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まちの中華屋さんになりたい。

雨の降る休日。どこにも出かける気になれず、朝から時間を持て余していた。前日に長電話をしたせいで、目の下にはクマがはっきりついている。こんな日でも8時過ぎには目が覚めてしまい、無駄に健康的な自分の生活を恨んだりする。もっと寝ていたいのに、自分の中のいい子ちゃんがそれを許してくれないのだ。

朝は近くのスーパーへ買い出しへ。もう東京暮らしは2年目になるのに、土曜の朝の西友で、同年代とすれ違ったことがほとんどない。1週間分の食材をまとめ買いする25歳って、実は稀な存在なのかもしれないな。最近はぬか漬けづくりにハマっていて、今日はみょうがを1パック買ってみた。

ぬか床をかき混ぜているときどこか気分が休まるのは、大阪の祖母を思い出すからかも、とふと思う。底なしに優しくて、勉強熱心で、イケメン演歌歌手にぞっこんなグランマは、いつだってぼくの理想の存在だ。


コーヒーを飲みながら文章を2本書いていると、いつの間にか昼になっていた。ちゃんと自炊をしてもいいんだけど、こんな雨の日はな〜んにもやる気にならない。今日ぐらいサボらせておくれよ…と、ランチは辛ラーメンでぱぱっと済ませることにした。先週買った納豆の賞味期限が明日にせまっている。

Netflixでテラスハウスを見ながら昼ごはんを食べた。ぼくは軽井沢編がお気に入り。当時就活生だった「ゆいちゃん」というメンバーがいるのだけど、見た目だけでいえば彼女がどストライクだ。ストーリーが進むごとに性格が露呈して、最初のドキドキは薄れてしまったんだけど。

それにしても、テラスハウスの家の中にはスタッフさんが何人いるんだろう。ぼくだったら、ついついカメラ目線になって怒られそうな気がする。


相変わらず寝不足であくびばかり出てしまうので、ちょっとだけ昼寝することにした。今日は肌寒くて羽毛布団でちょうどいいけど、もうすぐタオルケットに替えなきゃな。今あるやつは紺色で部屋の雰囲気に合わないから、ブラウンのタオルケットを新調しよう。そう思って無印のWebショップを覗いてみると、ちょうど1,000円引きのキャンペーンをやっているらしい。あざっす。

家に引きこもっている休日って、14時から17時ぐらいがいつも手持ち無沙汰になる。朝は文章を書いたり集中する時間。夜は動画を見たりリラックスする時間。そのちょうどあいだの真っ昼間、どうやって過ごすのが正解なんだろう。

しかもこんな雨の日だ。どうしても思考がネガティブになって、ついつい自己嫌悪に陥りそうになる。ひとり暮らしって、こういう瞬間がいちばん寂しいんだよなあ。シェアハウスとかしてみようかな…とふと思ったけど、絶対ストレスが溜まる気がして、実行には移せそうにないや。


結局Netflixをダラダラ見て、98円で買ったわらび餅を食べて、氷で薄まったコーヒーを飲んでいたら、もう夕飯どきになっていた。夜ごはんは冷しゃぶにしよう、となんとなく決めていたのだけど、一日中引きこもっていた自分が少し嫌になってきた。ちょうど雨も上がったようだし、今日は外食にしてみよう。

家から3分の麻婆豆腐屋を覗いてみると、こんな日に限って満席だ。テーブルもカウンターもびっしり埋まっている。雨が止んだもんだから、みんな外に出たくなったのかな。自分も結局ワンオブゼムじゃん、と思ってなんだか照れくさい。


そうだ。家と駅のちょうどあいだ、あの中華屋さんに行ってみよう。「まちの中華屋さん」と呼ぶのにぴったりの、赤い看板とそっけない外見のあのお店。このまちに住んで1年ちょっとになるのに、そういえば一度も行ったことがないじゃないか。

家からクロスバイクをかっ飛ばし、3分ほどで中華屋に到着。引き戸を開けてのれんをくぐると、テレビに釘付けの女将さんが「いらっしゃい」と目を合わせず言った。そうそう、これぐらいがちょうどいいんだよ。

壁にびっしり敷き詰められたメニューを一通り眺めて、よっぽど心残りだったのか、麻婆豆腐定食を頼むことにした。ひとりでごはんを食べるときは、なぜか瓶ビールを選んでしまう。しっかりクラシックラガーが出てくるあたり、この店は分かっている。……と言っても、ぼくの舌が違いに気づけないんだけど。


先に漬物と冷ややっこが到着。和食屋みたいなその並びに少しの違和感を感じながらも、ゴチャゴチャ考えるのは野暮ってもんだ。郷に入れば郷に従え。……おっと、次はみそ汁が出てきたぞ。

瓶ビールと漬物でちびちびやっていると、メインの麻婆豆腐が到着。どこからどう見ても本格的ではないその見た目。でも、「これこれ!」と静かにテンションが上がっていく。決して派手ではなく、特別感もなく、でもどこかしっくりくる。そっけなくも優しいその味に、なぜかしみじみしてしまうのは齢をとった証拠だろうか。


テレビでは回転寿司チェーンが特集されている。中華屋の女将さんとぼく、ふたりの目線は画面に釘付けで、なんか面白いなあ…と心の中でニヤッとする。言葉を交わすわけではない、でも「ゆっくりしてけばいいんだよ」と言われているような気がして、ビールを飲む手がちょっと遅くなった。

中華と和食が融合した不思議な定食を食べ終えて、「ごちそうさま」と席を立つ。瓶ビール1本でほろ酔いになったことに少し驚きつつ、女将さんに1310円を渡した。ああいい夜だった。

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