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結局、デザイン・シンキングとは何か

本投稿は、2015.05.15のi.lab BLOG「Path to Innovation」からの転載です。

最近、「デザイン・シンキング(=デザイン思考)」や「人間中心イノベーション」、「デザインドリブン・イノベーション」と呼ばれる方法論の新製品・サービス開発への適用可能性が話題になっています。これらの方法論と、これまでの技術起点のアプローチや市場起点のアプローチのアイデア発想プロセスとを比較した際、共通点や新しい点は何でしょうか。

アイデア発想のプロセスはどの情報に最初の一歩を置くかで4つに分類できる

まず、アイデア発想とは入力情報があり、それを処理して、アイデアを出力するプロセスであると言えます。どの情報に最初の一歩(ほとんどの場合は軸足にもなります)を置いてアイデア発想するかということに着目すると世の中にある方法論の多くは、下図で全体像を整理できます。左側に技術、右側に人間とします。その2つの中間にある情報は、左側からみると市場に見えますし、右側から見ると社会に見えるでしょう。そしてアイデアに至るプロセスで、まずは最初の一歩目をどこに置くのかという視点でみると、①技術起点、②市場起点、③社会起点、④人間起点の4つに分類できます。「デザイン・シンキング(=デザイン思考)」は、この中の人間起点のアプローチとほぼ同義で、ユーザーへの観察やインタビューを中心として、定性的な分析と仮説構築をすることに特徴があります。そのため、基礎技術の用途探索や特定技術の開発展望分析を行う技術起点や、成長性・話題性のある新興製品・サービス分野の探索を行う市場起点とは異なります。

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それぞれのアプローチの代表的方法と得意な部門・企業

それぞれのアプローチを取る時に、個人またはプロジェクトを進めるメンバー内で暗黙のうちにしている問いかけがあります。プロジェクト内では、この問いかけに答えるために、調査を行ったり、議論を行ったり、発想を行ったりします。普段自分たちがどのアプローチを採用しているのかは、その問いかけの内容で、ある程度判断ができると思います。


1. 技術起点アプローチ

典型的な問いかけとしては「この基礎技術を使ったらどのような製品開発ができそうか?」や「今後どのような技術領域がホットなのか?」があります。主に、基礎技術の用途探索や特定技術の開発展望予測(技術ロードマップの作成)などを行うアプローチで、一般的にR&D系の事業開発部門や技術系の戦略コンサル・シンクタンクが得意としています。

2. 市場起点アプローチ

典型的な問いかけとしては「どの市場が今後拡大するのか?」や「どの地域・消費者層が今後有望か?」、「敢えて競合製品とは異なる価値や体験は他にないか?」があります。主に、成長性・話題性のある新興製品・サービス分野の探索や既存成熟製品・サービス分析(Break the biasやブルーオーシャン戦略)などを行うアプローチで、一般的に経営企画系の事業開発部門や戦略コンサル・シンクタンクが得意としています。

3. 社会起点アプローチ

典型的な問いかけとしては「現在注目を集めている社会課題は何か?」や「未来を見据えた際に、これから顕在化してくる社会課題は何か?」があります。主に、社会課題の特定や国際機関のレポートの調査、特定の社会テーマの専門家ヒアリングなどを行うアプローチで、一般的にNPO・NGOや国際開発機関が得意としています。

4. 人間起点アプローチ

典型的な問いかけとしては「この製品・サービスを使っている人が感じている本質的な価値はどこにあるのか?」や「 日常生活の中で、人々の価値観や行動で今後変化すること、変わらないことは何か?」があります。主に、生活者インタビューや行動観察調査、公開情報(Webや雑誌記事)の調査などを行うアプローチで、一般的にデザインリサーチ部門やデザインコンサルが得意としています。「デザイン・シンキング(=デザイン思考)」もこのアプローチに含まれます。


それぞれのアプローチの一長一短

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紹介してきた4つのアプローチに関連した方法論の特徴や強み・弱みを上図のように整理してみました。また、その方法論を使う対象として、製品開発、サービス開発、そして事業開発を想定した場合に、どれくらい親和性があるのか評価してみました。

i.labが考える、それぞれのアプローチの課題認識のまとめとして、以下のことが挙げられます。


技術起点:成功打率が低くなりがちである。
市場起点:アイデアがあるようで実はない。
社会起点:個別の社会貢献活動やニッチに収まりがちである。
人間起点:自社がやる必然性と事業性が見えづらい。

i.labとしては、決定版となり得る方法論はないというのが正直な所感です。企業や部門、アイデアを出す期間、メンバー構成、他制約条件を考慮にいれて、それぞれのアプローチ方法の良いところを一度分解し取り出しながら、それらを調和的に繋ぎ直して、創造的なプロセスをオーダーで設計する必要があると思います。

photo by Aron Van de Pol

新 隼人(i.lab ビジネスデザイナー 2015年当時)