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堤直規「公務員1年目の教科書」

チームに新規採用職員が入りました。1日目の研修が終わり、課長から紹介された後、係で受け入れたわけですが、私は一応直属の上司であるはずなのに、急に人見知りが発動してまごまごしてしまいましたが、先輩指導員として指名していた若手が、スムーズに係員全員を紹介してくれました。
その後、「課内の案内もしますね」と言ってくれて、消耗品の場所などを説明し始めたので、私は仕事に戻りました。
その後席で少し話をしていたので様子を見ると、新採さんの机の上に、ネットで購入してカバーがつけられたままの本が置いてありました。
先輩指導員がプレゼントしたとのこと。
「すごい、準備してくれたんですね、ありがとうございます」
と声をかけると、
「これ、自分も新採の時に薦められて。その人は、読め、と言っただけだけれど」
と笑いながら話をしてくれました。新採さんにも「良かったですね」と声をかけました。
私も読もうかなと思っていたところ、机の引き出しから同じ本を出してくれました。
「読みますか?」
と訊かれ、私は遠慮なく、その数年前に先輩に言われて購入した本をお借りすることにしました。

係に新採職員が配属されて、何か本を読もうかな、と思っていたのですが、最近の若手はどんな感じなのか、とかそんなことばかり考えていました。もちろん最初はこちらから色んなことを教えていくことになるとはぼんやり思いましたが、どんなことを身につけてもらおうか、という視点はなかったな、と思い至りました。
なので、ちょうど良かったです。

私が新採職員だった時に、上司だった人のことを思い出しました。
一番記憶に残っているのは、よく例規集を見ろ、と言われたことです。当時の例規集は今のように検索して分かるものではありません。広辞苑的な分厚さの冊子3冊のどこに自分が探しているものが載っているのか、なんとなく分かるようになるまで、本当に苦労しました。
一方、上司はパソコンを覚え始めたばかりで、私に頻繁に質問しました。席な斜め向かいなので、反対側に回ってパソコン画面を見なければいけません。自分は例規集を見ろというけれど、こっちだって、マニュアル本を見てください、と言いたい、といつも思っていました。
何かを決める時の起案文書の作成についても、いろいろと指導されました。たくさん赤入れされて、文章を書くことは得意だったつもりだから、不満に思ったこともありましたが、徐々に、行政の文書はこういうものなんだ、ということが分かってきました。振り返れば、本当に色んなことの基礎を教えてもらったと思っています。

この本に書かれていることを読んで、改めて、本当に大切なことを教えてもらったと感じました。私ははとても幸運でした。

本の話に戻ります。私がこの本を気に入った理由の一つに、ただ1年目で学ぶべきことを並列して書いているわけではない、ということです。

STEP1 最初の1か月で身につけたい「7つの習慣」
STEP2 3か月目までに覚えたい「仕事の鉄則10か条」
STEP3 1年目に必ず磨きたい「公務員の必修スキル」
STEP4 10年目までに自分のものとしたい「公務員のプロの心得」
STEP5 10年後からが楽しくなる「錆びない自分のつくり方」

このように、タイミングに合わせて、どのようなことを身につけたいか、ということが細かく書かれています。ただし、ここに書かれているのは知識ではなく、公務員として生きていくための姿勢や習慣です。
実際にどうやるのか、ということは、組織文化もありますし、また時代の変化によって変わってくると思います。なので大切なのは、どう仕事に取り組むかという姿勢や習慣なのだと思います。
体系的に意識してだったのかどうか、今となっては分かりませんが、最初の上司が教えてくれたことが、あちこちに書かれていました。
とはいえ、教わったことの全てを習得できていたわけではありません。
もう20年以上も公務員として仕事をしてきて、なんとなく色々をやってきたつもりでしたが、できているところもあれば、課題があるな、と思うこともありました。一方で、自分が完璧でないと分かっているからこそ、他の人の得意なところに頼り、指摘を素直に受け入れられるのだ、と感じた側面もあります。

この点だけは、多分、私も90%くらいは身についていると思うことがあります。それは誰にでも敬意を払うということです。

「一寸の虫にも五分の魂」(中略)
いろいろな職員と接すると、欠点だらけに見える人もいるかもしれない。けれども、その職員にも必ず長所はある。そして、誰もがプライドを持っている。そのプライドを重んじなければ人と付き合っていくことはできない。そう教えていただきました。

本書

大切だと思い、共感をしますが、やはり10%くらいはできていないと自覚しています。
そして、できなかった10%にかなり苦しめられました。再任用職員で既に自分の責任の範疇でないことについて、責任があった時代と同じような言い方で指摘してくる人がいて、そのことがどうしても許せなかったのです。いつも「俺は聞いてない」という言い方をしました。心の中で「あなたは調整すべき人ではないから行かなかっただけ」と思いました。もう関係なくなっても、その人の席の近辺に行くだけで動悸がするくらい嫌で、同時に傷ついていました。権限がなかったからこそ、言葉で牛耳ろうとしてきたのかもしれませんが、みじんも敬意を払う気になりませんでした。
結局こんなに傷つくなら、少しはプライドを重んじてみればよかったのだろうか、と思ったりもします。

本を貸してくれた若手も、「自分も全然できてません」と言ってはいたけれど、先輩らしさを見せてくれたり、仕事の上でもうまく事を運んでくれたり、変えるべきところは変えてくれたりしています。
もちろん彼のもともとのポテンシャルもあるのかもしれませんが、こうした本を新採の時に読み、意識したことがあったから、色んなことを吸収できたのかな、と考えたりしました。

私も改めて、足りないところを振り返りつつ、公務員人生の最初の上司として、いい学びの手助けができたらなと思います。

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