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おいしいごはんが食べられますように

 去年最後の精神科の診察で主治医が言ったことばは「寝正月にならないように」だった。
 素直な性格の私は、1日にバタバタと実家から自宅へ帰り、2日はお友だちと叙々苑に行った後ショッピングに明け暮れた。3日には付き合ってくれるお友だちもいないので、一人で近所の神社に初詣に行き、ドラッグストアやらスーパーやらに寄って無駄に歩き回った。午後はすることもなかったが、寝てはいけないので本を読み始めた。
 そのタイトルが『おいしいごはんが食べられますように』だ。

『かもめ食堂』みたいなぼんやりした人情話というか、ほっこりする話、を期待していたのだが、その期待はあっさり裏切られた。ほっこりするどころか、胸の悪くなるような話だった。
 特に辛かったのは、その中に「芦川さん」という、まるで私のこと見て書いたんですか?みたいな女性が出て来て、周りをとにかくうんざりさせているのである。
 芦川さんは体が弱い。何の病気なのかは知らないが、片頭痛だとか何とか言ってしょっちゅう早退する。同僚が遅くまで仕事をしていても、定時少し回ると帰る。仕事は早く帰る癖に、平日の夜にお菓子を作って、次の日会社で配ったりする。芦川さんはメンタルも弱い。自分がしたミスを、相手先に謝りに行くのも、同僚に行かせて自分は同行しない。彼女の仕事の尻拭いは我慢する人、仕事が出来る人に回っていく。給料だけはちゃっかりもらう。だけど何となく許されている。許さなければならない雰囲気を彼女は持っている。愛想が良くて、見た目が良くて、逆にセクハラおじさん上司にはウケが良いほどである。
 私は見た目は全然良くないのだが、その点を除けば(非常に大事な点に思えるが)、芦川さんそっくりである。双極性障害で、仕事は大幅に軽減され、毎日定時に上がり、休日にお菓子を作って職場で配っている(平日の夜は8時には寝ているので何もしないが)。おじいさんたちと仕事をしているので、別に美人ではないがチヤホヤされ、誰も私に厳しくなんかしない。

  レビューを見ると、芦川さんに腹が立つ!というものが目立つ。ああいう女って何考えているの?天然?計算?みたいなことが書かれている。そこで「ああいう女」である私が何を考えているのかここでお伝えしたい。
 まず、なぜ私がクビになる恐れがほとんどなく、病気には存分に配慮してくれ、年功序列できちんとお給料が上がっていくような安泰な会社に正社員として紛れ込めたのか、という話になるが、これは単純にペーパーテストに強いからだと思う。でも実際働き始めると、頭の良さよりも大事なのは体力とガッツであると私は思う。そこで私は落ちこぼれとなる。しかもペーパーテストが出来ることと、普段の仕事でポカミスをしないこととは全く別の能力であるので、しょうもないミスを頻発する。それを叱られたり、自分で責めたりしていると熱が出たり、風邪を引いたりする(半年以上風邪が治らなかったこともある)。調子が悪いので余計にミスをするようになる。
 そうなってくると周りの反応は二手に分かれる。コイツ使えねぇな、と思って諦め、簡単な仕事しか回さないようにして適当にあしらうか、いじめるか、である。その結果私はいじめには何度もあってきたが、管理職に訴えたり、診断書を出したり、仕事を休んだりしているうちに、配慮が働き、周りからいじめる人が排除され、適当にあしらう人ばかりになった。
 かくして簡単な仕事をミスばっかりしながらやって、体調が悪いとすぐに休み、それが許されてしまう「ああいう女」が出来上がるのである。レビューでは「病気の人枠」とか「繊細ヤクザ」とも呼ばれていた。

 核心である、何を考えているの?という質問に関しては、あまり考えないようにしている、が答えである気がする。天然だの計算だのというよりは、甘やかしてもらわなければ仕事が出来ない、ただそれだけの話である。そんな奴は辞めてしまえ!という人もいると思うし、4回仕事を辞めてみたが、どこの職場でも似たり寄ったりのことが起こる。申し訳ないがこちらにも生活があるので仕事をしないワケにはいかない。甘やかして下さる皆様には感謝しかない。
 私にだってやる気があった日々もある。ハードワークに耐えたこともある。情けない自分に涙したこともある。どこかに向いている仕事があるんじゃないかともがき苦しんだ日々もある。でも無理だった。自分の限界はみんなの限界よりもずっと低いところにあった。だから自分で自分をどこか諦めて生きている。そんな毎日である。

 これでも一応、クライアントからの顧客対応満足度評価は社内一位だった。専門職なので、専門の部分だけは頑張っている。と、いうことで、許して…もらえないかなぁ?


 

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