゃ!狙いは大雑把でいいから、とにかくこいつの尻に火をつけれて、船外に放り投げれば大丈夫じゃろう!」
 どう考えても楽天的が過ぎる作戦だが、それしか策はないだろう。ホフマン少尉は、させる仕事があるからシウール准尉を連れてこい、それから15fin砲用の徹甲榴弾を一発もってこいと僕に命じた。僕が戻ると、ホフマン少尉は15fin徹甲榴弾の信管を器用に外して空雷に取り付けた。作業が終わると、僕とシウール准尉がこれを貨物室へ運んだ。(機関室と貨物室がシャッターで区切られているだけだという事は、僕もシウール准尉も初めて知った事だった。)
 貨物室に入ると、相変わらずベルティル大佐の部下が積荷の警護をしていた。見慣れない物体を抱えた僕らに対しても、眉一つ動かさない。しかし積荷は貨物室の中央にあり、これでは艦尾の門扉から空雷を発射することが出来ない。僕らが立ち止まっていると、ホフマン少尉が貨物室に入ってきた。少尉は入ってきてすぐに状況を把握したのか、ベルティル大佐の部下2人に向き直った。
「コラァ!何をボサッと立っとるか!さっさとその積荷を隅に寄せろォ!」
 少尉の剣幕に男2人は困惑し、すぐに積荷を部屋の角へ動かした。
「……俺、ホフマン少尉はおとなしい人だと思ってたけど、こんな面もあるんだな……」
 シウール准尉が小声で言った。僕もあの機械のような男たちを動かせるとは全く思っていなかった、完全に同感だ。
 ホフマン少尉は酒の入った箱で2本1組の即席レールを作ると、空雷をそこに置かせ、スイッチを押して艦尾門扉を開いた。続いて伝声管に向かうと、艦橋のブロイアー艦長に向け話しだした。
「あー、こちらホフマン!今から敵機に空雷攻撃をかける!艦長、速度一定、今より一隻ぶん高度を上げて、できるだけ渓谷の中心に沿って航行出来んか!?」
 伝声管の向こうから困惑した声が返った。
『あ!?どういう事だ?何しようとしてる?空雷だって?』
「そうじゃ!とにかくお前さんに説明してるヒマは無い!艦長、出来るか!」
『爺さん、俺を誰だと思ってる!伝説のブロイアー・サーカス団長、ジークムント・オヴ・ブロイアーだぞ!空雷でも何でもいいが、きっちりやれ!』
 そう言うと、艦は右に寄って速度を落とした。空雷を発射するには都合がいいが、単純で攻撃されやすい動きでもある。
「テンダール、シウール!角度は合わせてある、ワシの合図があったら、スイッチを押して発射しろ!艦長、直線に入ったら教えてくれ!」
『もうすぐカーブが終わる……入ったぞ!』
「撃て!」
 ホフマン少尉の合図に合わせてシウール准尉がスイッチを押し込むと、ボンという音とともに空雷がレールの上を滑り、艦の外に飛び出した。空雷は貨物室を出たところで落下しながら点火し、尾部から火を吹いて飛んでいった。
「艦尾門扉を閉める!全員念の為伏せるんじゃ!」
 少尉が走って開閉スイッチを押すと、門扉がゆっくりと閉まっていった。まだ閉まりきっていない隙間から外を見ると、空雷が岩肌で炸裂するのが見えた。その激しい爆発は台地の垂直な崖を削り取り、石や岩を周囲に撒き散らした。艦の後ろについてきていた2機のグランビアは完璧なタイミングで飛び散った破片に巻き込まれ、浮遊器官を撒き散らしながら墜落した。
「ワハハハ!!見たかお前達、大成功じゃ!身の程知らずの空賊どもめ!」
 ホフマン少尉が勝ち誇った直後、ドスンという音とともに艦が上から押された。伝声管から艦長の落ち着き払った声が聞こえた。
『空賊の移乗作戦だ。総員艦内戦闘に備えろ!』

 事の顛末はこうだ。僕らの代わりに甲板に上がったベルティル大佐が対空監視をしていた所、渓谷上空、アジュメールに張り付くようにゼイドラ重戦闘機が飛んでいるのを目にした。その後、アジュメールが空雷攻撃を仕掛けるために航路を固定して一定速度で航行したのを好機とみて、ゼイドラが着艦したらしい。ベルティル大佐がパイロットに対して発砲すると敵機は旋回機銃の掃射で返してきたため、やむなく退却したそうだ。
『敵の狙いは積荷を無傷で手に入れることだろう、そのためにはこの艦をジャックする必要がある。敵は多くても5、6人といったところだろうが、俺は操艦で持ち場を離れられないし、こちらは艦橋と貨物室を守る必要がある。艦の両側に戦力が分散する分不利だがどうしようもない。ホフマン少尉、シウール准尉、テンダール上等兵は艦橋を、ベルティル大佐と部下2人は貨物室を守れ!』
 艦長の命令に従い、僕ら3人は艦橋で銃を構えた。艦橋に入る道は4つ、甲板に繋がる階段がある左右のデッキ、それと艦橋後方の2枚のドアだ。僕らは操舵輪と艦長を守るように、半円状の陣形を組んだ。照準を覗いたまま、不気味な沈黙が艦橋を支配した。だがしばらくすると、金属を切断する甲高い音が響き始めた。
「……工業用カッターの音じゃ!連中、待ち伏せを警戒したのか装甲を切断して艦内に入るらしい。乱暴な連中じゃが、空賊にしては頭が働くようじゃの。」
「爺さん、呑気なこと言ってる場合かよ!天井から連中が降ってきたらどうすんだ!」
 直後、艦尾方向で銃声が響いた。拳銃や短機関銃が発砲される音と酒瓶が割れる音、男の悲鳴が響く。貨物室ではもう始まったようだ。
「足音だ……爺さん、新入り、そろそろこっちにも来るぞ……!」
 シウール准尉が言い終えた直後、艦橋のドアが開き、何かが投げ込まれた。
「手榴弾だ!」
 僕が叫ぶのが速いか、艦長も含めてその場にいた全員がデッキへ逃げ出して伏せた。その直後、まばゆい閃光と爆音が辺りを包み、3人の空賊がドアを蹴り飛ばして入ってきた。
「クソッ、撃て!反撃しろ!」
 艦長の号令で身を起こした僕たちは、武器を掴んで破れかぶれの反撃を始めた。僕もライフルでデッキの扉越しに相手を狙ったが、相手の撃った弾が扉に当たって貫通したのを見て船体装甲の影に隠れざるを得なかった。他の船員たちもロクな船内戦闘の心得がなく、撃ち倒されることは無いが艦橋を奪還することも出来ずにいた。僕の隣りにいる艦長が脂汗を流しながら言った。
「まずい……誰も舵をとってないから、このままじゃ崖にぶつかるぞ!」
 するとその発言が聞こえたのか、反対側のデッキのドアからシウール准尉が飛び出した。
「滅茶苦茶やりやがって!くたばれ!」
 猛獣のように飛び出した准尉は空賊の一人にタックルをして床に倒し、さらにもうひとりに掴みかかった。たちまち空賊の男とシウール准尉は取っ組み合いになった。二人の位置は何度も入れ替わり、僕たちも空賊も狙いを付けられずにいる。
「お前ら、援護頼む!」
 混乱状態の中、さらに艦長が飛び出した。進行方向に崖が近づいており、舵をとらなければ正面衝突してしまうのだ。空賊の男が持つ短機関銃が艦長を狙う。僕もライフルを構えて男に発砲したが、弾は大きく外れて後ろの壁に当たった。再装填が間に合わない!
 ――その時、重い銃声とともに、男の胸が後ろから撃ち抜かれた。床に転がっていた空賊が起き上がり銃声の方に向き直ったが、その空賊もやはり頭を撃ち抜かれて倒れた。ドアから入ってきたベルティル大佐が、2人の男を一瞬で撃ち倒したのだ。シウール准尉との取っ組み合いを制した空賊が彼の銃を奪いベルティル大佐に向けたが、その空賊もやはり撃ち倒された。決着は一瞬でつき、艦橋に沈黙が戻った。
「……ベルティル大佐か、助かった……」
 艦長が操舵輪を握りながら振り返って言った。艦は少しずつ高度を上げ、廃船の危機は去った。ベルティル大佐が苦々しげに言った。
「……敵は全滅、貨物室で撃ち合いになったが荷物は無事だ。だが私の部下が……二人ともやられた。」
「そうか……。口を利いたこともない連中だったが、どこかで弔ってやらないとな。」
 すると、黙って話を聞いていたホフマン少尉が口を開いた。
「ベルティル大佐……こんなときに悪いんじゃが、貨物室で撃ち合いになったと言ったな?貨物室と機関室とは薄っぺらな防弾シャッター一枚でしか仕切られておらんのじゃ。シャッターを貫通した弾は無かったかの?」
「……分からん。だがあったかも知れん。」
 ベルティル大佐の言葉を聞き、ホフマン少尉は機関室に向かって走っていった。生体器官や循環器に傷が付いていれば大変だ。僕たちも少尉の後を追い、急いで機関室に向かった。

 ホフマン少尉の予想通り、数発の弾丸がシャッターを貫通し、生体器官に傷を負わせていた。応急治療を施すために、アンカーを下ろして艦を固定した。それから数十分、僕たち船員はどうにか生体器官の応急治療を終えた。
「急所には当たっとらんようじゃが、しばらく鎮痛剤と治療パッドが必要じゃの。シャッター越しの弾にしては随分深くまで貫通しとったからの……」
 摘出された銃弾を見て、シウール准尉が疑問を呈した。
「ホフマン爺さん、これって短機関銃用の改造弾だぞ。なんで貧乏人の空賊がこんな物使ってやがるんだ?」
「まさか……」
 准尉の指摘に何か気付いたのか、艦長はシャッターを上げて貨物室に入った。貨物室の隅には行き場が無かったのか、空賊とベルティル大佐の部下2人の死体が座らされていた。貨物室の床は血で黒く染まり、密輸貨物の箱や積荷にかけられた布を汚していた。さらに、貨物の箱の上には空賊どもが持っていた武器が積まれていた。艦長はまず空賊の死体に向けてしゃがみ込み、首の後ろを改めた。そこにはあるはずのない識別票が印刷されていた。続いて空賊が持っていた短機関銃を手に取り、じっくりと眺めた。
「首の後ろにバーコード、短機関銃にはシリアルナンバーが削られた痕。こいつら空賊じゃねぇな、多分統治省か特務委員会の実働部隊か……いずれにしろ帝国の特殊部隊だ。そういう連中は表向きの識別票とは別に、隠しやすい場所に本物の識別票を印刷しておくんだよ。任務中にチェックを求められても支障を来さないようにな。」
 艦長の話が本当なら、僕たちは帝国人と撃ち合いをしていた事になる。そんなことは今更ではあるが、祖国が敵に回ったと考えるととてつもなく恐ろしい。ライフルで撃ち合いをしていたときにすら襲ってこなかった恐怖の感情が、足元から襲いかかってきた。
「――アウグスタ・オヴ・ベルティル大佐。俺たちは帝国軍を敵に回し、逃げ回って、ついには特殊部隊と撃ち合いだ。俺たちはみんなうんざりしてるんだよ、目的も知らずに命を張らされることにな。……どうしてこんな事になった?いい加減、俺たちにも知る権利があると思わないか?」
 部下の死体と向き合って立っていたベルティル大佐が、ゆっくりと艦長に向き直った。
「荷物について詮索するな、最初に言ったはずだがな……いいだろう。そろそろ誤魔化しきれないと思っていた所だ。」
 彼女は積荷の隣に立った。”特殊機材”を覆う褐色の布に血が染み込み、今やその下半分が黒く染まっていた。その布を彼女は掴み、ゆっくりと剥がした。

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