見出し画像

映画「金の国 水の国」視聴感想

「このマンガがすごい!」で1位だった同名コミックが原作のアニメーション映画です。
実は私、原作の岩本ナオ先生の「町でうわさの天狗の子」のファンでして、こちらの作品ももちろん漫画で履修済み。
ということで、感想いかせていただきます!


■映画情報

【公開】2023年
【原作】岩本ナオ
【監督】渡邉こと乃
【脚本】坪田文
【上映時間】117分

■ざっくりあらすじ

金の国アルハミドと、水の国バイカリ。
遥か昔から戦争を繰り返し今や国交を断絶している2つの国だったが、古き盟約の元、アルハミドは国一番の美女を嫁に、バイカリは国一番の賢者を婿に送ることになった。

アルハミドの辺境に住む第93王女サーラはバイカリからの婿を迎えるが、送られてきたのは犬だった。サーラはこれが開戦のきっかけになることを恐れ、このことを隠すことに決める。
おなじくアルハミドからの嫁を迎えたバイカリのナランバヤルだったが、こちらに到着したのは猫だった。ナランバヤルもまた、戦争を避けるためにこのことを隠すことを決めた。

送られてきた犬と猫を伴侶の代わりに可愛がっていた2人は、ひょんなことから国境で出会う。それをきっかけに、姉たちから夫を紹介するように言われて困っていたサーラは、ナランバヤルに夫のふりを頼むことにした。
平和のために偽りの夫婦を演じることになった2人だったが、次第に心を通わせていく。
平和な日々のため、よりよい明日のため、お互いを大切に想いながらも真実を隠したまま、それぞれが国を揺るがす事態に巻き込まれていく。
そしてそんな2人の優しい嘘が、やがて両国の未来を変えていくのだった。

■ざっくり感想

率直に、もったいないーーー!!!と思いました。
私は原作ファンなので多少厳しい目で見てしまっている部分もあるかと思いますが、それにしてももったいない!

いや、良かったです。良かったんですよ。
ちゃんと泣きたいところで泣けて、観終わった後もほっこりと優しい気持ちになって。映像も綺麗で、音楽もドラマティックで。
原作未読の方でも楽しめるようにキレイにまとめて仕上げられています。

でももっと、もっとやれたはずなんだ!!!というファン特有の面倒くさいモードに入ってしまいました。

まず、かなり駆け足!!!
ぎゅっとまとめているので仕方がないんですが、全体的にもう少しゆったり見たかった……。

特に金の国がどんなに豊かなのか、いかに黄金色に輝く美しい国なのかはもっともっと時間をかけて見せてもよかったと思います。作画や、光の表現はむしろ良かったからこそ余計にもったいない!
レオポルディーネお姉様の水路の思い出も、もっと水を見せて欲しかった。そのシーンがあるからこそ、今やそれが叶わなくなっているんだという厳しい現実がより見えた気がします。

原作漫画だともっと繊細に心の機微が表現されていて、でもそれが分かりやすくセリフになって説明されているわけでは無いので、その余白部分を映像にするとなると時間がかかりすぎてしまうのかもしれません。
そのせいかそういう面でも間というか、テンポが詰まっている感じがあって、そこでサーラの心がどう動いたのかとか、サラディーンさんとレオポルディーネお姉様の複雑な心模様とか。それこそ、ナランバヤルさんのサーラへの思いの募り方とか。
そういうのがちょっと原作未読の視聴者には伝わりきらないんじゃないかなーと思いました。

細かいところは設定が変わっている部分もありましたが(目立つところだと国の名前がついたりとか)、とはいえ概ね原作通りだったので、逆に原作への愛が強すぎてあんまりいじりたくなかったのかなぁと邪推したり。
そうなると、2時間かけられない映画で仕上げるには窮屈だったんでしょう。

あと岩本ナオ先生の作品に漂う独特のシュールさというか、致命傷は負わされないけれど身体中に擦り傷をつけられる感じというか。
7割のやさしさと2割の毒気と1割の理不尽と、みたいなあの空気感は、美しくまとめきったが故に出せなかったかなぁーーーーーというのが素直な感想です。

もう諸々分かるけど、分かるんだけど、もったいないよーー!

■俳優さんが声を当ててはいるけれど

まずはナランバヤル役の賀来賢人さんがすごい!
事前にどなたが声を当てているのか知らないまま観始めたんですが、本職の方かと思ったほど、アニメーション映画らしいお芝居でした。

俳優さんってどんなにお上手な方でも、というかお上手な方だからこそ、本職の声優さんとは違うお芝居をされると思うんです。それがすごく良いという場合もあるし、作品によってはアニメらしい演技が最適解でない場合もある。
かといってここは絶対アニメ声優らしい演技で来てくれ!という場面もあるし、結局のところ、どちらかが劣るということは全く無いと思います。

それを踏まえたうえで、今作の賀来さんの演技はすごかった!
脇を固めていた声優陣がかなりの実力派揃いだったので、そこから著しく浮かなかったのがまず素晴らしいと思います。

サーラ役の浜辺美波さんも、とりあえずこの人、声まで可愛いのか……と思いました。
こちらも事前に誰が声を当てるか知らず、そして正直に言えば俳優さんだなとすぐ分かりました。ただし、それは下手だったからということではなくて、単に他の方がアニメらしいお芝居だったからというだけです。たったそれだけ。
感情が分かりやすく動く役だと要求されるお芝居の種類が多いので、サーラ役はかなり難しかったと思います。
女の子の心模様は複雑なのよ……。

■ルクマンとオドンチメグかわいすぎ

サーラは婿に来た犬にルクマン、ナランバヤルは猫にオドンチメグという名前をつけて可愛がるんですが、この2匹がもうとにかく可愛い!
マスコット的に多彩な表情もありつつ、仕草はちゃんと犬猫のそれでかわいすぎる。

マスコット的なことで言えば、下手すると人気No.1キャラなのではと密かに疑っているライララさんという登場人物がいるんですが。
いやもう原作に続き最高でした。特にエンドロールでクスっとしました。
ぜひ注目してください。

■まとめ

原作はガチガチの少女漫画ですし、戦争モノでもなければ、歴史モノでもありません。
ご都合主義かもしれない、ハッピーエンドを迎えるためのおとぎ話かもしれない。
ふわっとしたファンタジーの、ひたすらに優しい物語です。

骨太な作品を求めたり、政治的な駆け引きを楽しみたかったり、激しい戦争シーンを観たかったり、そういうのを求める方はそもそも全くのお門違いです。
たまにはそうじゃない、甘やかな作品をまったりと鑑賞したいと思った際にご覧ください。

迷ったり傷ついたりしながら、それでも人と心を通わせること。
優しい視点で明日の生き方を考えること。
大切な人をきちんと大切にすること。
そういうものに包まれたい方におすすめの作品です。

誰も傷つかない、ひたすらに優しい物語に浸りたいかたはぜひ!
合わせて原作もぜひ!

この記事が参加している募集

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?