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コロナ禍でも強かったワークマンが提言するファッション小売業の未来とは【ILY, Designability cast】

ワークマンを考察するシリーズの最終回は「ワークマンとコロナと小売の未来」についてです。1回目は「ワークマンの成長とその理由について」、2回目は「ワークマンのデザイン経営」についてまとめました。是非1〜2回目の記事も読んだ上でお楽しみください。

作業服の小売業だったワークマンが、2018年にカジュアル衣料品「WORKMAN Plus+(ワークマンプラス)」を出店して約2年。今ではユニクロの国内店舗数を超えるほどの急成長をしています。急成長の裏には、どのような要因があったのでしょうか。同社の業務変換、商品力など、様々な角度から考察し、3回にわたってpodcast配信をしました。
『ワークマンは 商品を変えずに売り方を変えただけで なぜ2倍売れたのか』(日経BP)を参考図書として、本の内容にも触れています。

ワークマンが変えたこと、変えなかったこと

ワークマンは、新型コロナウィルスによって社会が変わる以前から、業務変換やデジタル・トランスフォーメーションを進めていましたが、成長の中で、変えたこと、変えなかったことがあります。それぞれ、どんなことでしょうか。まずは、変えたことから確認していきたいと思います。
ワークマンが変えたことの一つ目は、オペレーション・エクセレンシーから、プロダクト・エクセレンシー企業への変換です。バリューチェーンや店舗など現場のオペレーション価値の最大化から、プロダクトにフォーカスするということですね。。
二つ目は、前例踏襲からデータ経営への移行です。前例踏襲とは、「去年はこれが売れたから、今年もこれを売ろう」ということですが、データ経営というのは、きちんとデータを分析して、何がどう動いているのかを理解して、それに応じて変えていくということです。
三つ目は、本気の経営、つまり、やるといったことは必ずやるという姿勢を見せたということです。同社の常務は、「カジュアルウェアに舵を切る」と宣言した後、自分自身の服を、すべてワークマンの服に変えたそうです。「この人は本気なのだ」と見せつけることで、社員のやる気に火をつける効果があったのではないでしょうか。
最後は、トレードオフ経営への転換です。前例踏襲をやめたことと似ていますが、新しい事業に取り組むときに、今までの取り組みに追加すると苦しくなります。ですから、何か新しいことを始める代わりに、今までやってきたことをやめる、つまりトレードオフすることに決めたのです。
以上が、ワークマンが変えた主な4つですが、変えなかったことも4つあります。標準化経営、ローコスト経営、やらないことが決まっている経営、ステークホルダーの長期固定です。ステークホルダーの長期固定とは、積み重ねた信頼を大切にするということですね。以上のように、変えるべきことは変える、大事にすることは大事に守っています。

コロナ禍でも成長を遂げたワークマンの強みとは

コロナの影響で、私たちの消費スタイルは変わりました。外出を控えるようになり、実店舗で買い物をすることが減り、店舗滞在時間も短くなっています。コロナの影響を一番受けている業界の一つが、飲食業ですね。在宅ワークでメイクをしなくなったので、メイク用品の消費も激減しています。もちろん、ファッション業界も大きな打撃を受けています。特に、外出時に着るファッション性の高い洋服は、売れなくなっています。一方で、スポーツウェア、着心地のいいコンフォートウェアは伸びています。こうした状況下でのワークマンについて、話したいと思います。
ワークマンは、小売業が一時閉店する中でも、店舗を閉めませんでした。医療従事者やインフラを整備する職人さんたちは、「エッセンシャルワーカー」と呼ばれ、通常通りに活動していたわけですが、ワークマンも、エッセンシャルワーカーである職人さんたちが買いに来るので、営業を継続していたのです。そういう意味では「ワークマン自体も、インフラだ」と気づいたわけです。アパレル業界やファッション小売業の売り上げが激減している中、ワークマンが伸びたのは、コロナ禍でもニーズが高い商品を売っていたこと、コンフォートウェアとしての切り口があったということ、つまり情勢にのっていたということではないでしょうか。
ワークマンの業態変化がうまくいったのは、既存リソースを活かしながら時代の変化にのれたこと、データを活用して取り組んだこと、さらに時代を先取りする嗅覚があったから。作業服からカジュアル衣料に舵を切っても遜色ない商品力、機能性の高さで、市場の優勢を獲得できたのは、すばらしいですね。
新規ビジネスで成功するには、情報を集め、観察し、嗅ぎとる力が大切です。点と点の要素がつながり、面になったときに、「次はこれがくるな」ということがわかり、ビジネスが生まれるのですね。それこそが、デザイン経営的だなと思います。ちなみにワークマンでは、コロナを経て、これからは不要不急の仕事をしない勇気を持つことが大切だとか、ハレの消費から等身大の消費に移行するよね、といった気づきもあったそうです。

ワークマンから、小売業の未来への3つの提言

ワークマンは、ファッション小売業の未来に対する3つの提言をしています。1.同質経営・同質競争ではない独自のポジションを獲得する、2.頭打ちになったら、2の矢、3の矢を打つ、3.経営陣は口出ししない、です。

1.   同質経営・同質競争ではない独自のポジションを獲得する
特にファッション小売の場合、似た属性の人や知人同士による同質経営が多いですね。また、みんなが同じレッドオーシャンに存在して、骨肉の争いが発生している場合もあります。そうではなく、戦いを略すことが戦略であって、独自ポジションを築いていくことを重視した方がいいのではないか、と提言しています。ユニクロの柳井社長も、同様のことを言っていたと思います。

2.   頭打ちになったら、2の矢、3の矢を打つ
なぜワークマンは、カジュアルファッションを名乗る方向に舵を切ったのでしょうか。日本で職人さんの数はどんどん減っているので、たとえ今、安定的に売っているとしても、このままだと企業が衰退していくのが目に見えているわけです。頭打ちになることが見えていたので、次の矢としてカジュアル衣料に舵を切ったということですね。

3.   経営者は口出ししない方がいい
ワークマンには、経営者以上に、ワークマンの商品を熟知しているメーカー担当者やアンバサダーがいます。経営者は余計な口出しをしないで、よく知っている人に任せて、ニーズを捉えればいいということですね。上記以外にも、「時代の変化を先取りする」、「一度決めた方針は愚直に徹底していく」なども提言として挙がっていました。どれも示唆に富む提言ですね。

以上で、3回にわたるワークマンの話は終わります。時代の波にのって急成長を遂げたワークマンからは、業態変換やデザイン経営ほか、業界を超えて学べることも多く興味深いですね。

Thank you, we love you!

私たちILY,は、ロゴ制作やビジュアルデザインなどの”見た目のデザイン”にとどまらず、MVV策定や事業・サービスのコンセプト設計などの”コトのデザイン”もご提供しております。お気軽にご相談ください。

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ILY, inc CEO
Business Designer

辻原咲紀

新卒でデザインプロダクトメーカーに就職、営業・マーケティング・商品企画・デザインの領域を横断し担当。インハウスでの広告制作やブランディング・アートディレクションに携わり独立。ベンチャー企業への技術提供・企業立ち上げなどを経て、0→1、1→100まで幅広いデザインに従事。2016年にデザインのコンサルティング&クリエイティブエージェンシーのILY.incを設立。経営・事業開発・コミュニケーションなど領域を横断した様々なデザインに取り組む。広島市立大学非常勤講師


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Director / PR manager
服部麻優

WEBプロモーション会社でSEO・リスティング広告などの業務に携わった後、制作部門の立ち上げと部門 マネージャーを務める。 複数プロジェクトを同時に進行管理するだけでなく、品質管理のためのガイドライン・フォーマットを整 備し、チーム内への実施を徹底。各ステークホルダーとの情報の連携についてもツールでの一元管理の方 法を確立している。 経営PRなどディレクション領域を超えて業務に従事し、プロジェクトの範囲に留まらず、クライアントのビジネス全体への提案を実践。

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