見出し画像

【本の紹介】『椅子が怖いー私の腰痛放浪記』(夏樹静子著)

夏樹静子さんといえば「ミステリーの女王」。日本の女性推理作家の草分け的存在です。(でも私は夏樹さんのミステリー小説を読んだことがありません🙇‍♀️)

夏樹さんは50代半ば頃の約3年間、原因不明の強烈な腰痛に悩んでおられました。その時の体験を書かれたのがこの本。

「まえがき」を引用します

私は、1993年1月から約3年間、原因不明の激しい腰痛と、それに伴う奇怪とさえ感じられるほどの異様な症状や障害に悩まされた。(中略)私は心身ともに苦しみ抜き、疲れ果て、不治の恐怖に脅かされて、時には死を頭に浮かべた。

『椅子が怖い』(まえがき)より

夏樹さんは、腰痛の原因を突き止めて有効な治療を行うため、内科、整形外科、眼科、鍼灸、整体、漢方、脳神経科、はては民間療法やお祓いまで「放浪」します。

器質的には何の異常も見つかりません。
「何の異常もないのにこんなに激しい痛みが起こるはずがない」と各地の名医を「放浪」し続けます。

「必ず治るから」というので始めた療法も数知れず。
しかしどれも効果なく悪くなるばかり。

筆者は死を頭に浮かべるほどになります。

話は変わりますが、私には原因不明の口腔痛があります。

私と夏樹さんの痛みの相違点は、「生活に影響が出るか出ないか」というところ。
口の痛みによってできなくなることは何もありませんが、腰の痛みの場合は移動することも、姿勢を維持することもできません。それは雲泥の差!

痛みに大きな違いはありますが、「原因不明で治らない」という点は共通していますので、口が痛い私も非常に興味深く読みました。

少々ネタバレになってしまいますが、最後に選んだ心療内科の入院治療で夏樹さんは回復されます。

入院治療中の主治医や看護師と夏樹さんとのやり取りは感動的でもあります。
夏樹さんは七転八倒の苦しみを激しく吐き出され、主治医はそれをすべて受容されるのです。

文庫本のための「あとがき」に夏樹さんはこのように記されています。

もう一つ、このことだけは信じられる気がする。
人間には、自分が知っていると思うことの、何百倍も、何万倍も、知らないことの方が多いのだ。
だから、たとえ最悪の不幸と感じられるようなことに遭遇しても、実はその時自分の前には幸福の扉が開かれつつあるのかもしれない。
そしてどんな時も、そういう形の希望を抱くことは、そのこと自体が苦しみからの解放に手をかしてくれるだろうーと。

『椅子が怖い』(文庫版のためのあとがき)より

私は「口が痛いのはあのせいか、このせいか」などといろいろ考えていましたが、それは余計なことだなと思いました。
「人間には、自分が知っていると思うことの、何百倍も、何万倍も知らないことの方が多い」のですから。
きっと、自分の意識に上がってくることは、自分の中の何万分の一かなのでしょう。

「痛いなぁ」と思いながらも自分のやりたいことができているのが幸せに思え、痛みがなくなったわけではありませんが、「治った」ような気がしてきました。

夏樹さんの腰痛の、最後の主治医となった平木先生の本も読みました。

具体的な事例をまじえ、「慢性疼痛」について解説されています。
夏樹さんの事例についても医師の立場で書かれています。
こちらもおススメです。


この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?