源泉所得税の控除がある費用計上(支払)に関する仕訳のパターンと特徴

【はじめに】
この記事では会計処理の具体的な話に踏み込みますが、記載の内容についてはあくまで個人の意見として記載しておりますので、この記事に関する疑問・質問はTwitterの @ikutyy にご連絡ください

少し理屈っぽい話から書くつもりだったのですが、いきなり実践的な話から書いていきます。

LayerX インボイスは主に受領した請求書の処理を効率化するサービスになります。サービス導入に際して様々な質問を頂くのですが、会計処理に関連するところでは、源泉所得税の控除がある請求についての処理と支払時の消込の処理の2つが頻繁に頂く質問です。
今回は源泉所得税の仕訳の話をしたいと思います。

【話の前提】
・月次決算を行っている
・入出金明細が連携されてくるクラウド会計ソフトを利用
・源泉所得税の納期の特例は対象外(毎月納付がある)
・科目としては、支払報酬料/未払金/預り金を利用
・月末に総合振込でまとめて支払

【対象の請求書】
・3月費用=>4月末払: 110,000円(税込)
・源泉所得税額: 10,210円
・控除後の支払額: 99,790円

仕訳のパターンは3つあります。

①費用計上時に預り金を合わせて計上計上

【費用計上時】
3/31 支払報酬料 110,000 / 未払金 99,790
3/31          / 預り金 10,210
【支払時】
4/30   未払金  99,790 / 普通預金 99,790
【納付時】
5/10   預り金 10,210 / 普通預金 10,210

②支払(預金をマイナス)した時の仕訳で預り金を計上

【費用計上時】
3/31 支払報酬料 110,000 / 未払金 110,000
【支払時】
4/30   未払金 110,000 / 普通預金 99,790
4/30                                  /  預り金 10,210
【納付時】
5/10   預り金 10,210 / 普通預金 10,210

③費用計上時に支出予定日で預り金を先に計上

【費用計上時】
3/31 支払報酬料 110,000 / 未払金 110,000
4/30         未払金  10,210 / 預り金   10,210
【支払時】
4/30   未払金 99,790 / 普通預金 99,790
【納付時】
5/10   預り金 10,210 / 普通預金 10,210

完全に主観ですが、実務で用いられている形式としては②→①→③の順番で割合が多いと感じています。
債務管理系のサービスの多くは②の形式で対応している印象です。LayerX インボイスは①と③に対応しています。
「なぜ一般的に多い②に対応せずに、①と③にLayerX インボイスは対応したのか」という話はまたどこかで触れることになると思います。

どの会計処理で行うのかというところは主に2つの要素から考えることができます。
・財務会計としての正しさ
・実務上の簡便さ
の2点が今回の源泉所得税の会計処理に限らず、あらゆる場面において出てくる話です。

財務会計上の厳密さをとる⇒簡便さがない
簡便さをとる⇒財務会計上の厳密さが損なわれる
と、トレードオフの関係であることが多いです。
実務では、このトレードオフを適切に理解して、適切な落とし所を見つけていくのが大事です。

財務会計との正しさ

財務会計との正しさを優先するのであれば、
預り金(源泉所得税)は支払日に計上すべき
です

源泉所得税の納付は、該当の請求書について支払を行った翌月10日までに行うというルールのため、支払う前は、まだ預り金ではないという理屈です。
ただし、「未払金」「預り金」どちらも、負債カテゴリの科目に属するため、ここでの「正しさ」は表示上の正しさになります。

個人的な感覚としては、翌月に納付されることが確実、金額も確定しており少額であることが大半、税金計算も絡まないため、そこまで厳密さを求められるポイントではないと理解しています。

ちなみに、大手監査法人に勤めていた会計士の友人にも聞いたことがあるのですが、監査において論点になることは基本ないだろうという見解でした。Twitterの会計士クラスタで有名な方もあまり気にしてなさそうでした。

実務上の簡便さ

実務上の簡便さは、とても重要な論点です。
簡便さを捨てて、正確性を追求したところで、月次決算が期限までに終了しなければ、本末転倒なので、財務会計上の正しさは一定程度担保しつつ、簡便さも追求するというのが原則的な姿勢です。

今回の源泉所得税における簡便さは、それぞれのパターンごとに、どのような簡便さ(面倒さ)が存在するのか理解することが大切です。

①費用計上時に預り金計上
○: 仕訳は最も簡便です。(財務会計上の正しさは少し損ないますが)
○: 未払金の残高と総合振込の支払額が一致します。
△: 預り金の残高と源泉所得税の納付額は一致しません。
②支出時に預り金計上
○: 預り金の残高が、源泉所得税の納付額と一致します。
△: 支払額と未払金の残高は一致しません。
△: 支払時の仕訳で請求書を見て税額を控除していく必要があります。
③費用計上時に支出予定日で預り金を先に計上
○: 未払金の残高と総合振込の支払額が一致します。
○: 預り金の残高が、源泉所得税の納付額と一致します。
△: 最初の時点で支払期日の仕訳を入れるのが少し手間です。(宣伝: LayerX インボイスを用いると面倒なく可能です)
[リスク] 先に支払予定日の日付で預り金を計上するため、実際の支払日が変わると問題になる場合がある。

個人的な見解

基本的に未払金の一致を優先したほうが良いと考えています。
・先に支払うのは、顧客であるため未払金の計上ミスがあれば、この時点で気づくことが可能
・源泉所得税の控除が発生する取引先は一部であり、その他も含めた取引先全体において支払額を間違えるリスクの低減や実務的な簡便さを優先すべき
という要因からです。

①費用計上時に預り金計上 と ③費用計上時に支出予定日で預り金を先に計上は財務会計上の正しさをどう考えるかというところで判断が別れます。
そこまで財務会計上の正しさを重要視する必要がない論点と考えているため、仕訳が最も簡便な ①費用計上時に預り金計上 が好みです。
財務会計上の正しさを優先したい方は ③費用計上時に支出予定日で預り金を先に計上 が良いでしょう。

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