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【書評】アイドル・スタディーズ

これも年末年始に読んだ一冊。

キャッチーなタイトルだが、中の記述様式は学術書のそれが意識されている。


★書誌データ★
概要は、ここの目次を眺めると良い。


この書評を書くためちょっとだけググって発見。先日重版したとのこと。


アイドル研究そのものは、現状学問分野として確立したものではない。その点は冒頭で率直に述べられている。

研究する意義がない訳ではない。問いは立てられるし、研究方法も訴求することはできる。ただし、学術領域的専門性(いわゆる「ディシプリン discipline」)を形成していないので、何らかの成果を示すには、それらの妥当性を一から研究者が自ら説き起こさねばならない。これは、先行研究と言うより関連研究を、嗅覚を効かせいろいろなソースの断片から拾い集め立論しなければいけないことと相まって、想像を絶する労力・根気・文才を要する。もしこれらを放棄したなら、いくら学際的テーマと謳ったところで、学術的成果として取り合ってもらえないだろう。後続の研究者のために(あるいは自らが今後集団として研究活動を持続するために)その足がかりとなるような本を出すことの意義は、非常に納得できる。

この本の内容の完成度・質については、客観的にどこまでの水準にあるのか、例えば「アイドル文化/現象/ファン研究の概説書」足り得ているのかなどは、私には分からない。しかし、今後容易に引用できる形で、寄稿者各自の論考と研究事例が世に公にされたことが有用なことは、間違いない。
ただ、形式的な点でもったいないと思ったので指摘するが、なぜ索引を作らなかったのだろう。学問領域や研究者により意見は様々だが、特に人文系の学術書を標榜するのなら、しかるべく索引をちゃんと作って付けるべきだったのでは。この点については、参考までに「本の雑誌」2022年10号の特集「あなたの知らない索引の世界」、中でも特に三中信宏の論考「索引のない本はただの紙束である!」を引き合いに提示させていただく。


テーマがテーマだけに、読んでいてどうしても自分の関心や知見、あるいは体験(「人生で通った道」)に触れる部分に読み込みが偏ってしまうのは、避けられない。その点で私が惹きつけられたのは、「第7章 語る方法としてのアイドル関連同人誌」と、「第8章 アイドル文化におけるチェキ論――関係性を写し出すメディアとして」である。私はメディア的な側面に関心が高いのだろう。


この本の売りだと思うが、同時に「もっと内容が厚いと良いのにな」と思ったのは、「第Ⅰ部 アイドル研究の展開」。この部は丸ごと総論で、あとが各論かと思いきや(それが自然だしバランスが良いと思うのだが)、私が読んだ感覚では、総論的なのは第Ⅰ部の1章留まりで、残りの2章3章はもう個別の研究テーマを設定した各論が始まっていた。もし今後この本を改版し内容を育てていくというのならば、第Ⅰ部は明確に総論に徹し、総論の記述だけで今時点の3章分充実されることを、期待する。例えばカルチュラル・スタディーズについてもっと説明しても良いと思うし、隣接領域として消費文化論や大衆文化論などへの言及(記号論にも触れてもよいかもしれない)、それらとの関係性やそれらの研究動向などについても考察されても良いのでは。


。。。と偉そうなことを書いたが、その実楽しく読ませていただきました。


以 上

誠にありがとうございます。またこんなトピックで書きますね。