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「首吊り廃墟」の真相

 大阪の有名な心霊スポットの一つに「首吊り廃墟」と呼ばれる火災の痕が残る廃墟がある。
 心霊スポットの割には市街の真っ只中にあり、大阪のランドマークタワー通天閣がある新世界と呼ばれる繁華街の中にある。肝試しをしようにも繁華街の中にあるため心霊スポットにしては随分と明るい。不思議な存在感を纏っており、街中にある廃墟にしては珍しく30年間もの間取り壊されもせずにあり続けている。

少し入ればすぐに建物は見える

 心霊スポットとして印象に残りやすいエピソードも多く、ネットや怪談でよく語られている話の概要として、
「向かいにあるスパワールドに宿泊していた客が何気なく窓から見える景色を撮影していたのだが、撮影した写真を見ていたら不思議なビルが目に止まった。不気味なビルだと写真を眺めていると、屋上に人影のようなものが写っているのに気付いた。気になってスパワールドの従業員に連絡したところ、従業員から通報が入り警察が駆け付けた。屋上を調べてみると死体がぶら下がっていたのだった」
 さらに別バージョンもあり、
「白骨死体の話を知ったある青年が首吊り廃墟に見物に行ったときに、ビル屋内に大きな人形がぶら下がっているのを発見する。その人形の周りにはいくつもの靴が一緒にぶら下がっていたらしい。不気味に思いながらも青年は帰宅した。その数日後にそのビルの屋内で首つり死体が発見された事を彼はニュースで知った」
 他にも、
「肝試しにビルを見てみたらミッキーマウスの大きな人形が吊り下げられていた。ホームレスが変なことをしたのだろうと思ったのだが、後から死体発見のニュースになっているのを見た。よく考えてみたら、腐乱してパンパンに腫れ上がった手がミッキーマウスの手のように見えたのだ」
 そして「一体の死体が発見された際に、これまでに計3体の死体がこの場所で見つかった話を聞いた」というのがこの「首吊り廃墟」にまつわる代表的なエピソードである。これらのエピソードで共通するのが、「吊り下がっていた死体」「吊り下がっていた大量の靴」「これまでに3体目の遺体発見」さて、気になったので、詳しく調べてみた。
 まず土地についてだが、ここは大阪市浪速区にあり「ジャンジャン横丁」と呼ばれる繁華街の真っ只中にある。
 ネットでは首吊り廃墟近辺は大阪国技館跡と書かれているものもある。この土地近辺について調べてみると、確かに大阪国技館跡の碑がある。ここは1878年(明治11年)に大阪相撲協会が設立され、常設の興行場所を設けるため大正8年(1919年)9月に、東京両国の国技館に対抗して、鉄筋コンクリート・煉瓦造、建築面積約2000平方メートル、ドーム式の大阪国技館が建設された。しかし協会内部で紛争が続き、1927年(昭和2年)には東西相撲の合併で大日本相撲協会が設立されると、相撲興行の中心は東京の両国国技館となった。国技館の建物はしばらくは残っていたが、第2次世界大戦前に解体され、その後は空き地となっていた。呪いや殺人、事故などの曰くは見当たらず首吊り廃墟と直接の関係はなさそうだ。
 次に、エピソードの事実について調べてみた。結論から言うが、「ミッキーマウスの手の話」や「屋内に人形のようなものがぶら下がっていた話」、「合計3体の死体が見つかった話」はその事実が確認できなかった。おそらく、最初のエピソードに尾ひれがついた都市伝説的作話だと思われる。
 ここからは事実関係が確認できた内容である。まず、「靴が無数にぶら下がっていた話」であるが、確かに首吊り廃墟の1階に大量の靴は存在しており、そのうちのいくつかは靴紐を使って吊られていた。これは、Youtuberであるbbb3waveさんが2013年4月5日にアップしている「【心霊】首吊り廃墟に潜入・大阪新世界osaka hanging ruins」という動画でその一端を確認することができる。

「【心霊】首吊り廃墟に潜入・大阪新世界osaka hanging ruins」より

 ここからその噂が流れただけではないとは考えるが、遊び半分で吊るした人間がいて、それを見た者たちが口承して伝播したのだろう。実際に大量の靴が落ちていた理由であるが、その理由は新聞記事から見つけることができた。産経新聞の2005年(平成17年)3月5日の記事に「靴店が倉庫として使用していた4階建てのビルの屋上に〜」と記載があった。ネット上の情報では飲食店などの入る雑居ビルとの記事もあったが、元々は靴の倉庫だったらしく、燃え残った靴が大量に残っていても不思議ではない。
 このビル、いつ燃えたのであろうか。調べてみると火災の新聞記事も確認することができた。火災があったのは1998年(平成10年)8月1日午後4時30分ごろ、「通称ジャンジャン横丁北側付近より出火し、木造2階建て飲食店や住宅7棟など計950平方メートルが焼失したが、怪我人はなかった」(朝日新聞より)ということであり、火災の際にも死亡者はおらず曰くの根源とはなっていない。
 このビルが23年間取り壊しを免れていたのは、おそらく所有者と連絡が取れないためだ。ネットの情報では住所は大阪市浪速区恵美須東3丁目4−3と書いてあることが多いが、「マップナビおおさか」の「固定資産地籍図」によると、どうも3丁目2−6あたりだと思われる。登記事項証明書で所有者やいつ建てられたものか確認できそうだが、ここの心霊スポットの曰くに直接の関係はなさそうだ。

おそらくこの辺り

 最後にこのスポットの目玉エピソードである「宿泊中のスパワールドから首吊り死体が見えた」詳細であるが、2005年8月の産経新聞、朝日新聞にその記事を見ることができた。
 それぞれの記事を総合した内容を記すと「8月3日、スパワールド6階に宿泊していた客が6階窓から外の景色を撮影したところ、スパワールドの裏にある4階建てのビルの屋上に人骨のようなものが見えたとスパワールドのホームページにメールがあった。それを確認した従業員が浪速署に連絡。警察が確認すると屋上で全身白骨化した遺体を発見。近くには男性用ズボンのみあり、他に所持品はなかった。1998年に火災が起きたこの4階建てのビルは靴店が倉庫として使用していた」との報道であった。
 「首吊り」の名はおそらく吊るされた靴から由来したのかもしれないが、確かに屋上で遺体は発見されていた。内容は少し変わっている部分もあるが、事実に近いの口承となっていたようだ。ただ事実は小説よりも奇なりで、遺体の所持品はズボンだけでむしろ不可思議さを増した。何より「首吊り廃墟」は異世界への歪みを残し、残存する貴重な心霊スポットとして強烈な存在感を今も放っている。

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