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寺本英仁「ビレッジプライド 『0円企業』の町をつくった公務員の物語」

村おこし、地域おこしって言葉、当たり前のように使っていたけれど、この本を読み終えた後、その言葉に強烈な違和感を覚えた。村は、地域は最初からその場所にあるのだ。そしてどの村も、どの地域もきっとものすごい魅力を抱えているはずだ。けれどそれは表に出ているわけではない。誰もが意識しているわけではない。でも心の底では、しっかりと形を持っているのだと思う。
この本は、それを探し出し、人に見せ、伝えるためにはどうすればよいかということが、著者の経験を踏まえて書かれている。少し難航した時期があったとはいえ、さらりと読むと色んな取り組みがどんどんうまくいったような印象を受ける。でもそれはうまくいかなかったことから学びを得て、路線変更してきたからこそ、全てがつながっているのだと思う。
新たな取り組みをすることはとても難しいことだ。何か一つ決めるのにも、決断がいる。そして誰も決めたがらない。行政ではよく計画を策定するけれど、それは大抵、総花的なことしか書かれていない。優先順位を決めるのはとても難しいことだからだ。市長は自分を選んでくれた市民の代表でなければいけないし、あらゆる分野について一つ一つ決断していくことは不可能である。どの組織でも同じなのかもしれないけれど、特に自治体においては、ある一定の範囲のことは、強い思いを持った担当が腹をくくらなければいけないこともあるのだ。
とはいえ、彼が全てを決めていったというのとも違う。
本の中にはとても魅力的な人物がたくさん出てくる。たとえば「アグリ女子」と言われる人物が出てくる。有機農業をやりたくて東京からやってくる。畑を用意されて、炎天下の中全部自分でたい肥を投入するための穴を3週間かけてスコップ一つで掘るくらいのガッツがある。他にも様々な素敵な人が出てくる。人材に恵まれていた、一瞬そう思ってしまう。けれど、実際のところは違うだろう。誰の周りにも素晴らしい人たちはたくさんいるのだ。けれど、寺本氏はその存在に気付き、関わりを持ち、その人が何をやりたいのかを考え、それぞれに合った役割をお願いしたりすることで、その人が活き活きと動き出して、全体として大きな力になったのだ。寺本氏はアグリ女子のためにプログラムを自分で考えるよりも、本人に自分が習いたい講師を見つけてもらってそれをプログラムにする方がよいと考える。彼女にそれを提案すると嬉しそうな顔をして、そして数か月後に信頼できる師を見つけてくるのだ。
本の最後に藻谷浩介氏との対談が掲載されていて、その最後にこんな風に寺本氏は話している。

楽しい地域に人は集まります。「楽しい」とはなんだろうって考えると、やはり、自分のことが好きでないと、人生も世の中も灰色に見えて楽しくない。みんな自分のことがもっと好きになって欲しいなって思います。

地域おこしで大事なのは、そのまちがどう見えるかではなくて、そこに暮らす人がその地域を好きかどうか、であり、もっと掘り下げると、そこに住む自分のことが好きかどうか、ということになるのだと思った。

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