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【書評】推しエコノミー

見出し画像、Adobe Firefly(Beta) / Adobe Expressで試しに作ってみた。

#今回の挑戦

★書誌データ★

版元公式HP。目次と「はじめに」が読める。



★関連書籍★

この本を読んでいて気づいたものや気になったもの。
いずれも現時点で未読だが、情報として記しておく。

・中山淳雄『オタク経済圏創世記』

著者の前著。本書中で何度か引き合いにされる。
本書の1章2章で述べられた内容は、これと大きく被っているとのこと。
既に読んだ人はその点に留意しておくと効率的。


・週刊東洋経済 2023年5月27日号 特集アニメ熱狂のカラクリ

経済週刊誌のアニメ特集号。比較的最近のもの。
ここにも中山淳雄氏の記事が載っている。



★キーワード★

この本を読んで自分なりに着目した項目を書き出してみた。がしかし、膨大になりネタバレ的でもあるので、別noteにした。ご関心あればクリックしてご覧いただければ。



★感想など★

なぜこの本を読もうと思ったか。ちょっとぼんやりしてる。

きっかけとしては、以前読んだ『アイドル・スタディーズ』(その時書いた書評note)をAmazonで検索したとき、この本がレコメンド表示され目に留まったことだったと思う。

その点では、中身ではなく装丁の話になるが、出版サイドの書影(表紙デザイン)戦略に自分は見事に引っ掛かったと言える。ビビッドなカラーを地にすることでAmazon上で左右の類書に埋没することなくアイコンとして浮かび上がり、そして同時に、「相撲文字」と見紛うほどデカく太く印字することでアイコン表示のままでもタイトルが瞬時に視覚情報→文字情報化し脳裏に刻まれる。一歩間違えば品を欠いた印象を与える色物扱いされかねない、冒険したあるいは攻めたブックデザイン。この本の節々で覗えた著者の心情というか心粋にも、マッチしているように思う。


この著者の本を読んだのは、これが初めて。前著『オタク経済圏創世記』も有名なのかもしれないが未読。ちなみに、比較的書評系記事の投稿が多いnote内で #推しエコノミー で検索してみたが、思いのほかヒットしなかった。キャッチーで「とりあえず読んでみようか手を出してみようか」と思えそうなタイトル・テーマの本なので、ちょっと意外な気がした。気になって #オタク経済圏創世記 の方も確認したが、やはり同様、そちらもあまり出てこなかった。


* * *

前置きはこれくらいにして、本題。本書の私的感想をまとめるなら、「熱い」「読み応えあり」「知識が増え、理解が深まった」といったあたり。

実用性という観点では、これからエンタメ業界やデジタルコンテンツ産業に飛び込む、あるいはマネジメント的に関わるという人には、重宝するであろうことは間違いない。多面的で分析的な記述が豊富なので、「ヒット産業」に対し投資的な行為をする人にも、参考になりそう。たとえば、エンタメ業界の株を積極的に「推し買い」することで最終的にエンタメ業界そのものの支えにもなるようだと、夢と実利が一致して、素晴らしい。夢を作る人のために夢を買う、みたいな。


感想について、もう少し詳述する。

熱さ。著者はこの本を2ヶ月で一挙に書き上げたという(p.275 「執筆は2ヶ月で完了した。」)。たしかにそれが感じ取れる叙述的記述であり、またごく短期間で一挙に書き上げられたため、本書全体を通底した著者の思想スタンス的なものにブレはない。


読み応え。この点に関しては目次(本稿冒頭に挙げた版元HPでも読める)を一瞥するのが早い。ここ10年~20年エンタメ関連でニュースとなったような事柄から経済的インパクトの大きいものが縦横無尽にとりあげられ、その「裏幕」が語られている。いわゆる「とくダネ」「コラム」「ニュースの深堀り」的な内容が、手を替え品を替え繰り広げられ、「語り」として読んでいて飽きない。


知識・理解。いくら面白い話題が舌鋒鋭く語られたところで、エビデンスが貧弱だったり考察が浅かったり論理に飛躍があったりすると、読み物としては楽しめても受け取りとしては話半分で終わる。その点本書は、データ・グラフ・その他図解の類(いわゆるパラテキスト)のソースが豊富で、またテキストも(個々においては)主張・論旨展開・構成が明快で、かなりの度合い・範囲において、読み手として述べられたとおり受け取って問題ないと感じた。また、エビデンスとは少し異なるが、話の流れの中随所で披露される豆知識・小話はこれぞ「ザ・教養」という感じで、本書の文脈から切り離して単独の知識としても充分有用、少なくとも何かの雑談のタネにはなるものが多かった。例えば、従来「女のモテテク」と言われていた「さ・し・す・せ・そ」が、VRMMO上ではどうアップデートされているのか、など。



以上、読んで充分元は取れたという評価だが、褒めるだけの記事というのも胡散臭いので、重箱の隅をつつくようで若干後ろめたくはあるが、個人的に気になった点も幾つか挙げる。


まず、著者が中年の男性なので、やはり着目し言及・分析されているコンテンツはどうしてもその属性に寄っている。

コンテンツ制作会社の単位でしくみについて語られる場合などでは、市場規模などの観点で分析されるだけなので偏りは生じないが、「ヒットしたコンテンツ」個々の分析については、中年の男性の経験・関心の中からセレクトしているなとは感じる。

なので、プロフィールを同じくする「中年男性」の読者ならば、この本はとても読み易いだろう。しかし、たとえば、今20代前半の女性がこの本を開いたとしたら、全体としてどのような第一印象を持つだろうか。「物知り&お喋り好きオジサンの話に延々と付き合ってる」感は抱くかもしれない。一般的に女性向けのコンテンツやキャラクター、たとえばジャニーズや宝塚なども少しは引き合いにされているし、ハローキティも図表中に登場したりもするが、それらが中心的話題として語られたテキストの分量は非常に少なかったように思う。

出版企画としては、著者のプロフィールに近い層がターゲットなのかもしれない。ただ、そう書きながらやや矛盾したことを述べるが、個人的には、この本はスマホを触るすべての人にとって、読めばそれぞれの立場に応じて有益な何かを得られる内容に思えた。個人的ポリシーか世代的傾向かなどといった要因は問わず「スマホでゲームなどしない」というタイプの人であっても、逆にやらないからこそ、自分の周囲で沢山の人に何が起きているのか(何をやっているのか、より)についてはこのような本で要領よく知っておきたいものでは。


次に、パラテキスト(掲載図版・表など)に関して。これは気になる点が3つ。

1点目は、統計やグラフの出典表記。「各社IR資料から著者作成」。これは、受け入れられる。しかし、「各種調査結果から著者作成」は、さすがにちょっと乱暴すぎる。厳密にソース全てをその構成方法も含め開示しろ、とは言わないが、主だったソースいくつかぐらいは具体的に挙げるべきだろう。いくら「日本の」「ビジネス書」とは言え。著者経歴によると刊行時には社会学者と実務支援家の二足わらじとのことだが、このような統計・ファクトの提示の仕方をして、学者としての良心は痛みませんか。

2点目。元々の図表がカラーを前提としており、モノクログラデュエーション印刷では色味が潰れてしまい判別が困難なグラフが幾つかあった。系列数の多い折れ線グラフなど。この辺り、版元である日経BPの編集はちゃんとチェックしてGOサインを出しているのだろうか。そうは思えない。

3点目。これも些細な指摘だが、しかし知識の本として手を抜かないで欲しかったこと。繰り返しになるが、この本はパラテキストが豊富で、しかも非常に有用なものが多い。その点だけでも、この本を買って手持ち資料として保有する価値がある。しかし、残念ながら、「図表一覧」が付いてない。著者も出版社も、この本は図表だけでも相当価値があると分かっていると思うのだが。著者でも出版社でもどちらがやろうとも、読者としては品質さえ担保されていればどちらでも構わないのだが、どうして図表一覧を付けないのだろう。


* * *

この本を読み終えた後本屋を回遊していてふと、最近話題になった以下の本が目に留まり、読んでみたくなった。読み比べることで、より深い何かを見い出せそうな気がして。



★おまけ:「推し」とは英語で?★


ググるとこんな感じだった。



一方、この本の表紙では「推しエコノミー」が「STAN economy」と英語表記されている。STANをグーグルに問い合わせると、

なるほど。


「絵文字」→「emoji」のように
「推し」→「Oshi」として
元の言葉そのままでグローバルな概念として広まったら
面白いのでは、と思った。


。。。よもやと思い念の為「Oshi」でググったらこう出てきた。
切りがないので、ここで切り上げる。



これくらいで。
まとめるのが難しく
記事が長くなってしまった。。



以 上


誠にありがとうございます。またこんなトピックで書きますね。