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【二人芝居 脚本】「ゆみちゃん」10分 作:長沢郁美

二人芝居「夢かもしれない」の公演用に執筆した脚本をアップしてみます。こちらの脚本は、私たちの存在や人生についてをテーマに、脚本にしてみました。ややシリアスで最後は変な夢を見ているような雰囲気ですが、なるべくポップにしたいと思って演出しました。劇中の「宇宙的じゃなくて宇宙なの!」というセリフは、岡本太郎の「宇宙的ではなく宇宙なんだ。」という言葉から引用させてもらいました。
私はAを、公演の相方のむらやまちあきちゃんがBを演じました。
もしもどなたかがどこかで演じてくださることがあったら、うれしいです。
(その際には一言instagramにでもご連絡だけくださいませ〜)


「ゆみちゃん」

作 長沢郁美                
登場人物 2名
時間 約10分

(A、Bが二人で部屋でまったり過ごしている。二人は机に座り、
Aは、ぼーっと窓を見ている。Bは、何か手をぐるぐるしている。)
A 「ねーゆみちゃん、雨強くなってきたー。」
B 「(窓の外を見て) あ、ほんとだ。洗濯物、さっき取り込んでおいて良かった〜!
間 (また元の動作に戻る)」
A 「あ、そういえば、ゆみちゃん、カレー知らない?」
B 「カレー うーん?」
A 「昨日の夜、チキンカレー作ってさ。2時間煮込んだんだよね。」
B 「やったーカレー!」
A 「なんか鍋ごと無くなって。」
B 「鍋ごと?すご〜〜い 」
A 「昨日の夜に探したんだけど、なぜかないんだよね」
B 「へえ〜。私、あのカレー好きー。」
A 「ふふふ。ゆみちゃん、いっつも3杯食べてくれるよね。」
B 「うん。お腹が苦しいんだけど、気がついたら、いつも食べちゃってるの。」
A 「ふふふ。ゆみちゃんいつも無心でカレー食べてるもんね。」
B 「え、そう?」
A 「うん、話しかけても、声が届いていないみたいで。あの天井の、ほら、あそこの角のところ。あそこをいつも見つめながら、食べてる。こういう感じ。(真似する)」
B 「えーそうなんだー。実は私さ、今だから言うけど。カレーって元々大嫌いだったんだよね。」
A 「え?そうだったのー?知らなかった。早く言ってよ。結構経ってるのに。」
B 「うん。ここに来た日にさ、作ってくれたじゃん?」
A 「(思い出して)ああーそうだった。」
B 「あの時さ、本当は「うわーカレーかー。きついけど、食べないと悪いな・・・」って思ってさ、無理して食べたのよ。」
A 「へえ」
B 「そしたらさ、美味しくって。気づいたら、3杯食べてて。」
A 「えーー。嫌いから、普通を飛び越えて、好きになったの?すごくなーい?私のカレー」
B 「なんかさ、その時に私たちならやっていけるって、思ったんだよね。」
A 「(照れて)そっかあ。」
B 「(照れて)うん。」
(間。お互い見つめ合う。その後、お互いに少し悲しそうな表情に。)
B 「(空気を変えるように)あーお腹空いてきた。カレーの鍋、ほんとにないの?」
A 「そう、鍋ごと消えて。今日なんか夕方に誰か来るっぽいから、大量に作っておいたの。ほら、あの一番大きな鍋で。」
B 「えー?あの鍋だったら、なくなりようがないけどねえ。どこいったんだろう。(探しにいってすぐにBが大きな鍋を持って戻ってくる)あるじゃんーー!」
A 「えー!?どこにあった??」
B 「ここの廊下の真ん中に置いてあったよ!!(鍋を置く)」
A 「 えー 廊下かあ。なんで落としたんだろ。
B 「いつもすぐ落としちゃうからねえ。」
A 「あーーまたかー。カレーは無事?」
B 「(中身を見る)大丈夫みたい。お〜今日も美味しそう。 (Aを見て)この家の中で無くしたものは全部私が見つけるよ。」
A 「ありがと。助かるー。優しいじゃん、今日。」
B 「せっかく一緒に暮らしているんだから。お互い、得意なことだけをしていこうよ。」
A 「いいね。そういう考え方、好き。」
B 「私に新しい世界を見せてくれたから。 」
A 「え?」
B 「新しい世界。カレーを食べる世界。」
A 「大袈裟だよー」
B 「ううん、私にとってはすごい変化だったの!カレーを食べたあの時から、世界の見え方が変わったの。それまで世界が白黒だったのが、カラーになったみたいに。」
A 「えー?それって、本当に私のカレーのお陰なの? 」
B 「絶対にそう。あの日から全てが良いサイクルに周りはじめてるの。」
A 「えー それは良かったけど。・・・カレーで?」
B 「信じてくれなくてもいいけど、私にはわかるの。感じるの。」
A 「へえー じゃあすごいんだ。私のカレー。私がすごいのかな?」
B 「そうなの、すごいの!カレーを作ってくれて、感謝してる。」
A 「お、おお」
間 
B 「あ、雨が止んでる。(見に行く)ゆみちゃーん・・・!来てー、空が綺麗だよ。」
A 「(見に行く)ほんとだ・・・!ゆみちゃん、すんごいピンクだね。きれーい。」
B 「あ!ゆみちゃん、見て、虹!あそこ!」
A 「あ、ほんとだ。きれーーーーい!!!あ、ゆみちゃん!鳥!なんかみたことない。ほら、黄色いの飛んでる! 」
B 「えええー!あ、ほんとだねー!ゆみちゃーん、きれーーーい!」
A 「夢みたいーー」
AB「はあああ・・・・(しばらく2人で眺める)」

長い間

A 「(ゆっくりと我に返って)ゆみちゃん、わたし時々さ、頭がおかしくなりそうになるよ。」
B 「そう?」
A 「ゆみちゃんはならないの?この小さな部屋で、なぜか2人で暮らすことになって。」
B 「(なだめるように)ならないよ。ゆみちゃんのカレーが美味しいからね。あと、楽しいし。」
A 「どうしてここで暮らすことになったのか、思い出せないし。外に出ることもできないし。2人ともゆみちゃんでややこしいし!」
B 「それはもう慣れたよ。それより、この景色を見てたら、どうでもいいことだよ。」
A 「ゆみちゃんは強いなあ。」
B 「そんなことないよ。考えてみてよ。誰も本当のことなんてわからないんだよ?どうして私がゆみちゃんのカレーでこんなに変わったのか。そもそも、カレーは本当にカレーだったのか。」
A 「え?」
B 「瞬間瞬間で世界は変わっているのかもしれないって思うのよ。カレーの概念だって、誰も知らない内に変化しているのかもしれないし。」
A 「わかるような、わからないような。」
B 「カレーが本当に実在しているのかだってわからないんだよ!?それは、私たち自身も。だって色々覚えてないことが多いじゃない?」
A 「まあ。」
B 「色々忘れちゃうし、全てはわからないのよ。例えばさ、動物が見ている世界と人間が見ている世界は同じではないでしょ?だったら、ゆみちゃんと私だって本当に同じ世界を見てるかはわからないでしょ?」
A 「うーん。まあーそう言われたら確かにそうだね。」
B 「それとか、宇宙の終わりってどこ?わからないでしょ?もしもここが終わりだとしたら、こっち側は?無なの?でも無ってなに?・・・じゃあ時間の始まりと終わりは?時間ってループするの?しないの?」 
A 「ええ〜スケールが大きい。・・・でも確かに。宇宙的な考え方だね!」
B 「(興奮して)宇宙的じゃなくて宇宙なの!地面がこっち(床を指す)だって決めつけているけど、地面はあっち(天井を指す)かもしれないよね? そうするとこっち(床を指す)は?空だよね?」
A 「はああ〜!」
B 「(考えながら)いや、こっちが空っていうのも、単純すぎるのかもしれない。(右を指して)こっちかもしれない。いや、逆にこっち?(前を指す)
(だんだんヒートアップして)あ、もしかしたら、本当の空は私たちの内部にあるのかもしれない。それか、私たちが空だと思っているものは、本当はゆみちゃんの右足のくるぶしなのかもしれないよね?世界は、もっともっと複雑なんだと思うのよ。私たちが考えている以上に!
もっと言ったら、私たちは、どちらもゆみちゃんだし、どちらもゆみちゃんではないかもしれないの・・・!
(息を整えて)でもね、そんなことどうだっていいの。わからないことはわからないんだから。」
A 「ゆみちゃん、すごい・・!」
B 「ふふふ。そう考えたら、どうしてここで暮らしているのかなんて、どうでもいいよ。考えたってわからないんだし。忘れたことは思い出せないし。(強く)楽しいし。」
A 「うん。そうだね。(間)・・・ねえ、ゆみちゃんって好きな人いる?」
B 「・・・・いるよ。ゆみちゃんは?」
A 「私もいる。」
(A B、顔を合わせて変な顔で照れる。)
B 「ねえ、お腹空いたよ〜。」
A 「あ、じゃあ。食べよ。」
B 「ありがとー」
(Aが鍋を持って出ていく)
(間)
A 「お待たせー(お皿を持って帰ってくる)」
B 「わー いい匂いーー 」
AB 「(元気よく)いただきまーす!」
B 「あ、今日って誰か来るんだったよね?」
A 「(食べながら)え?そうだっけ? 」
B 「さっき、言ってたよ。」
A 「あ、そう?」
(Bはうなづいて、食べはじめる。天井の角を見つめて食べる。チャイムの音がする。)
A 「あれ、誰だろ。はーい。」
(Aが出る。Bは無心で食べてる。Aが慌てて戻ってくる)
A 「ゆみちゃん!またゆみちゃんが来た!」
B 「えええ?」
(新しいゆみちゃんにマイムで2人は挨拶する。Bが新しいゆみちゃんにカレーを渡す。)
(再びチャイムの音がして、A 、Bが顔を見合わせる。)
B 「(勇敢な感じで)今度は、私が。(慌てて戻ってくる) ゆみちゃん、またゆみちゃんが!」
A 「ええええー!」
(再びチャイム音)
A B 「 (顔を見合わせて)ゆみちゃんだ!」
(チャイムが何回も鳴り、だんだんスペースがなくなり、だんだん暗くなる)
A 「どんどんゆみちゃんが来ちゃう!!」
B 「カレーが足りない!!」
A 「ゆみちゃ—ん!」
(ただいまと男性の声)
A B 「(夢から醒めたように。二人、正面を向いて)・・・たかし!?」
暗転
おわり



2024年3月23日
二人芝居「夢かもしれない」
i Rego Garage

作・演出・出演
長沢郁美 むらやまちあき

楽曲提供 村山愛也佳
音響 ハチロー
照明 こいでまりも
スタッフ 池田貴子 長沢涼音
写真撮影 武智周三
協力 池田練悟  劇団Clowncrown

Photo by @shuzotakechi

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