’21メルカート(移籍市場)の雑感

 今回はFC岐阜の‘21シーズン冬のメルカート(移籍市場)に関する雑感です。

 ‘20シーズンにクラブ史上初めてJ3での戦いに挑んだFC岐阜。1年でのJ2昇格が至上命題となったシーズンでしたが、結果は6位と昇格はならず。勝ち点は56に留まりJ2昇格を果たした首位秋田の73ポイント、2位相模原の61ポイントとは大きく差を付けられました。

 敗因としては、監督選びやそれに伴う編成面での失敗など様々な要素が複合的に絡んでの結果だと考えられますが、昇格を果たせず’21シーズンもJ3リーグで戦うことになった現実が経営面・ブランド面などでクラブに大きなダメージを与えたることは間違いありません。

 コロナ禍で海外を含めたどのクラブも経営悪化に苦しむ昨今、このまま何年間もJ3に定着してしまえば戦力を維持できるほどの体力はFC岐阜にはないでしょう。その意味で、特別ルールによりJ2からの降格組がいない’21シーズンは最大のチャンスであると同時に、クラブにとって生き残りを掛けた最後のチャンスと言っても過言ではありません。

 幸いにして日本特殊陶業をはじめとしたスポンサー企業の支援継続や藤澤氏の支援協力が決まり、他J3クラブと比べれば資金力で優位に立てるFC岐阜ですが、コロナの影響で外国人選手の獲得が行いにくく下部リーグからの引き抜きが更に活発になると予想された例年とは異なる状況下で、J2昇格に向けてどのような冬のメルカートを過ごしたのかを評価していきたいと思います。

 ポイントとしては例年と同様に、どの程度主力選手の慰留に成功し戦力を維持できたか。それを踏まえたうえで、補強による新戦力を確保できたのかについてみていきたいと思います。この2点を基準として個人的な補強の雑感と評価を記していきたいと思います。評価はA・B・C・D・Eの5段階評価としました。ただし、他クラブとの戦力比較ではなくあくまでも上記の2点を判断基準としています。


■各ポジションのメルカート評価・雑感(2021/1/17現在)

【GK・・・・・C】
 このポジションでは、安定したハイボールの処理とビッグセーブでシーズン終盤にレギュラーの座を掴み取ったパクと原田がチームを去ることとなった。特にパクが移籍したのはチームにとって痛手だろう。松本拓と岡本は契約更新。昨季序盤はレギュラーとして活躍した松本との契約更新はグッドニュースと言える。J3で優勝したこともある経験豊富な選手だが昨シーズンのパフォーマンスは不完全燃焼気味。本人も納得はしていないだろう。奮起が期待される。満了組に代わりに獲得したのは桐畑(柏)と大野(千葉)になる。これまでのキャリアを柏一筋で過ごしてきた桐畑は新な正GK候補として期待できるだろう。これまでは有力なライバルに阻まれ控えGKとして過ごしてきたが、J1の高いレベルで一定の出場機会にも恵まれており実力的には問題ない。33歳という年齢もGKとしては気にはならないだろう。昨季はシーズン途中で出場機会を失い今年にかける松本拓との激しいポジション争いが見られるはず。大野は千葉時代に出場機会を得たがミスを多発し信頼を失った選手。しかし、当時の千葉は極端なハイラインのサッカーを展開していたためGKに掛かる負担も大きかった。千葉時代の評価がこの選手の全てではないはず。岡本と共にレギュラー争いに一石を投じるような存在になれると面白い。主力選手の入れ替えはあったものの、総じてこのポジションは昨季と遜色ないレベルを維持できたと評価していいだろう。コロナ禍で4名体制の陣容を維持できたことも好印象。

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【CB・・・・・A】

 甲斐との契約更新に成功したことが今冬のメルカートの最大のトピックと言える。J3ベストイレブン級の活躍を見せ上位カテゴリーからの引き抜きが確実視された彼の残留は嬉しいサプライズとなった。その他では昨季終盤にチームに加わったパウロンとも契約更新。CBとしては出場機会がなかったもののコンディションが整えばJ3ではトップクラスの実力なのは間違いない。今季は甲斐との2枚看板として活躍が期待できるはず。キャプテンの竹田も無事にチームに残った。昨季はポジション争に敗れ中盤でのアンカー起用がメインとなったが3バックが予想される今季は彼の出番ができる可能性は高いだろう。元々3バック向きの選手である。契約満了となったのは、橋口・北谷・ヘンリーの3名。どの選手も実力者であるが、特に昨季主力として活躍したヘンリーの鹿児島行きは痛手。ライバルクラブに水をあけられた格好となった。しかし、このポジションでは多くの新戦力を獲得。舩津(群馬)、三ッ田(松本)、小山(関西大)、本石(阪南大)の4名が加入した。舩津は富山時代に安間新監督と共に戦った経験も持つ選手。富山時代は3バックの左CBを務めた経験もあり、右のSBやWBとしても計算できるユーティリティなプレーヤー。即戦力として計算ができる堅実ながらも良い補強ができた。三ッ田は189㎝と長身で左利きの素材型の選手。潜在能力は松本でも評価されており年齢も若いため試合経験を積めば大化けする可能性もある。同じく本石も貴重な左利きのCB。ビルドアップとスプリント能力に長けた選手を獲得した。左利きの特徴を生かして3バックの左CBとしてレギュラー争いに加わりたい。また、小山は名門青森山田の優勝メンバー。関西大ではキャプテンも務めており、即戦力として期待がかかる。将来のキャプテン候補としても楽しみな逸材を獲得できた。この他にも、FW登録ながらCBとして実績を残している服部(松本)も控えている。3バック導入が予想される今季の編成としては質・量ともに申し分ないスカッドを揃えることができた。唯一懸念点を挙げるとするならば、ストッパータイプの選手に編成が偏ったところか。通常の3バックはスイーパータイプの選手を中央に置き、両脇をストッパータイプの選手で固めるのがセオリーだが、主力級の選手では竹田を除きほぼ全員が本質的にはストッパータイプだろう。恐らく甲斐を中央で使うことになると思われるが、竹田や大卒選手がポジションを掴むことが出来れば面白い。とは言え、最高評価のAを付けて何ら問題はないだろう。難しい状況の中で良い補強が出来たと評価したい。

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【SB・・・・・C】

 チームで1・2を争うパフォーマンスを魅せた柳澤が水戸へ移籍。非常に大きな痛手となったが、この移籍は想定の範囲内と言えるだろう。会津は契約満了となった。また、契約更新後に長倉が仙台へ移籍。これにより一気に選手層の薄いポジションとなった。LSBでは橋本、RSBでは藤谷との契約更新を行った。橋本はコンディションの問題で稼働率にこそ問題があるが実力はJ3ではトップクラス。精度の高いクロスなど攻撃面で貢献が期待できる。藤谷はクロス精度に課題が残るもののスピードが魅力的でCBとしても計算ができる。今季は本来のポジションであるCBで勝負することもあるかもしれない。新加入こそなかったが、舩津はこのポジションが主戦場となる可能性も大いにあるし、左サイドには本石をコンバートさせても面白いだろう。また、3バックが予想されるためWBの片側には豊富にいるSH/WGタイプの選手が起用される可能性も高い。そういった意味では、大きくマイナスを付けなくてもよいポジションになるといえる。


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【DMF/CMF・・・・・B】

 ハムが契約満了になったものの、元日本代表の本田を獲得。過去数年間に渡り生粋のボランチが不在だったチームに頼もしい選手が加わった。デュエルが出来てポジショニングも抜群。トランジションの部分でも違いが出せる選手であり攻守の切り替えの要となるだろう。メンタルの部分で弱さを見せたFC岐阜にとっては、精神的な柱としても期待が持てる。35歳という年齢もありフル稼働は難しいが、十分に戦力して計算ができるだろう。また、ルーキーながらシーズン途中から中心選手として存在感を発揮した大西の存在、ボランチとして一皮剥けた印象もある中島の存在も頼もしい。レジスタタイプの三島との契約更新にも成功した。三島は安間監督の政権下では重宝される可能性もある。典型的な守備的ボランチの本田、ボックストゥボックスタイプの大西、縦への推進力がありボールも捌ける攻撃的ボランチの中島、レジスタの三島、タイプが違う主力級選手を4名揃える事が出来た中盤低めのこのポジションは盤石と言って差し支えないだろう。

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【OMF/CMF・・・・・B】

 このポジションでは永島を契約満了にしたものの他に目立った流出はなし。やはり過去2シーズンに渡り岐阜の中心としてチームに君臨した川西の完全移籍での獲得が最大のニュースと言える。昨季はCFとして起用されたが今年もそうなる可能性が高いと考えられる。彼の出来によりチームの浮沈が左右されるシーズンとなりそうだ。怪我で1年間を棒に振ったキム・ホの活躍にも期待したいところ。サイドで使われる可能性もあるが、ポジション争いが激しくなることが予想されるサイドよりも中央での活躍に期待したい。目立った新加入はゼロとなったポジションだが吉濱(山口)を筆頭に富樫やレレウなども問題なくこのポジションをこなすだろう。或いは大卒ルーキーの生地(筑波大)や松本歩(関西大)がここで名乗りをあげるかもしれない。低めのポジションからは中島の起用も考えられる。どんなシステムになるかは現時点では不明だが駒は揃っている。高評価して問題ない選手層となった。

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【WG/SH・・・・・A】

 CBと並び最大の激戦区となったのはこのポジション。選手の流出はゼロで更に吉濱(山口)、生地(筑波大)、松本歩(関西大)の3名を手に入れた。中でも吉濱は天才肌で怪我さえしなければ上位カテゴリーでもチームの中心となれるプレーヤーだ。川西と並びチームのアイドルになれる可能性を秘めている。ドリブルやスルーパスを駆使して攻撃面で違いを作れる選手であり、長年の岐阜の悩みどころであるプレースキックも持っている。サイドで使われるのか、或いはトップ下やシャドーとしての起用が見込まれるのかは不明だが、攻撃の中心となることが有力視される。生地と松本歩も将来性があるプレーヤー。激しい競争の中で彼らが出場機会を掴めるようだと更に層が厚くなる。既存の選手では、レレウ・富樫・粟飯原はJ3なら何処のクラブでもレギュラーをはれる能力がある選手。競争が激しい故に昨季も出場機会を分け合ったが、この中からアンタッチャブルな存在が出てくることが期待される。また、町田や村田も控えている。彼らにもレギュラー奪取のチャンスは十分ある。キャンプからの激しいアピール合戦になるのは間違いない状況だ。質・量ともに上位カテゴリーと比べても一歩も見劣りしない陣容。最高評価をして問題ない。

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【CF・・・・・E】

 昨シーズンがはじまる前は、高崎と前田の2枚看板を擁しFC岐阜の目玉となったポジションだったが、両者ともに契約満了でチームを退団。更にこのポジションで若手のホープとしてレンタル復帰をさせ大切に育てていた石川も満了でチームを去った。特に高崎の流出は大きな痛手だろう。パフォーマンスの継続性には疑問が残ったものの、8ゴール4アシストで川西と並びチームトップレベルの結果を出した生粋のストライカーの離脱は確実にマイナスだ。チームに確固たる戦術があればもっと多くの点を獲れたことは間違いない。新たに迎え入れたのは服部(松本)と山内(C大阪)の2名。服部はそのキャリアの多くをCBとして過ごしてきた実績のあるディフェンダー。CFとしてコンバートされ出場経験も持つが、エース級として二桁得点を期待するのは流石に酷だろう。また、山内は182㎝と大柄ながらもサイドもこなすプレーヤー。25歳と年齢的にも今がまさに脂が乗っている時期の楽しみな存在だ。どちらも実績としては乏しいと言わざるを得ないが、背が高いポストプレーが出来るタイプの選手を安間監督が求めたのかもしれない。1トップとしては難しくとも、2トップでセカンドトップの役割を期待するなら川西・粟飯原などは問題なく機能するだろう。町田もプロの世界ではタッチラインを背負ってプレーした方が生きるタイプに思われるが2トップであれば可能性はあるかもしれない。また、富樫・レレウは本質的にはサイドのプレーヤーだと思われるが、1トップ2シャドーのシャドーであればこちらも問題ないと考える。或いは川西を最前線に置いたゼロトップもあるかもしれない。しかし、いずれにしても継続性と実績という視点で見ると低評価せざるを得ない編成になった。服部・山内の2名には前評判を覆す活躍を期待したい。

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【総合評価・・・・・B】

 最大の焦点となった主力選手の慰留に関しては、昨年に引き続き予想以上の成果を上げたといって差し支えないだろう。実質的な主力としてはパク・ヘンリー・柳澤・高崎の4名がチームを去ったが甲斐・川西など多くの主力選手の慰留に成功。そのうえで、桐畑・舩津・本田・吉濱・服部など実績がある選手を中心に補強を進め、チームの骨格となるセンターラインをはじめサイドでもバランスよく有力選手を獲得できた印象だ。現時点で採用されるシステムは不明だが、安間新監督が好む3バックに対応できるようCBの選手を多く獲得した編成には好感が持てる。その上で、4バックにも対応できる柔軟さも兼ね備えており中盤より前も様々のシステムに対応できるスカッドが揃ったと言えるだろう。また大学卒の選手を4名獲得。安間新監督を招聘し、J2昇格を進めながら若手も育てたいという考えが透けて見える。監督の人選も含めて、良くも悪くもクラブ上層部の意図が見える結果となった。最大の懸念点は、やはり実績のあるストライカーの不在。言うまでもなく、サッカーは相手より1点でも多く点を獲ったチームが勝つスポーツである。どんなに内容の良い試合が出来ても、最後に決めきる選手がいなければ勝ち点が得られないという大木元監督時代にも多く味わった苦い経験が繰り返されないことを祈りたい。このように、編成面に歪な面が見られるもののJ3というカテゴリーに所属し何も不満のないメルカートが過ごせることはまずないだろう。限られた条件下の中で主力の大半をチームに残したことは評価されるべきである。戦力収支は単純にみてプラスと計算して間違いない。J3では頭1つ抜けている、とは言えないまでも十分に優勝を狙う戦力は整えることには成功した。監督・選手にとって、J2昇格は目標でなくノルマと言えるシーズンとなる。

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