メルカート(移籍市場)の雑感

今回は冬のメルカート(移籍市場)に対する雑感です。

FC岐阜は’18シーズンを降格圏ぎりぎりの20位で終えました。大木体制も3年目となり、結果の求められる’19シーズンに向けて戦力の上積みを図りたい所ですが、庄司・シシーニョ・大本といった絶対的な主力を3人も引き抜かれた’17のシーズンオフに代表されるよう、FC岐阜はほぼ毎年厳しいシーズンオフを過ごす事が通例となっています。これは、資金力・練習場やクラブハウス等の環境面・立地・ブランド力などクラブの魅力がまだ十分とは言えない為であると考えられます。

Jリーグ所属のサッカー選手は、平均引退年齢が約25~26歳と選手生命が短く、J2クラブに所属の場合は平均年俸も約400万円と言われています。約2000万円と言われるJ1所属選手の平均年俸と比べると格段に少ないのが現状です。引退後もサッカーに関っていく場合、セカンドキャリアとして一般的なのは子供達にサッカーを教えるスクールコーチですが、Jリーグの人気クラブでも25歳で月給が約20万円と言われています。仕事を長く続けてもさほど給料は高くならないうえに、単年での業務委託契約がオーソドックスな形となっています。そのため、家族を養っていかなければならない年齢になると一般企業に転職する人も多いですが、サッカー選手としてのキャリアがビジネスパーソンとしての実績やスペックに繋がるとみなされる場合は多いとは言えず、更に困難な道となる人も少なくはありません。40歳間際まで現役を続け、各クラブでトップチームのコーチやフロントなどに就任できるのはごく一握りの選ばれた選手だけなのです。

そんな厳しい環境の中に置かれているからこそ、プロサッカー選手達は自然と所属先の選定をシビアにする傾向があります。一定以上の出場機会が見込める中で、今より少しでも多い年俸を掲示してくれるクラブ、少しでも自らのステップアップに繋がるクラブ、怪我など不測の事態が起こる可能性が低い環境が整っているクラブ…。仮に全く同じ年俸を提示された場合に、環境が良く順位が高いJ1に近いクラブを選択するのは当然と言えるでしょう。

そういった事情もあり、これまでFC岐阜が選手を獲得しようとする場合は、他クラブより予算が少ないにも関らず、市場価値の年俸より多い金額の提示を行う。或いは誘いが少なく他クラブと競合しない選手を選ぶという、制限の多い中での活動を余儀なくされていました。

今オフもそういった例年通りの厳しい流れになると思われていましたが、早々にフロントが補強費の増額を明言するなど明るい話題が先行し、これまでとは違う雰囲気の中でメルカートに突入しました。結果としては、2018.1.9現在で放出11名(引退、レンタルを含む)・新加入14名(レンタル移籍、レンタルからの完全移籍を含む)となり例年より選手の入れ替わりを少なくし、継続性と戦力の上積みを重視した動きが多々見られています。

こういった強化活動ができるようになった背景には、’14シーズン以降継続している集客力の向上活動、営業活動強化によるスポンサーの獲得、環境面の整備、ピッチ上のパフォーマンスの改善など地道ながらも徐々に力を付け上昇気流に乗っているクラブ力があると言えるでしょう。

話が少しずれてしまいましたが、ここからはポジション別に個人的な評価と雑感を記していきたいと思います。評価はA・B・C・D・Eの5段階評価しました。ただし他クラブとの戦力比較ではなく、あくまでFC岐阜として継続性と上積みが成功したか。補強ポイントに適っているかをみていきます。


 
 【ゴールキーパー・・・・・A】

ビクトルとの契約更新に成功。早々と更新のニュースが流れたため3年契約だった可能性があるが、いまやJ2トップクラスのGKと広く認識され流出の危険性もあった守護神を慰留できたのは大きい。控えは原田と岡本となる。この2名は公式戦の出場機会に恵まれていないため、実戦でどこまでやれるかは未知数だが年齢構成のバランスは取れており、2年目で大木サッカーを理解出来ているのも魅力的。理想を言えばビクトルの怪我に備えある程度実績のある第2GKが欲しいところだが、資金面を考慮すると優先順位は低いためサブの入れ替えがなかったのはむしろプラス要素と捉えられる。


 【センターバック・・・・・B】

守備の要である竹田と無事に更新を果たした。年齢的にもディフェンスリーダーとしての期待がかかる。また、’18シーズンはJ3でベストイレブン級の活躍だったと評価される甲斐のレンタルバックに成功。成長著しくJ3の上位陣やJ2の下位クラブも狙っていたと思われる選手なので大木監督のサッカーに嵌れば活躍が期待できる。その他では、北谷を長崎から完全移籍で獲得しヘンリーのレンタル延長にも成功。この2名は昨年の実績から戦力としてある程度計算ができそう。更なる成長を果たせばDF陣の柱にも成り得る。そしてスピードが魅力的な藤谷も控えている。若くて有望な選手を多く揃える事ができた。基本的には竹田のパートナーをめぐる競争が繰り広げられると思われるが、誰がレギュラーになってもおかしくはない。激しい競争による個々のレベルアップが期待できる。大木サッカーを知り尽くした田森が抜けたものの、若手のシーズン中の成長を加味すると層と質は上がるとみて良いだろう。CBは阿部も含めると6名おり、状況次第では3バックも視野に入れられる充実ぶり。


 【サイドバック・・・・・C】

福村の契約満了は予想外だった。満了のニュースが早い時期だったため、実績のある左SBの獲得に動くのか或いは既に目途が立っているのかと思われたが、新加入は大卒ルーキーの会津(筑波大学)と柳澤(順天堂大学)、川崎Fからレンタルしたタビナス・ジェファーソンの3名のみ。いずれもJでは実績がない若い選手の補強となった。幸いにしてレギュラーとして右SBで1年間フル稼働した阿部は健在。右は阿部でほぼ決まり、左のポジションを新加入の3名で争うことになるだろう。同じく大卒ルーキーでユーティリティ性が武器の長倉(法政大学)もSBの競争に加わることになるかもしれない。実績はなくとも将来性豊かな選手が揃い、特にタビナス・ジェファーソンはプロ入り時にJ1の5~6クラブが競合した逸材。J2に適応出来れば爆発する可能性もありそうな面白い補強と考えられる。川崎Fで高いレベルの練習、FC岐阜と近いスタイルを経験しており現状ではレギュラー候補の1番手と言えそう。また、’18には福村1名だった本職のSBを若手のみとはいえ3名揃えられたのはプラス材料。とは言え、左右のSBは補強ポイントの中でも最重要事項の1つだったはず。現状のままでは継続性・上積み共に十分であるとは評価できないか。昨季終盤の戦術を継続する場合はヘンリーを左SBの位置で使うオプションも考えられるだろう。右SBは大卒ルーキーの内の誰かが阿部を脅かす存在になることが望まれる。


 【ディフェンシブハーフ・・・・・B】

このポジションでは、清水の動向からレンタルバックが濃厚と思われていた、宮本のレンタル延長に成功したことが最大のトピックと言える。フィールドプレーヤーの中では、’18シーズンのMVPと言えるほどのインパクトを残した大木サッカーのダイナモを慰留できたのはかなり大きい。岐阜の熱意に清水フロントが折れた格好となった。出場機会に恵まれなかったウ・サンホ、チョン・サネ、エセキエル・ハムの3名はチームを去ることとなったが、一定の出場機会を得ていた三島・中島・小野の3名は契約更新。大木サッカーの要である中盤の選手達が軒並み残ったのは良いニュースである。3人とも殻を破りきれていない印象が付き纏うが、更に競争が激しくなる来シーズンこそは実力を証明したいところ。特に三島は新人ながら多くの試合に出場し大木監督の期待の高さが窺える。また、即戦力と成り得る実績を持ち中盤より前ならどこでもできる中堅の川西(大分)を獲得にも成功。こちらは技術が高く大木サッカーに合いそうなタイプの選手であり活躍が期待される。韓国ユニバー代表のルーキー、ハム・ヨンジュンと長倉(法政大学)の加入も決まった。今オフのテーマである継続性を重視しながらも、戦力の上積みにも成功したと言えそうな陣容が揃った。


 【オフェンシブハーフ・・・・・A】

38試合5ゴール4アシストと攻撃陣を引っ張った風間の慰留に成功。もともとテクニックに優れた攻撃的な選手だが、昨季は守備意識の改善もみられた。年齢的にも中堅に差し掛かってきた。そろそろチームリーダーの1人としての役割も期待したいところ。また、永島を京都から完全移籍で獲得できたことも大きい。昨季はオーバートレーニング症候群により出場機会こそ少なかったものの’17シーズンには39試合5ゴール3アシスト。ペナルティエリア付近で力を発揮するタイプ。大木監督が昨季終盤のドイスボランチ+トップ下という中盤の構成を採用すれば面白い存在となりそう。更に新加入のフレデリック・ビュロもこの位置で起用される可能性がある。ガボン代表であり、育成システムに定評のあるフランスで各年代のアンダー代表に選ばれ続けた逸材。クラブレベルでもリーグアンやベルギー1部での実績やUEFAヨーロッパリーグへの出場経験を持ち、経歴的には群を抜いている。怪我で長期プレーできていなかった点は気になるが、実力さえ発揮できれば攻撃の核になるのは間違いない。動画を見る限りは補強ポイントの1つであるプレースキッカーとしても機能しそう。素晴らしい補強と言える。この競争に川西や三島・中島・小野が加わる事が予想され、中盤3枚の椅子を巡るポジション争いは熾烈なものになるだろう。



 【ウイング・・・・・B】

攻撃の中心の1人であったパウロが山口に流出。嫌な流れになるかと思われたが、昇格を果たしたFC琉球より富樫を獲得。J2での実績がないため不安要素はあるが、テクニックは非常に高い。J3でMVP並みの活躍を見せた実力を発揮できれば、パウロに勝るとも劣らない存在感を発揮するはず。年齢的にも若く、クラブのアイコンとなれる可能性を秘めた選手の獲得に成功した。また、山岸とミシャエルの2名も契約更新。後半戦にレギュラーをつかんだ山岸はフィジカルに優れテクニックもある選手。岐阜には珍しいタイプだけに2年目の来季に掛かる期待は大きい。ミシャエルに関しても、Jの水に慣れれば大化けする可能性はある。村田・粟飯原の新加入組もそれぞれ特徴を持った選手であり、1年目から出場機会を掴むチャンスも十分ある。島村を京都にレンタルバック、薮内を盛岡にレンタルで出したものの、フレデリックやライザ・川西あたりがこのポジションで使われるオプションもあると考えられる。継続性という意味では疑問符が付くが、戦力の上積みという点では一定の評価ができるだろう。


 【センターフォワード・・・・・B】

シーズンオフの最重要補強ポイントの1つであったが、難波が契約満了に伴い引退。大木監督からファイナルタッチャーと称された点取り屋の離脱により更に補強の重要度が高まるポジションとなったが、ライアン・デ・フリースとの契約更新に成功。巧みなポストプレーや高い足元の技術でチームに貢献したCFの更新は明るいニュースと言える。4ゴール2アシストという結果は助っ人としては物足りないものの、数字に表れない部分の貢献度は高かった。来季は数字も付いてきそうな雰囲気がある。石川も契約更新。残念ながら怪我で出遅れたが、復帰後はルーキーながら主に途中出場で一定の出場機会を得た。2年目となる’19シーズンは更なる飛躍が期待できる。そしてなんといっても前田遼一の獲得に成功したことが最大のトピックとなった。キャリア序盤にはトップ下や1.5列目で活躍した選手だけに、テクニックがありで中盤に降りてからの展開力もある。Jで通算174ゴール、2度の得点王をとった決定力は言わずもがな。両足とヘディングのどこからでもゴールが奪え得点パターンは豊富である。ポストプレーも上手く運動量が豊富で守備も頑張れる選手。年齢からくる衰えは懸念されるものの、身体能力に頼らないクレバーな選手でありベテランになっても活躍できるタイプの選手。’18シーズンもキャンプで得点を量産し序盤はFC東京のFW陣でファーストチョイスであった。コンスタントに出場さえ出来れば2桁得点をとる力は残っていると思われる。また、プロ意識が高いことでも有名な選手。若手の良い見本になるだろう。色々な点でチームにあう理想的なCFの獲得に成功したと言える。


 【総合評価・・・・・A】

福村の契約満了など若干不可解な点はあったものの、主力で引抜された選手はパウロのみ。逆にビクトル・竹田・宮本・風間・ライザとセンターラインの主力をはじめとして山岸などの重要な戦力の慰留にも軒並み成功し、チームの骨格を維持することに成功。戦力ダウンを最小限に抑えられたことは高評価できるだろう。一方で補強に関しては、若くて高いポテンシャルを秘めた選手や能力の高い選手など主力候補と成り得る優秀な人材を多く獲得した。これらの選手がいずれも、実績がない・怪我明け・年齢面等の不安要素を抱えているのは事実である。しかし今のFC岐阜のクラブ力で獲得できる選手の中では、トップクラスの選手を揃えることに成功したのは間違いなくこちらも高評価をして問題ないと考えられる。補強が必要であると思われていたポイントも概ね的確に抑えられており、各ポジションを最低2名で争う形になっている人員構成や年齢的なバランスも問題ないと思われる。大卒ルーキーも補強ポイントのサイドの選手を中心に獲得することができた。フロントの意志や狙いが明確に伝わる動きは評価できる。幾つかの不安点はあるものの、継続性と戦力の上積みという今オフのテーマとクラブ規模から評価するのならば90点。あえて注文を付けるのならば、両サイドバックと左ウイングに即戦力級が各1名補強できれば尚良いが、現状のままでも満足度としては120点なのではないだろうか。期待以上の戦果は得られたと言って問題ないだろう。



一部の報道では、まだこれから積極的に補強の動きをみせるという情報も流れているようですが、ここまで述べてきたように現時点までの状態でも今冬は非常に満足のいくメルカートとなりました。

しかし個人的には、現時点での移籍情報をもとにJ2リーグ22クラブを単純に戦力順で並べた場合、現状のFC岐阜の戦力は15番手前後だと思っています。しかも前後5番手程度は非常に拮抗しており、新戦力が期待ほど実力を発揮できない場合は降格もあり得ると考えています。しかし、サッカーの勝敗や順位というものは単純な戦力値だけで決まるほど単純なものではありません。監督の力や戦術、チームの結束力、勢いや運など様々なものに影響されます。そういったものを考慮した場合、現体制になって3年目で初めて大木監督が公言している1桁順位が現実的な目標として目指せる戦力と体制が整ったと言えるのではないでしょうか。

1桁順位は非常に高い目標だと思いますが今回のシーズンオフを見ていても、何よりも結果が欲しい大木監督の3年目に向けて、フロントと現場が一体になっている雰囲気が感じられます。長年サッカーを見てきましたがFC岐阜に限らず意外とプロクラブでこういった空気感が感じられる年は少ない様な気がします。FC岐阜は今、上昇気流に乗っています。チームの魅力が増し観客が増えて、環境面も少しずつですが確実に整い始め、数年前までは考えられなかったほど経営面も安定し成長しています。しかし、プロクラブとして何よりも必要なのは目に見える結果と言えるでしょう。だからこそ、このタイミングで1度プレーオフ争いに加われるような位置まで躍進し、J1・J2リーグの監督や選手、岐阜県内や近隣の行政やスポンサー或いはサポーターや県民に、ひょっとしたらJ1まで手が届くのではないかというイメージを与える1年になって欲しいと願っています。今シーズンも1年間を通して、ワクワク・ドキドキ・ハラハラの素晴らしい週末がやってくるのがとても楽しみです。

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