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【本の紹介】『子どもが心配~人として大事な三つの力(養老孟子著)』&コグトレ

「あかんたれ」改めかぼちゃです。
この時期店頭に並んでいるかぼちゃはニュージーランド産がほとんどです。
先週買ったニュージーランド産かぼちゃはホクホクで大当たりでした👍


さて、『子どもが心配 人として大事な三つの力(養老孟司著)』

養老孟司さんと、今を時めく4人の方との対談をまとめたものです。

今を時めく4人とは、立命館大学教授の宮口幸司氏、慶應義塾大学医学部教授の高橋孝雄氏、日立製作所名誉フェローの小泉英明氏、自由学園学長の高橋和也氏です。

この記事では、私が個人的に大変興味をそそられた、宮口氏、小泉氏との対談について書かせていただきます。


宮口 幸治×養老 孟司

宮口氏といえば『ケーキの切れない非行少年たち』で有名ですね。

京都大学工学部を卒業後、建設関係の会社に就職、
しかし思いがあって神戸大学医学部に入りなおし
医師になったという方。

大阪府精神医療センター勤務のあと、
医療少年院で精神科医をされていました。
現在は立命館大学の教授です。

私は支援学校で働いていたので、
宮口氏の研修を受けさせていただく機会が数回ありました。

その頃は、宮口氏考案の「コグトレ」が、
知的障害のある子どもたちの支援の業界で評判になりつつあり、
宮口氏はあちらこちらの支援学校に呼ばれて研修をしていらっしゃいました。

本題から外れてしまいますが、「コグトレ」について少し解説します。

ちょっと脇道(コグトレの話)

「コグトレ」というのは、Cognitive Training(認知トレーニング)の略。
宮口氏の造語です。

宮口氏が、医療少年院の精神科医をされている頃、多くの子どもたちに知的障害があることに気づかれ、認知機能向上のために考案されたものです。

私も『教室で使えるコグトレ』『認知機能強化トレーニング』を購入し、使っていました。
支援学校でも、高校の「共生推進教室」でも重宝しました。

今は、オンラインで無料の教材を使わせていただくことができます。

一見、昔ながらのドリルと似ています。

ドリルには、「ひらがな」とか「〇年生の漢字」とか「△年生の算数」とか、中には「点つなぎ」とかの練習問題がたくさん載っていましたよね。

「コグトレ」とこれまでの「ドリル」との違いは、

「学習面(記憶・言語理解・注意・知覚・推論、判断)」
「社会面」
「身体面」

から、包括的にアプローチするプログラムになっている、というところ。

段階的に細分化された課題がたくさん紹介されています。

子どもたちと課題に取り組んでいると、
「この子はこういうことが苦手なんだな」ということに気づくことがよくあります。
「先生の話をよく聞いてると思ってたら、わからないから笑ってごまかしていたのか。」ということもあって、申し訳ない気持ちになることもあります。

養老孟司氏との対談より

脇道が長くなりすぎてしまいました。

さて、本題の養老孟司氏との対談です。
宮口氏はこのような内容のお話をされます。(そのままの引用ではありません)

「知的障害」があるお子さんの場合、教員や支援者は少しずつゆっくり教える必要がある。
だから、本人にも支援者にも「忍耐力」と「モチベーション」が必要。
できたことを一緒に喜びあえる環境が必要。

ところが、今の学校は教員の数が圧倒的に不足していて、
そのような環境を作るのが困難な場合がある。

少年院に入ることになる子どもたちの中で、「知的障害」や「グレーゾーン」の少年は、5分の1程度もいる。

彼らのうちの多くは、小中学校のうちに知的障害に気づいてもらって、それぞれに合わせた教育が受けられていたら、少年院に入ることはなかっただろう。

国は、教育にもっと力を入れるべきですよね。

小泉 英明×養老 孟司

小泉英明さんは、国産初の超電導MRI装置を開発。
さらに、fMRI装置とご自身が開発なさった近赤外光トポグラフィ法によって、脳科学と教育を関連付けた研究をされたり、科学と倫理の問題を考察し、発信されてきた方です。

なんだか難しい単語ばかりが並びましたが、
ものすごく大雑把に言うと、

脳がどんな風に働いているかがわかる装置を自分で作って、
実際に、教育と脳の発達の関連について調べている人

それは興味本位ではなくて)

科学と教育を関連付けることは、
倫理的にどこまでオッケーなのか
ということもつきつめて考えて発言している人

養老氏の、
先生は「神経神話」について書かれていますが~
というフリに対して、小泉氏はこのように続けられます。

「神経神話」というのは、
「科学的に本当のことではないのに、多くの人が『脳科学からするとこうだ』と信じこんでしまっているようなこと」
を意味します。

たとえば、「人間には右脳人間と左脳人間がいる」とか
「脳の基本的な能力は3歳までに決まってしまう」
「私たちの脳は10%くらいしか使われていない」
など、
いずれも科学的根拠が全くない、
あるいは大きく誇張された「神経神話」の部類です。
(中略)
そうした不確かな情報を放置せず、
私たち脳の専門家がしっかりとした科学的根拠を示さなければいけない。(後略)

(この後、「ーとはいえ脳についてはわかっていないことが多いので、必ずしも間違っているとも言えない部分もあって微妙な問題を抱えている」とも書かれています。)

何となく信じ込んでそれに縛られてしまっていることは、
私にもよくあります。
危ないですね。

また小泉氏は、脳科学と教育に関しての「コホート研究」にも
取り組んでおられます。

「コホート研究」をネットで調べると、このように書いてあります。

特定の要因に 曝露 した集団と曝露していない集団を一定期間追跡し、
研究対象となる 疾病 の発生率を比較することで、
要因と疾病発生の関連を調べる 観察研究 の一種である

たとえば、
「タバコを吸う人たちの集団と、タバコを吸わない人たちの集団を何十年も追跡調査して、肺がんの発生との関係を調べる」みたいなことだと思います。追跡調査というのがミソのようです。

「これまでのコホート研究で明らかになったことはどんなことですか?」という養老氏の質問に対して、次のようなお話をされています。(以下引用)

まだ母集団が比較的小さく(約500人規模の「すくすくコホート」"Japan Children,s Study"の結果)完璧とは言えませんが、データの裏付けが取れていることとして、「かなり小さい乳幼児の時期に限っては、褒めて育てるのがいい」とわかりました。

1、2歳くらいまででしょうか。

褒めて育てた群と特にそうではない群では、生後18週、30週、42週の統計的有意なデータで、社会能力(Social-abilities)の指標に10%以上の差が生じました。

また6年後の学童期でも、親子がコミュニケーションをとってきた例と、少ししかとってこなかった例では、社会性の指標に大きな差が出ることもわかってきました。

「すくすくコホート」のなかでの安梅勅江筑波大学教授のまとめです。

日本には「三つ子の魂百まで」という言い伝えがあります。

「幼いころに形成された心は老年になっても変わらない」ことを意味しますが、同じようなことわざが世界中にあって、少なく見積もっても50以上の国で伝えられています。

昔は数え年ですから、「三つ子」は2歳くらいでしょうか。

だとすれば、0歳から2~3歳くらいにどんなことをどんなふうに教育するかは大変重要だということです。

しかし日本の乳幼児教育については一つ懸念していることがあります。

保育園は厚生労働省、幼稚園は文部科学省というふうに管轄が分かれていることです。

教育にとって最も重要な時期を過ごす保育園は、基本的に子どもを「預かる」場所で、子どもにとって望ましい教育環境になっているかどうかはわからない。

国家予算もそこに十分投下されることはない。

そこが大きな問題です。

それでも官庁間の壁をとりのぞくべく、「子ども園」などの制度も少しずつ現実になってきました。

「コホート研究」はお金も労力もかかるため(特に日本では研究費が単年度予算のため)、実施するのは大変だそうですが、
これから研究がすすむと様々なことに科学的な裏付けがつくのかもしれませんね。

「1,2歳児までは褒めて育てるのがいい」ということに科学的な裏付けをつけるために、きっと大変な時間と労力がかかったのでしょう。

結局「人それぞれでしたわ~」ということがわかるだけなのかもしれませんが。

小泉氏は、様々な科学的な研究をされてきた結果、
今の子どもに大切なことは、幸せであるということだと考えておられ、
そのために必要なこととして、次のように語られます。(以下引用)

幸せのポイントは『共感』能力、
言い換えれば『温かい心』(Warm-heartedness)を育むことにある、
それこそ子どもたちが幸せになるための教育の最終目標である
と考えています

小泉氏は、幼いころから「測ること」が大好きで、
夢中になって測っておられたそうです。
測れないものは自分で装置を作って。
それが昂じて今の仕事をされているとか。

「測ること」からわかることはたくさんありますが、
人間というものはそれだけではわからない。
むしろ、測れば測るほど、人間のわからなさがわかってくるのでしょうね。

「測ること」を究めて来られた結果の、
「子どもたちが幸せになるための教育の最終目標は、『温かい心』を育むことにある」
という小泉氏の結論は深いなあと思いました。

人として大事な三つの力

本著で「人として大事な三つの力」として挙げられたものは、

  1. 前に踏み出す力:現状から一歩前に踏み出し、失敗しても諦めずに粘り強く取り組む能力。

  2. 考え抜く力:常に疑問を持ち、最後まで考え抜く能力。

  3. チームで働く力:さまざまな人々と協力し、目標に向けて取り組む能力。

子どもたちが幸せになるためには、これらの力を育む教育が重要であり、親や教育者は子どもたちと真剣に向き合い、彼らの成長を願うことが求められる、とあります。

養老氏は語ります。

何もかも手に入るわけではないけれども、生きているだけで満足できる。

そんな状況を、生まれてくる子どもたちに対して作ってあげないといけないでしょう

子育てや教育は、最重要課題だと思います。

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