見出し画像

志村高史「根拠が示せる!上司も納得!公務員のかんたんデータ活用術」

数字は無機質で冷たいものだとずっと思ってきた。けれど、この本を読み進めるうちに、数字の裏には意味があり、思いがあり、メッセージが込められているというような気になってきた。
正直なところ、私は数字に自信がなかった。そもそも、数字を覚えるのが苦手だ。自分の勤めている自治体の仕事ではもちろん、何らかの数値の推移をグラフにしたり、平均を取ったり、ということくらいはしている。でも少し複雑になると、数字の絡む仕事を後回しにしたりしてしまいがちだ。自分が弱いことは気付いていても、正直、その部分の力をつけようとか、積極的に取り組むことで慣れようとかそういう努力もしてこなかった。
この本を手に取ったのは、自分が今携わっている公共資産マネジメントの分野で、先進的な取り組みをされてきた、秦野市の志村さんが書かれた本だったからだ。以前志村さんは、「自治体の公共資産マネジメント担当になったら読む本」という本も書かれている。この分野の本は、少し難しいなと思うこともあったけれど、志村さんのものは違った。基礎的なことから分かりやすく書かれていて、バランスの取れた、しかも熱意も感じられるものだった。辞令を受け取ったばかりの私のように「公共資産マネジメントって何?」という状態の人にも、ある程度実践してきて、振り返りや足りないところをチェックする人にも役立つ本だ。
その本の中でもEBPM、エビデンス(証拠)に基づく政策立案の大切さを説かれていた。エビデンスの主なものとして挙げられるのはやっぱり数字だ。この本でも公民館の利用率についての事例を挙げて詳しく考え方を説明してくれていたけれど、それでも数字に向き合う一歩が踏み出せなかった。そんな心残りもあったから、データ活用に関して集中的に書かれているこの本にとても期待していた。
最初はデータ活用の重要性について説いている。それから主な行政関係の数字を挙げて、読み方や使い方を説明する。さらに、分析手法や、具体的にどのように政策立案に使っていくか、さらに実行されてからのこととして、検証・改善のためにどうデータを活用するかというところまで書かれている。様々な状況で、数字をどう使っていくか、ということについて、丁寧に書かれている。
一番印象的だったのは、データの乱用、誤用は禁物である、という部分である。どうしても上司からの指示を受けて、期待する結論に導かなければいけない状況というのも生じる。けれど、短絡的につじつまの合う部分を見つけたらそこを強調して使ったり、グラフの作り込みで印象を操作することは、決してやってはいけないことだという。もちろん分かりやすくするために協調したりすることは必要だけれど、このようなやり方では、本質的なことを見失ってしまう。上司の指示に合わない結果が出たとしたら、それを隠さずに提示しなければいけない。
「勇気をもって結果をレポートにまとめ、最低でも上司に報告してください。賢明な上司なら他の方策に舵を切るはずです。
報告していても、方針変更がされなかったとしても、それは、組織の責任であり、あるいは政治判断であるわけです。あなたは担当者としての職責を全うしたわけですから、何の落ち度もないのです」(一部要約)
データに常に真摯に向き合っていれば、そのメッセージを読むことができるし、進むべき方向が見つけられる、そして、その方向に進むための支えになってくれるということが理解できた。数字と向き合ってみたい、という気持ちになった。

この記事が参加している募集

#読書感想文

189,685件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?