褐色の積荷(4)

前(3)

「荷物について詮索するな、最初に言ったはずだがな……いいだろう。そろそろ誤魔化しきれないと思っていた所だ。」
 彼女は積荷の隣に立った。”特殊機材”を覆う褐色の布に血が染み込み、今やその下半分が黒く染まっていた。その布を彼女は掴み、ゆっくりと剥がした。

 そこに現れたのは、おおまかに箱型をした、歯車と金属部品、そして生体部品のいびつな塊だった。細長い面にはいくつかのレバーとハンドル、横幅のある面には数字盤と文字盤、いくつかのボタン、そして細長いスリットが付いていた。
「なんじゃこりゃ?何に使うんだ?」
「北半球の計算機に似ておるのう。わしが見たのはもう少し小さかったが……」
 船員たちが口々に感想を述べると、ベルティル大佐は咳払いをして話し始めた。
「621年、近衛騎士団によるクーデターで、多くの高級貴族が死ぬか投獄され、皇女フリッグが即位したのは覚えているな?俗に言う帝作戦だ。」
「覚えてるとも、まだ3年前の話だからな。その時は輸送任務で南パンノニアにいたから、実際に見たわけじゃないがな。」
 口を挟んだ艦長に対して大佐は、輸送任務じゃなくて密輸だろうが、とツッコミを入れ、話を続けた。
「クーデターにより帝国を掌握した近衛騎士団は、属国を手放し北半球の蛮族どもと停戦を結んだ。これは名誉あるクランダルト帝国のあるべき姿とは程遠いものだ。これまで帝国を支えてきた貴族たちを引きずり下ろし、お飾り皇帝の元に近衛騎士団が権力を恣にした結果がこれだ。」
「歴史の授業はいい、その話はこの機械とどう関係あるんだ?」
「まぁ少し待て。これはお前たちは知らないだろうが、近衛騎士団によるクーデターにも関わらず、追放あるいは亡命した貴族たちは再起し、より正統なる新帝国を立ち上げるべく六王湖へと集った。奴らを打倒し、偉大なる帝国を取り戻すためにな。だが肝心の皇帝陛下は奸臣どもに誑されているばかりだ。従って、我々には真に正統な皇帝が必要だという結論が出たのだ。」
 六王湖に建設されつつある、宮廷貴族残党による政権。彼女はそのエージェントだったのだ。その事実を突きつけられ、これまでの言動という点と点が線で繋がれた。出港時に憲兵が追ってきたのも当然の話だ。……だが、 "真に正統な皇帝" とこの機械がどう関係するのだろう?僕たちアジュメールの船員たちは、大佐の次の言葉を固唾を呑んで待った。
「この機械は真に正統なる皇帝を生み出すための道具だ。……空中艦や戦闘機に用いられる生体器官はスカイバードから取り出されているが、必ずしも狙った性能が得られるとは限らない。個体差が激しいからだ。帝国の誇る叡智、テクノクラートは兵器用生体器官を工業的に、かつ均質に量産出来ないか、長きにわたって模索していた。人造生体器官計画の実用化は経済的理由から未だに実現していないが、実験室レベルでは既に成功している。人間を一人生み出すなど、その技術を用いれば造作もない事だ。」
「人造皇帝……!」
 人が人を思うがままに作る、そんな事が許されていいのだろうか!ましてやそれが皇帝とは、狂気としか思えない!思わず僕が漏らした声に対し、大佐は相槌を打って続けた。
「その通り、そしてこの機械は使用する遺伝子を決定するための計算機の一部だ。私は科学者ではないから詳しいことは分からないが、目標となる容姿の画像、必要な能力を記した生体樹脂製パンチカードを読み込ませる事によって、どの遺伝子をどの程度編集する必要があるか決定するのだ。」
 平然と話し終えたベルティル大佐に対し、艦長が口を開いた。
「人造皇帝なぁ……しかし、そんなことまでよく俺たちに話したな?」
「帝国軍と交戦した以上、お前たちが帝国軍での任務に戻ることは出来ないだろう。賽は投げられたということだ。私とお前たちはもはや一蓮托生だ。」
「しかし、こんな計画を知ることが許されているのは六王湖の連中の中でも一握りだろう。俺たちが ”ついうっかり” 話してしまったらどうする?……それとも、俺たちを信用してるってことか?」
 艦長の軽口に、大佐は珍しく微笑を浮かべて言った。
「……そう思ってくれても構わん。」

 僕たちはベルティル大佐の部下2人を埋葬し、短い祈りを捧げた。同時にゼイドラの機首を分解して、武装と弾薬を取り出した。乗ってきた連中には必要ないが、僕たちには必要かもしれない。小休止の後、アジュメール号は再びギッザスへと進み始めた。空には茜がかかり、どこまでも続く岩砂漠と台地を赤く照らしていた。
「宮廷貴族は自分たちの皇帝をわざわざ作ってまで、帝国ごっこがしたいのかね。俺には理解できねぇな。」
 艦長席に座った艦長が、ハーブティーを飲みながら言った。
「"皇帝を作る"だなんて、正気の沙汰とは思えませんね」
 僕の感想に対し、艦長はシニカルに言った。
「そうか?高級貴族なんてのは自分の権力争いのためなら他人がどうなろうが知ったこっちゃないって連中だぞ。皇帝だって例外じゃないだろ。近衛騎士団だって宮廷貴族だって、自分たちの役に立つから神輿を担いでるだけだ。」
 僕のような一般庶民には、艦長のような割り切った考え方は出来ない。皇帝といえば神様のようなものと生まれた時から教わってきたものだ。艦長は高級貴族の家の出身だから、その視点から見ればまた違った物が見えるという事だろう。
「あいつは、納得してこの任務をやってるのか、それとも家の都合か何かで仕方なくやってるのかね。あんな若いのに重大な任務を任されるってことは、上の人間が政治に信頼できるって判子を押したって事なんだろうが……」
 ベルティル大佐のことを考える艦長をよそに対空砲の整備へ向かおうとしたその時、共振器が検知音を鳴らした。

「共振器に感あり!数は3、軽巡1に駆逐2!後方から接近してる!クソッ、もうすぐで第二軍管区だったのに……!」
 艦長は悔しそうに言い、艦内の全員を呼び集めた。艦橋に並ぶ船員たちの中から、最初にベルティル大佐が口を開いた。
「向こうはこちらを追ってきてるのか?」
「間違いない。通信も入ってる。船を止めて臨検に応じるよう言ってきている。」
「逃げ切れないか?」
「この艦は輸送艦にしては高速だから、しばらくは追いつかれないだろうが……流石に駆逐艦には追いつかれる。全速を出しても20分ともたないぞ。」
 艦長がそう言うと、大佐は机に広げてあった空図を見て、定規を当てて線を引き、勝ち誇ったようにニヤリと笑った。
「艦長、20分あれば充分だ。このままギッザス軍港に向けて直進してくれ。」

 その20分は、僕たち船員にとって一日にも感じられた。艦橋には敵艦の停船命令が絶えず響き渡り、ベルティル大佐はどこかに通信をかけていた。共振器の反応は少しずつ近づき、予測通りの時間で敵の砲戦距離に入ってしまうことを示していた。今頃機関室ではホフマン少尉とシウール准尉が生体器官を必死で宥めすかし、損傷した器官をどうにか走らせようと必死なのだろう。20分もたせれば事態が打開できるとでも言うのだろうか?
 敵艦が砲戦距離ギリギリに迫ったころ、前方に新たな共振器反応が出た。
「共振器感あり、数6!重巡1、軽巡1、駆逐4!挟み撃ちか!」
 一番聞きたくない報告だった。きっと第二軍管区の部隊だろう、後ろの哨戒隊からの通報を受けて出てきたのだ。それにしても6隻での出迎えとは、この艦も随分大物になったものだ。
「どうする、ベルティル大佐?これでゲームオーバーとか言わないだろうな?」
 焦りを隠せない艦長に対し、ベルティル大佐は汗一つかかずに命じた。
「問題ない。そのまま全速前進しろ。」
 この女は狂気に取り憑かれてしまったのだろうか?目標まであと一歩という所で全てが台無しになり、精神の均衡を失ってしまったのだろうか?僕と艦長が青ざめた顔で前方を見つめていると、その艦隊のヴァーレン級重巡から通信が入った。
『こちらは第二軍管区、第16戦隊。そちらは輸送艦アジュメール号で間違いないな?』
 艦長が通信への応答に躊躇していると、横からベルティル大佐が通信機マイクをひったくった。
「間違いない。第47高速輸送隊所属輸送艦アジュメール、指揮官のアウグスタ・オヴ・ベルティル大佐だ。」
 全てを正直に申し開きしてしまったベルティル大佐に対し、通信相手は思わぬ発言で返した。
『了解した。現在のコース・速度を維持しろ。指示は追って伝える。』
 そう言ったきり通信は切れてしまった。艦長が大佐を見上げる。
「おい、どういう事だ?……まだ俺たちに隠している事があるのか?」
 大佐はこれを軽くいなし、艦長の隣に座った。
「このまま見ていればじきに分かることだ。お前も少し、帝国政治という物を学んだほうがいいぞ。」

『アジュメール号!即座に停船せよ!駆逐艦二隻が貴艦を射程に捉えた、停船の意思が見られなければ射撃する!』
 彼らが停船に拘るのは、反逆者を捕えた功績を自分のものにするためだろうか、それとも単に規則だからだろうか。後方の哨戒隊からの通信に対し、アジュメール号はそのまま前進する事で応じる。これに対する返答は当然砲弾だ。
「回避する!捕まれ!」
 艦長の発言と同時に艦は一隻分上昇した。振り落とされそうな勢いだ。駆逐艦の砲弾は艦尾をかすめ、砂漠に落ちて炸裂した。
『アジュメール号、速度をゆるめて停船せよ。』
 前方の重巡からも通信が入った。戸惑う艦長に、ベルティル大佐が従うよう促した。艦は速度を落とし、前後の艦隊の中間点で停止した。後方の軽巡が帝国周波数で通信をかける。
『こちらは第一軍管区、第28哨戒隊。前方の重巡は第二軍管区か?』
『そうだ、我々は第二軍管区、第16戦隊。政治的・軍事的理由により、この艦は我々が預かる。』
『何!?そんな話は聞いていないぞ!命令書を照会する、番号を読み上げて……』
 第一軍管区哨戒隊の通信は轟音とともに途切れた。第二軍管区のヴァーレン級重巡が突如、彼らに向けて発砲したのだ。
「何だ……何が起こってる?」
 重巡の25fin砲弾が軽巡に突き刺さり、その船体を真っ二つにへし折った。軽巡が爆発四散する光が、艦橋を真昼のように照らす。これに呼応するように第二軍管区の軽巡と駆逐たちも、第28哨戒隊の生き残りに砲火を浴びせ、1分も経たずに全ての艦を粉々にした。戦いが終わるとすぐに重巡と軽巡から小型艇が発艦し、第一軍管区の生存者たちの回収に向かった。そして、その重巡から再び通信が入った。
『アジュメール号、脅威は排除した。駆逐艦が先導する、ギッザス軍港へ急いでくれ。』
 重巡艦長の冷徹な声がスピーカー越しに聞こえる。僕には一体何が起こったのかまるで分からなかったが、艦長には察しが付いたらしかった。
「……なるほどな、これが ”帝国政治” って訳か……」

 夜が更けて2つの月が砂漠を照らす頃、ギッザスの光がアジュメール号を迎えた。上空から見るギッザスは群島のようであり、いくつかのモジュールが集まった異質な都市だ。インダスラトリーゼとは部分的に似てはいるが、やはり異なる都市だ。防衛塔からのサーチライトに照らされながら、アジュメールは軍港のドッグに接舷した。ドッグには最低限の設備があるだけで装飾などは無く、帝都のドッグと比べれば実用性重視のシンプルなものだった。照明に照らされた桟橋が降りてきて、アジュメールとドッグを繋いだ。
「諸君、本当にご苦労だった。私は荷物の引き渡しと必要書類の記入がある、すまないが一時間ほど艦内で待機してくれ。」
 ベルティル大佐はそう言うと、出迎えの士官から書類を受け取って出ていった。艦橋には僕と艦長だけが残された。残りの2人は機関室だ。
「艦長、第二軍管区の艦隊は、六王湖軍閥の実働部隊だったって事なんでしょうか?」
 僕の問いかけに、艦長は頷いた。
「そういう事だな。連中が第一軍管区の哨戒隊に奇襲をかけて撃沈したのも証拠隠滅の為だろう。沈めた後すぐに救助活動を始めたのも、目撃者を帝国軍へ返さないためだろうな。」
「なるほど……僕らに発砲してきた相手に言うことじゃないかもしれませんが、第一軍管区の人たちも可哀想ですね。」
 僕がそう言うと、艦長は深い溜息とともに同意した。
「全くその通りだ。連中は真面目に皇帝と祖国に従っただけなのに、最期の運命が味方だと思ってた奴からの騙し討ちだからな。貴族の勢力争いでボロ布のように人が死ぬ。この国じゃ何百年と続いてきた伝統だろうが、殺された方はたまんねぇな。」
 艦長は沈んだ顔で艦橋の外を眺めていたが、突然椅子から立ち上がった。その顔は悪意のある笑い顔だった。
「……一つ、いい事を思いついた。貴族連中に振り回され死んでいった奴らの無念、そして大変な思いをした俺たちの憂さを晴らす方法をな!シウールとホフマンを呼んで来い!俺は貨物室にいる!」

 貨物室に向かうと、そこにはアジュメールの船員たちが集まっていた。彼らは布を剥がした積荷を囲んでいた。
「艦長、これどうするんです?まさかぶっ壊すとか言うんじゃないんでしょうね?」
 シウール准尉が艦長の貴族嫌いを憂慮すると、艦長は否定した。
「そんなことしたらここの連中に捕まってなぶり殺しにされちまう。それにせっかくここまで運んできたんだからな、有効活用しないと勿体ないだろ……」
 有効活用?また艦長の悪巧みが始まったようだ。僕は置いてある空の箱に座った。
「ホフマン少尉、この機械動かせるか?」
「う~ん、まぁ動かせるじゃろ。でもこれで何するんじゃ?」
 ホフマン少尉は全員の疑問を代弁した。艦長はおもむろに懐からアーキルのポルノ雑誌を取り出した。恐らくは密輸品を買うときに一緒に購入したのだろう、艦長の私物だ。
「あいつはこの機械のことを、人造皇帝作成において使用する遺伝子を決定するための計算機の一部と言っていた。目標となる容姿の画像を読み込ませられるともな。」
「……その雑誌を読み込ませるんですか?でも何の意味があるんです?」
 僕の質問に対し、艦長は笑って言った。
「無ぇよ。でも、貴族連中が駆けずり回り、他人の命を使い捨てにしてまで奪い合ったものに細工が出来るチャンスがあるのに、タダで渡してやるのは虫酸が走るだろ?連中の人造皇帝がアーキルの褐色娘になる方が百倍面白い。」
 呆れた。艦長の思考回路はイタズラ好きの悪ガキと一緒だ。……しかし、ここまでの旅では逆らえない大きな力に散々振り回され、死にかけたのも事実だ。くだらないイタズラで一矢報いるのも悪くないかもしれない。
「ハハハ!何を言い出すかと思えばそんな事か!気に入った!ワシが機械を起動するから、ベルティル大佐が帰ってくる前にさっさとするんじゃ!」
 他の乗員たちも同じ考えだったのか、このイタズラは全会一致で決行された。こうして、僕たちの旅とささやかな復讐が終わった。

 事務処理を終えて帰ってきたベルティル大佐は、僕たち全員を集めて話しはじめた。
「アジュメール乗員諸君、ここまでご苦労だった。……実を言うと、私は最初のうち、君たちを規律もクソもない落ちこぼれどもだと思っていた。それから、何かあったら君たちを切り捨ててでも任務を完遂しようともな。だが、諸君の奮戦とチームワークを見て認識を改めた。例え密輸に手を染めていようと、その仕事ぶりは本物だし、血の通った情のある人間だと分かった。改めて礼を言う。……もし君たちさえ良ければ、全員を我々の輸送艦隊で雇用したい。階級面では融通が効くだろう。どうだ、考えてみてくれないか?」
 六王湖軍での勤務。帝国に対し秘密裏に敵対し、時には同じ帝国人に砲を向けることもある危険な仕事だ。だが報酬は期待できるだろう。僕たち船員は艦長の決断を待った。
「悪いがお断りだな。俺たちにはもう、貴族サマに仕えて使い潰されるのに耐えていられるだけの忍耐が残ってないのさ。自分でフネを買って、まっとうな輸送業者でもやるよ。」
「それがいいですよ艦長。今回は酷い目にあった、もう戦争や政争はゴメンですからね!」
 シウール准尉が同意した。民間商船としての仕事は大変だろうが、偽空賊に一発も当てられなかった僕たちが軍に居続けるのはもっと大変だ。それに誰にも指図されない自由な仕事は僕たちに合っているだろう。僕とホフマン少尉も艦長の決断を支持した。すると、ベルティル大佐は笑って言った。
「それは残念だ。まぁ、そう言うと思ってはいたがな。……ところで艦長、私がリューリア大管区で言ったことを覚えているか?」
「え?何か言ってたか?」
 艦長の返答に、大佐はくつくつと笑った。
「自分に都合のいい事は覚えているタイプだと思ったんだが……"この仕事が終わったら商船を持ちたい"、自分でそう言っただろう?そして、私は口利きしてやると言ったんだよ。」
「本気だったのか!」
「もちろん、もう話は通してある。お前が望むなら、この船を持っていってもいいぞ。」
 艦長は目を輝かせた。この瞬間から、アジュメール号は艦長の持ち船となったのだ。
「……積荷を下ろし終えたようだ、私はそろそろ失礼する。機会があればまた会おう。」
「悪いな、ベルティル大佐!達者でな!……よし、お前たち!今日はここで一泊するぞ。明日は船体を塗り直して整備を受け、済み次第カルタグに向かう!残った積荷を売り払わなきゃならねぇからな!」
 僕たちがあの機械にした細工を考えると、悪いでは済まされない気がするが……。ともあれ、僕たちは用事を済ませ、翌々日にはカルタグへと向かった。貿易商としての生活の始まりだった。

 それから10年ほどが過ぎた。僕たちが自由商人として活動するにあたって、六王湖政権は”軍や政府からの輸送依頼は優先して受ける”という条件を出したのみで、その他に成約は無かった。大っぴらに物資を調達できない彼らにとって、自由商人は大きな価値のある存在なのだろう。おかげで商売は繁盛し、僕たちはそれぞれ自分のフネを持てるまでになった。
 僕は日刊六王湖新聞を購入し、自分の船がある民間港の荷役用ドックへと向かった。艦長席に座り新聞を開くと、一面には大きな文字で「六王湖の女帝アイギス即位」と書かれていた。女帝アイギス。あの人造皇帝計画の成果ということか。あの時は確か機械を運ばされて大変な目にあった……。目線を下ろすと、そこには戴冠する女帝アイギスの写真があった。薄着姿にきらびやかな装飾を纏い、アーキル人のような褐色の肌を晒す美しい少女だ。……アーキル人のような、褐色の肌?
 当時の記憶を鮮明に思い出した僕は、電話を引っ掴んで叫んだ。
「艦長!ブロイアー艦長!今日のニュース見ましたか!」

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