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児美川孝一郎「若者はなぜ『就職』できなくなったのか? 生き抜くために知っておくべきこと」

自分と同じ年代の職員が、最近よく辞めます。もちろん次の仕事があって、という人もいるけれど、そういう人ばかりではないのです。私もこのまま仕事を続けていくのだろうか、という考えが過ぎることもあるけれど、今のところ、仕事を続けるという選択をしている感じです。積極的な資産活用をやっているわけではないからFIREに踏み切るのも心配だし、正直、私には専業主婦は無理というのが、育休中に分かったことだったし、一方で、幸いなことに、現状の仕事も天秤にかけたときにやめるを選ぶほど過酷な状況にさらされたり失望したりすることもありません。でも実際、もし今仕事を辞めたとしたら、どう収入を得ていけばよいか分からないのが実情です。
でも今の若い人たちは、正社員になることが当たり前、という状況ではない一方で、自分のキャリアについて考えているな、と感じることもあります。普通の就職の道ではなく、自分のやりたいことを探したり、ミッションに気付いて新しいことを始めたりする人もいます。私がこういう仕事なので、たまたまそういう人に出会うことが多いのかもしれないけれど。先日、友人のお子さんが「俺たちは、会社に飼われるのは嫌だ」と言っていたという話を聞いたりもしたので、若い人全体にそういう意識が広まっているのかなとも考えたりします。
私が社会人になったのは、2000年。1998年の大学卒業後、少し就職も考えたけれど、第一希望の職場に不合格だったこともあり、モラトリアム的に修士課程に進みました。2年で状況が変わるわけもなく、就職を考えて専攻を変えた経緯もあって熱烈な興味を持つこともできなかったため、やっとのことで修士論文を書いた感じだったので、就職を選びました。因みに就職してからも第一希望は計5回受験したけれど、願いは叶わず、就職した職場にそのままい続けています。

この本が書かれたのは、2011年。自分が悩む時期を通り過ぎてしまうと、興味が失われるというか、若者の就職といったことについてあまり考えないでいたことに改めて気付きました。現在の若者の就職が、自分たちの頃と違うことはなんとなく感じていたけれど、それがもう今から顕著に表れていたことだったというのは衝撃でした。

著者は法政大学キャリアデザイン学部教授。学生たちの卒業後の進路の相談を受けながら、自分たちがイメージしている就職と明らかに変わっていることに気付いたことをきっかけに、この本を書こうと思ったと書かれています。
この本ではまず、右肩上がりの経済成長の中、学校の最終学年の間に就職活動を行い、新卒と同時に就職できていた時代から、非正規雇用の増加や、若者の新卒採用が厳しい状況へと変化していることについてデータに基づいた説明がされています。そして、この状況に対応するために、キャリア教育が進められようとしているけれど、それは本当に効果的なものなのか、という指摘がされています。つまり、それは従前の就職の概念、企業に正社員として採用されて、終身雇用で働いて、というのが理想という前提に基づいたものではないかということです。
そして、これをどう解決していかなければいけないか、ということについて。
キャリアデザインというと、「自分の適性は何か?」みたいな話になりがちだけれど、仕事をしていない学生に自分の適性は何か、ということを探させようとしても難しいと指摘しています。学校で学ぶことと、仕事でやることはだいぶ違います。だからこそ、様々な労働現場や就労形態で働いているたくさんの大人たちを見せることが重要だといいます。普通に生活していると、消費者としての立場で接している範囲しか見えないけれど、職業とは、その範囲をはるかに超えているのが現実で、でもそれにはなかなか気づきにくいものです。
また、現実に正社員以外の働き方、というのが多く出ているわけだから、そこにも目配りをし、労働者の働く権利と働く場のルールといったことについて、学習できる機会を提供しようという提言もしています。
児美川氏は、「自分のミライの見つけ方―いつか働くきみに伝えたい『やりたいこと探し』よりも大切なこと」という本を書かれているようなので、そちらも読んでみたいと思いました。
一つ付け加えておきますと、この本は、戦後の労働市場の変遷や教育の現場の変化、データなどに基づいて淡々と書かれたものではなく、研究者らしい書き方と並行して、ご自身の思いが随所に表れている温かい本です。特にエピローグの最後に書かれている節「個人としてしたたかであること、世代として支えあうこと」は、「最後にこれだけは言っておかなければならないと思っていることをお話します」という一文から始まります。私も若いころに読みたかったと思うような、仕事の範疇を超えた、生き方についての道筋になっています。ですが、これが身にしみるのは、組織に属しているメリットを享受しつつも、飼いならされている感じが否めない現状、そして、今のこの現役世代にとって過酷な状況を少しでも良くしたいと思っているから、つまり、もう若くないから、なのかもしれませんが。

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