’22メルカート(移籍市場)の雑感

 今回はFC岐阜の’22シーズン冬のメルカートに関する雑感です。

 J3で2年目を迎えた’21シーズンのFC岐阜は、安間監督を招聘。J3では豊富な戦力を擁し優勝候補の1つに数えられました。コロナによる影響で降格組がいない中、J2への昇格は至上命題かと思われましたが成績は振るわず。勝ち点は41に留まり、J2昇格を果たした首位熊本の54ポイント、2位岩手の53ポイントとは大きく差を付けられました。2年連続の6位という結果に終わり、昇格争いに本格的に加わることすら出来ないシーズンが続いています。

 失意のシーズンを終え迎えた今冬のメルカートですが、当初心配されたのは昇格を逃したことによる経済的なダメージの影響です。再度J2昇格を狙うどころか、満足に補強を行うことすら難しい状況に陥るのではないかと思われました。しかし、2021/12/22にクラブ筆頭株主の藤澤氏を引受先として第三者割当増資を実施することを発表(株式発行は3~5月を予定)。今回新たに4千株(2億円)を引受けることが決定しました。日本特殊陶業を筆頭にスポンサー契約の継続が危ぶまれる中で、藤澤氏の「ふるさとの岐阜に対する恩返しの気持ちで引き続き継続支援をしていきたい」とのコメントに胸を打たれたサポータは少なくないはずです。

 これに伴い、クラブの体制も一新されることに。早々に安間監督の退任を発表すると、テクニカルディレクターを務めていた三浦俊也氏の監督就任を発表。代わりに浦和や長崎・京都にて強化部門の責任者を歴任した山道守彦氏を、強化の責任者として招き入れました。更にはGMを務めていた小松裕志氏の社長就任と宮田氏の会長就任を発表。FC岐阜の歴史上これほどまでにサッカーのプロフェッショナルが揃ったフロント陣は初めてなのではないでしょうか。三浦氏の監督就任には一抹の不安と疑問を覚えますが、栃木や長野での監督経験を持つ横山氏をヘッドコーチに据え、ゴッドハンドとも呼ばれる野崎氏などで脇を固めた首脳陣の構成には好感を覚えます。

 ここからは、予想に反しクラブが良い方向に進んだと感じるこのような状況下で、J2昇格に向けてどのような冬のメルカートを過ごしたのかを評価していきたいと思います。

 ポイントとしては例年と同様に、どの程度主力選手の慰留に成功し戦力を維持できたのか。それを踏まえたうえで、補強による新戦力を確保できたのかについてみていきます。この2点を基準として個人的な補強の雑感と評価を記していきたいと思います。評価はA・B・C・D・Eの5段階評価としました。ただし、他クラブとの戦力比較ではなくあくまでも上記の2点を判断基準としています。

■各ポジションのメルカート評価・雑感(2022/1/22現在)

【GK・・・・・C】
 唯一INもOUTもない結果となったのがこのポジションである。まず注目すべきは、昨季の正GKである桐畑のレンタル延長に成功したことだろう。フィードに課題が残るのは明らかなものの、セービングとハイボール処理の安定感はJ3で十分に通用することを証明した。今季もレギュラー争いの中心となるのは間違いないだろう。彼のレギュラー起用に待ったをかける1番手は、やはり松本拓だと思われる。昨季も桐畑が怪我で離脱した際には、不在の痛手を感じさせず代役を問題なくこなしていた。’20シーズンに見られたハイボール処理時の不安定さも顔を出さず安定感を取り戻した印象だ。ムードメーカーとしても貴重な存在で、チームメイトのゴール時にはベンチで真っ先に喜ぶ姿が印象的な選手である。精神的支柱の役割も担うベテラン両名の契約延長は、決してマイナス要素ではない。この2人を追いかけるのが岡本と大野になる。昨シーズまでの序列が大きく変わる可能性は高くはないだろうが、GKコーチに新たに工藤氏を招いたことで変化が発生するかもしれない。昇格のために戦力的な上積みを期待するという意味では、むしろそうなることが必要なポジションとも言える。コロナ禍で4名体制の陣容を維持できたことには好感を感じる。継続性という意味では高評価したいところが、同時に各人のレベルアップも必須であると考えられる。

【CB・・・・・D】
 チームの守備の中心で昨季も高いパフォーマンスを魅せた甲斐が岩手へ移籍。このクラブの顔ともいえるCBの流出は想定内ではあるが、非常に大きな痛手と言わざるを得ないだろう。また、3バックの一角として活躍した三ッ田も松本へレンタルバックとなった。1年間我慢強く育てた若手の有力選手が昇格争いのライバルへ帰還し、形としては敵に塩を送る結果となったがこればかりは致し方ないところ。更に、ヨンアピン・パウロン・竹田も契約満了でチームを去ることとなった。新たに加わったのは、フレイレ(←長崎)と岡村(←北九州)である。フレイレは187㎝とサイズがある大型CBでありながら、正確なロングフィードで攻撃面でも貢献できる選手。稼働率に大きな不安があるが、コンディションさえ整えば間違いなく守備の中心となるだろう。岡村は180㎝とCBとしてはやや小柄ながら、J2での出場経験も豊富な選手。昨季もJ2で28試合に出場しており、ベテランながら試合勘に不安がないのは大きな魅力で言っていいだろう。CBだけでなくボランチも出来るポリバレントなところも兼ね備えている。こちらも守備の中心候補か。契約更新をしたのは、服部・小山・本石の3名となる。服部は昨季FW登録だったが、今冬FW陣を多く獲得したことから主戦場はCBになると予想。小山と本石の若手組は出場機会に恵まれなかったが、この2人が試合に絡めるようだと一気に層が厚くなるだろう。また、藤谷やヘニキがCBで起用される可能性も十分に考えられる。総合的にみて戦力収支としてはややマイナスか。レギュラーの選手を2名失い5名がチームを去ったことから、継続性という意味でもマイナスを付けざる得ないポジションとなった。しかし、枚数的には揃っており、4バックでも3バックでも対応できそうな編成ではある。獲得した選手が実力通りの活躍をみせることができれば、十分に固い守備を構築できそうだ。監督がどのような守備戦術を構築するのか腕の見せ所であると言えるだろう。

【SB/WB・・・・・B】
 このポジションでは宇賀神(←浦和)の加入が最大のトピックである。近年は出場機会を減らし、レギュラーとして継続的に出番を得ていたのは’18シーズンが最後となる。しかし、昨季の天皇杯での活躍を見るにまだまだ実力は衰えていないだろ。豊富な運動量と高いインテンシティを誇るが、1番の武器は戦術眼だ。そのインテリジェンスで、周囲のバランスを監視しチームを有利な局面へと導く潤滑油になれるSBとしては珍しいタイプ。この元日本代表がプレーで昇格に貢献してくれる可能性は高そうだ。両サイドをこなす本職のSBを獲得できたのはやはり大きい。橋本・舩津・藤谷が軒並み契約更新を行ったこともプラス材料。今季は4バックが有力視されるが、質・量ともに申し分ない編成となった。新加入の菊池もこのポジションで起用される可能性は十分にありそうだ。本石を左SBにコンバートするのも面白いだろう。ベテランが多いのは気がかりだが、左右を兼用できる選手が多く、交代枠まで視野に入れればシーズンを回していく上で大きなトラブルは出ないと思われる。総じて高評価を付けても何ら問題ないと考えられる。

【DMF/CMF/OMF・・・・・A]】
 何と言っても、'17シーズン以来の庄司(←京都)の復帰が最大のニュースになる。彼の実力は岐阜サポーターの知るところであり、多くの言葉はいらないだろう。正確な長短のパスを駆使してゲームを組み立てる能力に長けている中盤の支配者。時折みせるタイミングの良い前線への飛び出しや、守備面での危機察知能力も特徴だ。上位カテゴリーでも10番を背負いチームの中心となれる実力者を獲得できたのは非常に大きい。同じくヘニキ(←山口)も'17シーズン以来2度目の復帰となった。フィジカルに優れ運動量も豊富で勤勉に働く選手である。過去に所属していた際はボランチが主戦場だったが、今季はCBで起用される機会も増えるかもしれない。CFでも起用可能で、監督にとっては貴重な持ち駒となるに違いない。他には、特別指定選手の山内(←東海学園大)と石坂(岐阜U-18)が新たに加わった。特に石坂は、クラブ史上初のアカデミーからのトップ昇格を果たした選手であり注目すべき存在。得意とする中盤低めのポジションは層が厚く、出場機会を掴むことは容易ではないだろうが、一流の選手と練習を重ねることは彼のキャリアにとって大きな財産となるはず。山内と共に成長することに期待したい。
 既存の選手では、柏木と契約を更新することに成功。昨季は数こそ少なかったが、コンディションが整った状態では別格であることを証明した。周囲に実力者を揃えた今季はより実力を発揮しやすい環境となるだろ。庄司との共存についても期待が高まる。また、本田・大西・吉濱との契約更新にも成功。いずれも前述した選手たちに劣らぬ実力者であり、レギュラーの座を掴んでも全く不思議ではない。本田・大西は中盤低めの位置でシステム・戦術の幅と選択肢を広げ、チームに安定感を齎すだろう。吉濱に関しては、昨季は柏木の控えという立ち位置だったが、層が厚くなった今季は1列前の位置やサイドで起用される機会も増えそうだ。より彼の能力を生かした場所での活躍が期待できる。2年目となる生地も控えているが、石坂や山内と同様に経験値を積み上げ成長してくれることに期待したい。中島と三島・キムは契約満了となった。特に主力として活躍した中島の契約満了は驚きだった。加入後我慢を重ねながら起用を続け、中堅選手となり漸くチームの中心となれるだけの力を付けたタイミングだっただけに若干の疑問が残る形になったが、補強は成功し戦力収支としてはプラスだろう。どの観点からみても高評価できる材料が揃っており、チームのストロングポイントとなるポジションとなった。J3屈指の陣容を擁し、激しいレギュラー争いが予想される。

【SH/WG・・・・・B】
 メルカート終盤に菊池(←柏)を獲得したことにより評価を上げたポジションとなる。キャリアの多くをJ1・J2で主力として過ごしてきた実力者。サイドであれば、高めの位置から低めの位置まで左右を問わず力を発揮できる選手であり、システムによってはSBやWBでの起用も視野に入るだろう。彼の加入により全体の選択肢も大きく広がったことは間違いない。窪田のレンタル延長にも成功。ドリブル突破は大きな魅力であり、右サイドでは1番目の選択肢になりそうだ。村田・松本歩とも契約を更新した。村田については、期待されたほどの活躍をみせられていない現状が続いているが、まだ若く伸びしろが多くある選手。例年以上に激しいポジション争いが予想されるが、存在感を示し争いに一石投じるだけの力はあるだろう。松本歩も決してノーチャンスではない。怪我で出遅れることが決まっているのが富樫となる。まずはコンディションを整えたいところ。ポテンシャルに関しては、このポジションでも1~2のものを持っている。開幕後試合を重ね全体のコンディションが落ちてきた時期に、良い状態で復帰した彼がチームを再点火させることが期待される。また、CF陣でこのポジションに起用可能な選手が多くいることもプラス要素であると言える。ンドカや藤岡は左サイドを問題なくこなすだろうし、畑は右サイドでの起用が可能。田中・山内も左右どちらで起用できるだろう。彼らの中からサイドでレギュラーを掴む選手が出てくる可能性も十分に考えられる。契約満了となったのは町田と粟飯原。特に粟飯原は熊本への加入が決まったようにJ2でも戦力になれる選手だったが、全体として捉えれば補強に成功したポジションと評価して差し支えないと考える。継続性を確保しつつも、質・量ともに申し分ない陣容が整った。

【CF・・・・・A】
 J3得点王を獲得し、近年はチームの中心となっていた川西が流出する事態となったのは大きな痛手と言える。また、後半戦はCFの軸となっていた深堀も新天地を求めチームを去った。しかし今冬のメルカートを振り返ると、このポジションでは失ったものより多くの成果を得たのではないだろうか。まずオフシーズンの話題を攫ったのが、元日本代表FW田中(←神戸)の獲得である。強烈な左足が代名詞の万能型FWだ。得点能力がずば抜けているタイプではないが、1トップ・2トップ・シャドーにWGも器用にこなすユーティリティ性を備えており、技術や動きの質の高さには定評がある。日本代表はもちろん、柏時代にはACLに出場し、ルイス・フィーゴやC.ロナウドを輩出したポルトガルの名門スポルティング・リスボンにも在籍した。ずば抜けた経験値を持つ選手であり実力に疑いの余地はないだろう。神戸時代には出場機会に恵まれなかったが、限られた時間の中でインパクトを残す活躍もしている。現時点でFW陣の軸に1番近いのは彼だろう。藤岡(←宮崎)の獲得も大きい。J3挑戦初年度の昨季に10ゴールを決めたタレント力は確かなもののように思われる。個の力で局面を打開できる選手。2トップでより生きるタイプだが、ワイドの適正も高い器用な面を併せ持つ。得点能力の高さを武器に田中と共にFW陣の軸になる可能性は十分だ。年齢的にも心身共に今がもっとも充実している時期だろう。エースの座をつかみ取ることが期待される。また、ンドカ(←YS横浜)の獲得にも成功。ルーキーながら6得点1アシストの結果を残した今メルカートの人気銘柄だ。サイズがあり抜群の身体能力とスピードを誇る。まだ体の線が細くプレーに粗削りな面もみられるが、逆に言えばその伸びしろの多さが最大の魅力だろう。大きなポテンシャルを秘めている将来有望な若手であり、クラブのアイコンに成り得る逸材である。非常に良いオペレーションを成功させたと言える。前述の2名からレギュラーを奪っても何ら不思議ではない。他には畑(←長崎)の加入も決定。強烈なミドルシュートを持つダイナミックなプレーが魅力的な選手である。中堅の年齢に差し掛かり、期待された程の活躍をみせられていないシーズンが続いているが、こちらも素質には定評がある選手。J3では沼津在籍時に8ゴールを記録しており、環境を変え岐阜に来たことで一皮剥可能性はあるのではないだろうか。畑と契約更新を果たした山内が、レギュラー争いに加わるようだと更に層が厚くなり面白くなるだろう。純粋なトライカーがいないことには若干の不安を感じるが、日本中を見渡してもストライカーは不足していることを考慮すると仕方のない部分もある。ヘニキや服部といった選手をCFに起用しパワープレーに出るオプションも持っていることで若干はカバーが可能たと思われる。継続性という部分には疑問が残るものの、昨季専門家がおらず弱点の1つとなったポジションに、ベテラン・中堅・若手の有力選手をこれだけの数揃えられたのは成功と言って問題ないと考える。総じて高評価できるだろう。

【総合評価・・・・・A】
 2年連続で昇格を逃し、どの程度主力が流出するかが1つの焦点となった今冬のメルカートだが、川西・甲斐という攻守の柱を失うこととなった。また、中盤では中島とも契約を結ばなかったことにより、骨格であるセンターラインの主力選手3名がチームを離れる結果となった。通常であれば、大幅な戦力ダウンに繋がる非常事態であるがラモス政権の’14シーズン以来となる大型補強を敢行し、チームの刷新に成功。総合的な戦力収支としてはプラスと考えることができ、高評価に値する。
 改めてチーム全体を見渡すとまず目を引くのが、中盤より前のポジションの充実ぶりである。中盤では柏木や本田・大西を維持しながら、庄司やヘニキといった実績のある選手の獲得に成功。戦力アップに繋がることは確実だろう。前線は田中や藤岡・ンドカといったベテラン・中堅・若手の実力者をバランス良く獲得し、戦力の強化とライバルの弱体化を両立させた。前述の通り畑・山内を含めストライカータイプが不在なことが弱点となる可能性はあるが、力のある選手が揃っており2桁得点を記録し軸となる選手は出てくるだろうと予想している。ヘニキや服部を前線に上げてパワープレーを行えるオプションを持っていることも大きいだろう。サイドに目を移すと、宇賀神や菊池といった攻守に貢献できる実効性の高いオペレーションを成功させた。唯一戦力ダウンに繋がりそうなポジションはCBである。フレイレと岡村を迎え出来る限りの手は打ったという印象だが、フレイレに怪我やコンディション不良が発生した際は、ここからチームが崩れることがあるかもしれない。
 他に気がかりな点を挙げるとすればベテランの多さだが、J3では十分に通用する選手が多いだろうと思われる。体力面では、ミッドウィーク開催がほぼないため日程的な心配をする必要はなさそう。そのうえ交代枠も5あることから、層の厚さを考慮すると年齢的な心配を大げさにする必要はないだろう。各ポジションに2~3名レギュラークラスの選手を擁しており、怪我やコロナといった不測の事態に対応できそうな点も高評価の要因である。複数ポジションをこなせる選手も多く、採用できるシステムや戦術の幅も広く持つことができる。フロントや三浦監督がどのシステムを念頭に入れ補強を進めてきたのかは、現状のスカッドを見る限り判断しづらいが選択肢が多いのはむしろプラス要素と判断した。恐らく4バックを採用することが有力しされているが、4バック系にも3バック系にも対応は可能だろう。総じてJ3で優勝争いを演じ、J2昇格を達成するために必要な戦力は整ったと考える。過去2年よりライバルが手強く、昇格の難易度としては1番高いシーズンになることが予想されるが今季も昇格のチャンスは大いにあると言えるだろう。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?