見出し画像

ケン・イシイ 名曲ベスト10(私選)

これまで生きてきてケン・イシイを聴き込んでいる人に会ったことがありません。

というか、みんな知らないんですよ。ケン・イシイのこと。
(ケン・イシイに限らず、私にはこういうのが多い。なので、note で共有しています)

ケン・イシイというのは、テクノのアーティストであり、世界を駆け回る DJ です。DJ といっても、ラジオの DJ じゃないですよ、クラブなど、踊るところでレコードを回す人です。

世代としては、電気グルーヴと同世代なんですが、やはり、一般的な存在ではないので、年上の人でも YMO での話で盛り上がれても、共有できるのは、電気グルーヴくらいまでですね。

というのも、電気グルーヴは、バンドブームの流れもくんでいて、「人生」時代も含めると、’80年代からキャリアがあります。

一方のケン・イシイは、バンドではなくて、自宅で楽曲を制作するアーティストとして、海外のレコード会社からデビューしました。

’93年、大学生だったケン・イシイは、海外のレコード会社に自分が作ったデモテープを送り、そこからデビューすることになったんです。

日本に住みながら、ベルギーのレコード会社からデビューしたんですよ。すごくないですか。

ちなみに、彼がデモテープを送ったのは、ベルギーにあった「R&S」というテクノ専門のレーベルで、 当時、イギリスのワープ、ライジング・ハイとともに「テクノ三大レーベル」と言われた名門の一つでした。

レーベルにデモテープを送るのは、当時は、それほど珍しいことではなく、世界中から大量のデモテープが送られてきたんですね。
(ベッドルームテクノといって、自宅で気軽に録音できるような環境が整ってきたのが、この時代の特徴)

星の数ほどある、デモテープの中から、ケン・イシイは認められ、ヨーロッパでデビューすることができたのです。

その頃のケン・イシイのサウンドを聴くと、非常に斬新なサウンドで、「これは選ばれて当然」という感じがします。

初期のケン・イシイのサウンドは、’94年に発売された初期のベスト盤で、聴くことができますが、テクノ初心者には、あまりオススメしません(笑)

ダンスミュージックというよりは、電子音で作ったオブジェのような印象で、メロディーやリズムを楽しむというよりは、電子音そのものの魅力を追究している感じですね。

その後、偶然、海外のレコードショップで、電気グルーヴの石野卓球がケン・イシイのレコードを見かけて、ラジオ番組で紹介したり、電気グルーヴのシングル『N.O.』のリミックスを手掛けたことで、知名度が急上昇します。

そして、’95年に発売されたのが『EXTRA』でした。

この曲の MV は、『AKIRA』で有名な大友克洋のオムニバス映画『MEMORIES』などで知られるアニメーションスタジオ、スタジオ4℃ が手掛けたアニメーションになっています。

この MV では、『AKIRA』あるいは『ブレードランナー』的な、サイバーパンクの世界観が表現されており、意外にもテクノにこういった映像を組み合わせたのは、これが世界ではじめてのことでもありました。

『EXTRA』の MV の魅力は、今観ても、まったく色褪せていません。

その後も、ケン・イシイは、多くの楽曲を制作し、海外でも DJ として活躍し続けています。昨今では、日本にいる期間がほとんどないほどです。

海外で活躍するアーティストの一人として、ぜひとも多くの方に知っていただきたいと思い、私なりのケン・イシイベストをここに紹介します。

10.Strech(’95)

収録アルバム:『Jelly Tones』
ケン・イシイの’90年代中期の名作『Jelly Tones』に収録。多数のリミックスを収録したシングル盤も発売された。同アルバムは、どちらかといえば、リスニング重視の作風だったが、この楽曲は激しいビートが特徴的。
オープニングのカラフルな音色から一転、複雑な音を組み合わせた重低音が迫りくるような焦燥感を煽るサウンドに。

9.Beam Skywards(’06)

収録アルバム:『SUNRISER』
タコの足をあしらった写真が特徴的なアルバム『SUNRISER』より。前作『Flatspin』から4年の歳月を経ての発表となった本作は、自身の原点に返ったデトロイト・テクノ寄りのメロディアスな作風になっている。
中でもこの楽曲はリズムパートらしき音が皆無で、ピアノ風の音色と幻想的な電子音のみで構成されたケンイシイにしては珍しい曲調。

8.Vector 1(’19)

収録アルバム:『Möbius Strip』
13年振りの新作となった『Möbius Strip』より。2分程度の小曲ながら、アクの強い電子音がかなり印象的である。ビートもしっかりとあるダンスミュージックで「山椒は小粒でもピリリと辛い的」なトラック。

7.Let It All Ride(’06)

収録アルバム:『SUNRISER』
晴れ渡る空のような爽やかな音色が印象的なダンスミュージック。ダンスを重きに置いた曲なので、ビートは一定だが、音の変化は激しく、飽きさせない魅力がある。ケン・イシイの楽曲は全体的に暗めの曲が目立つが、時折、見せるこのような明るい曲の魅力も捨てがたい。

6.Moonquake(’00)

収録アルバム:『Flatspin』
『Sleeping Madness』から3年ぶりとなった、4枚目のアルバム『Flatspin』に収められた楽曲。かなり激しいビートの曲で、2000年代の曲にしては、’90年代のクラブミュージックを彷彿とさせる。
鋭角的なリズムトラックと浮遊感のあるシンセリフの組み合わせが絶妙。

5.Iceblink(’00)

収録アルバム:『Flatspin』
デトロイト・テクノの雄・インナー・シティをフューチャーして作られたケン・イシイ初のボーカルトラック。
アルバム『Flatspin』の発売に先がけ、シングル曲として発表され、映画『ホワイトアウト』のテーマ曲にも起用された。リズムを強調したボーカルとケン・イシイらしい電子音の掛け合いが素晴らしい。フル CG による MV もオススメ。

4.Bells of New Life(’19)

収録アルバム:『Möbius Strip』
アルバム『Möbius Strip』の1曲目に収録。MV も制作され、過去のケン・イシイの MV をオマージュしたカットが多数組み込まれている。
前作から13年振りに発表されたアルバムだったこともあり、ストレートにケン・イシイの魅力が感じられるダンスミュージックになっている。
とはいえ、決して過去の焼き直しではなく、曲の随所に今のケン・イシイにしかできない音色や展開が感じられる。ベテランにしか出せない熟成・洗練された魅力だ。

3.Sleeping Madness(’97)

収録アルバム:『Sleeping Madness』
3枚目のアルバム『Sleeping Madness』の終盤に収められた表題曲。
ケン・イシイは、デトロイト・テクノに強く影響を受けているが、彼の音楽に黒人的な要素を感じたことはあまりない(そもそも、デトロイト・テクノ自体が黒人音楽らしくない)。
しかし、この楽曲はものすごく黒人音楽っぽい魅力を感じる。太いベース音、リズムトラックの細かい配置、はたまた、メロディーがそれを感じさせるのかはわからないが、とにかく曲自体が放つクールな印象が何よりも黒人っぽいのだ。

2.Sunriser(’06)

収録アルバム:『SUNRISER』
アルバム『SUNRISER』の1曲目。札幌を拠点に活動するテクノ・ユニット、7th Gate との共作であり、ケン・イシイの新たな扉が開いたような新鮮さが感じられる楽曲でもある。
明るく爽やかな電子音、矢継ぎ早に挟まれる小間切れのシンセリフ、みぞおちにくるダンスビートの組み合わせが絶妙。イントロの吸い込まれるような SE が聴こえた時点で、心を鷲掴みにされるだろう。

1.Organised Green(‘06)

収録アルバム:『SUNRISER』
明るい音色の多い『SUNRISER』の中では、シリアスな印象の楽曲。通奏低音のように流れ続ける不穏な音が、一種のスパイスになっている。ダンスビートが顕著ではあるものの、少し抑え気味なトーンが、逆に高揚感を煽る。
何気にタイトルの「Orgnaised Green」(整理された緑)も想像力を掻き立てる。

サポートしていただけるなら、いただいた資金は記事を書くために使わせていただきます。