山口つばさ「ブルーピリオド6」
主人公がいよいよ藝大の2次試験を迎えます。3日間の試験を、その試験の中身にまで踏み込んで、こうしてぐいぐい引き込まれる物語にできるのは、藝大受験だからなんだろうなあと思います。
学科試験だって、試験がスタートしたら、問題冊子の最初から最後までざっと見て、どこからどう解いていくか、時間配分を考えてどこで見切りをつけて、他の問題に行くか、といったドラマがあるわけなのですが、それを誰かに伝わるように、共感してもらえるように書くのは、なかなか難しいかもしれません。
そして、学科試験にだって、試験の前日までの積み重ねがどうだったのか、ということにそのドラマの内容が左右されるわけで、あの時のあのパターンだの、この解き方だの、が浮かんでくるわけですが、それもなかなか表現が難しいかもしれません。
私は絵を描くのは好きでしたが、描くことに死に物狂いで向き合って、考えて、全身の力を振り絞って、という経験はありません。なのに、読みながらとてもドキドキしました。
そして、読み終えた後は、自分自身の18歳の試験の時のことを思い出していました。
大した冒険をする高校時代でもなく、ほぼ帰宅部(実は天文部だったけど、結局日食をみんなで観察したことがある程度)、浮いた話もなく、まっすぐ帰って勉強して、週一だけ、都内の数学の塾に通わせてもらって。センター試験でものすごく失敗して、周りの雰囲気に刺激を受けて気持ちが不安定になるのを避けるために試験休みに入る前からもう学校休むことにして、毎日公民館に通って勉強して。
ブルーピリオドの登場人物たちのように、自分に向き合ったり、考えたり、それを表現したり、ということはなかったけれど、ベクトルは単純だったけれど、それでもやっぱり、戦っていたのかな、と思ったりもしました。