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谷山雅計「広告コピーってこう書くんだ!読本」

ものすごく良かったな、と思う一方で、この今から15年前に書かれた本を読んだことを、秘密にしておきたくなったりもしました。コピーライターがどんな風に言葉をつなげて、他の人が目にとめて記憶に残り、そこから他の人にどんな風に伝わっていくのか。その秘密について、徹底的に考えています。ここに書かれていることを意識して、思考を突き詰めていけば、人を動かす言葉が書けるんじゃないか、という気がしてきます。だからこそこっそり鍛錬し、自分に自信がついた辺りで、「実はこんな本がきっかけだったんです」と取り出して見せる、そんな妄想をしてしまいます。
ですが一方で、こうして種明かしできる日はくるのだろうか、という気もしてきてしまいます。ここに書かれていることを意識して、というのは、それほど簡単なことではありません。例えば「なんかいいよね」禁止。

あなたは、いい映画を見てドキドキしたり、いい音楽を聴いてホロッとしたり、いい小説を読んでジーンときたりしたときに、しばしばこういう言葉を発してはいないでしょうか。
「なんかいいよね」「なんかステキだよね」「なんかカッコいいよね」と。明日から、それをきっぱりやめにしてほしいのです。そしてかわりにこう考えてみてください。
「なぜいいのか。これこれこうだからじゃないのか」「なぜカッコいいのか。こういう工夫をしたからじゃないのか」と。

なるほど、と思いました。それで、意識してみようと思ったのですが、実は2日後に相変わらず「すごい」を連発していることに気付きました。なぜ「すごい」と言ってしまうのだろう、と考えてみると、一人でいる時よりも、特に誰かと話している時の方が「すごい」という言葉が浮かんでいます。すごいという言葉は肯定的で(たまに否定的なときもあるけれど)インパクトがあり、気持ちが大きく動いたことを伝えつつも、厳密でない分、許容範囲が広い。相手も自分のイメージする範疇で受け取り、通じ合って共感できた気になりそう。都合のよい言葉なんだなと思いました。
そして、都合が良くて、同時に怖い言葉。同じ考えだね、同じ感じ方だね、とお互いに思っていて、実際には違うかもしれないのです。ずいぶんと言葉をいい加減に使ってきた、つまり、全然何も考えていないんだな、ということが判明してしまいました。

本の中では、色んな広告コピーを例に出しながら、どんな風に考えていくか、ということを教えてくれます。私が印象に残っているものも多く、懐かしい感じもしました。
「そうだ、京都、行こう」
など、とても斬新な印象を受けたのを覚えています。
なんとなく、すごいな、と思った記憶がありますが、実はそうしたコピーのどれもに、これを読んだ人がどんな風に感じるか、どんな行動を起こすか、どんな風に話題になるか、そこまで考えられています。仕掛けが準備されている感じなんだなと思いました。
谷山氏が手がけたものの中にYonda?という新潮文庫のキャンペーンがあります。このキャンペーンが始まった時のことも覚えていました。それまでお堅いイメージだった新潮文庫がこんなの出すんだ、みたいな記憶がありました。それほどお小遣いも多くなかったので、本は図書館をよく利用していたため知らなかったのですが、帯にクーポンがつけられていて、集めるとグッズがもらえるという仕組みになっていたそうです。谷山氏も書いていますが、名著の文庫本は他の出版社からも出されている。では何で選ぶか、というと、翻訳ならだれの訳かで選ぶ場合もあるけれど、日本語で書かれていた本だとしたら、表紙くらいかもしれません。でもそこでクーポンがあれば、また違ってきます。そしてこのキャンペーンは1998年に開始され、この本が出版された後も続き、2014年までの16年続いたとのことです。これは谷山氏の目論見通りなのだと思います。

「さっすがコピーライター、うまい!」などと思われないように書きたい。そのほうがキャラクターとして、みんなが手に取りやすくなったり、もち歩きやすくなったりするのではないかと思うんですね。
別の言い方をすれば、ぼくが書くコピーの言葉は、”観賞用”ではなく、徹底的に”日用品”だということです。

そう考えてみると、この本もこうして書かれてから15年経った今でもふるびた感じを感じるどころか、みずみずしい印象を受けます。もちろんそれは私が広告に関してしっかり勉強したり。最新の情報を追っているわけではないからなのかもしれませんが。つまり、この本も、人を動かす言葉を生み出したい人のための、”日用品”を目指して書かれたものだからなのかもしれません。まずは「なんかいいよね」禁止に、簡単ではないかもしれないけれど、取り組んでみます。


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