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映像で読み解く(15)ドラマ『踊る大捜査線』(1997)

サラリーマンとしての警察

従来の刑事ドラマでは、
「刑事」=「正義の味方」
といった図式で、

完全無血のヒーローとして
刑事が描かれました。

その歴史を塗り替えたのが、
’90年代後半に登場した本作です。

本作の主人公、
青島(織田裕二)は、
脱サラして警察に入った刑事でした。

似たような毎日の繰り返し、
社内でのもたれ合いなど、

サラリーマン生活に嫌気がさした
青島は一念発起して、
夢にまで見た刑事になったのです。

ところが、いざ刑事になってみると、
警察も会社と変わりがないことに
気づかされました。

「警視庁」は「本店」であり、
キャリア組は出世のことばかり考え、
ノンキャリアは上層部の
「駒」でしかなかったのです。

警察内部の事情を
「サラリーマン社会」の一つとして
描いたのが本作の画期的なところでした。

明るく広い空間、
画面の切り替え方でメリハリ

刑事ドラマといえば、
かつては暗めの画質の
渋い映像が一般的でした。

しかし、本作の映像は
それまでの刑事ドラマとは対照的に、
カラッと明るい映像になっています。

これは前述したように、
本作で描かれているのが、

従来の刑事ドラマにはなかった
「警察もサラリーマン」
という部分に主眼が置かれているからです。

特に本作における照明の明度は、
「企業もの」のドラマに
匹敵する明るさです。

オフィス

また、本作の映像を
従来の刑事ドラマと比較すると、
空間の使い方が広いことに
驚かされます。

主人公が勤務する湾岸署のオフィス、
当時、再開発中だったお台場の景観、

いずれも引きの視点による
カメラワークで、
空間を非常に広く見せているんです。

これは実際に撮影していた場所が
広かったからこそ、
できた画面構成だと思われます。

画面を「引き」の視点で撮るには、
空間の広さが必要ですから、
(当たり前だが、狭い空間では
 カメラが引くことができない)

このような映像が実現できたのは、
当時のお台場が再開発中で、
周りに建物が少なかったことも
影響しているでしょう。

室内の映像でも、空間を広く見せ、
人物は小さめに収めた画面も多いです。

特に、印象的だったのが、
人物を引き気味の視点で捉え、
画面の切り替えを少なめにして、
ゆったりと演技を見せる場面ですね。

ロングショット 人物

画面の切り替えが多いところと、
少ないところにメリハリがあって、
飽きさせない工夫が
感じられました。

細かいカットの切り替えで
シーンを構成するのではなく、

カメラが動き回り、
継ぎ目のない(画面の切り替えがない)
映像になっている場面も印象的です。

青島を後ろから追っていたカメラが
他の登場人物とすれ違う場面で、

今度は、すれ違った人物を
カメラが追いかけるという
自然な場面転換が斬新に感じました。

特にこのような演出は
ドラマの放送がはじまったばかりの
1~2話あたりの回が顕著です。

物語の構成において、
本作では湾岸署内が
舞台としてよく出てくるので、

内部がどういう構造になっているのか、
視聴者に把握させる目的も
あったのかもしれません。

バラエティーに富んだ音楽が
シーンをスムーズにつなぐ

本作の映像を語るうえで、
照明の明るさ、空間の広さ、
場面転換のおもしろさを
挙げてきました。

ですが、これだけでは、
本作の魅力に迫るには、
まだ材料が足りていません。

本作は音楽にも大きな特徴があります。

おそらく、
本作を観たことのある方でも

ここに気づいている方は
あまりいないのではないか、
と思うほど、

自然に演出されているので、
見過ごされがちな部分ですが、
(私自身も今回改めて観直してみて
 はじめて気づいた)

本作は音楽にも大きな特徴があります。

実はこのドラマは、
ほとんどのシーンで
何かしらの音楽がなっているんですよね。

オーケストラ

また、使われている音楽の種類も
バラエティーに富んでおり、
バックの音楽で緩急を付けている
と言っても過言ではありません。

一番有名なのは、
オープニングテーマですね。

ハウスのビートに
ラロ・シフリン的な
(『燃えよドラゴン』などの作曲者)
シンセのメロディーを乗せたアレです。

本作のサウンドトラック
『Rhythm & Police』は、

ドラマのサントラとしては、
異例のヒットセールスを記録した
サントラだったと記憶していますが、

意外にも当時の最先端だった
クラブミュージックの要素が
多く取り入れられているのが
特徴的でした。

先ほど挙げた
オープニング曲もそうですが、
ハウスのビートが
結構入っているんですよね。

それと、間抜けな印象の
署長トリオのテーマ曲は、
南米のフォルクローレっぽいですが、
(ペルーの
『コンドルは飛んで行く』が有名)

その下地にはダブのビートが
敷かれています。
(ダブはレゲエの派生ジャンル)

ジャマイカ

織田裕二が歌った主題歌
『Love Somebody』も
ベースはレゲエの曲です。
(この楽曲も大ヒット)

そして、この主題歌が劇中でも
オルゴール風、オーケストラ調など、
さまざまなアレンジで
使用されています。

このように同じメロディーに
異なるアレンジを施して使う手法は
映画でもよく使われる手法で、

作品のイメージを打ち出すうえで、
非常に効果的な演出ですね。

BGM の中でも、
ひときわ強い印象を残すのは、
管理官・室井(柳葉敏郎)の
テーマ曲ではないでしょうか。

こちらの楽曲は、
他の楽曲とは違い、
エレキギターをメインにした
ロックっぽい曲調です。

このようにさまざまな楽曲が
メドレーのように
休むことなく流れ続け、

ストーリーの緩急を
スムーズにしているのが印象的でした。

それぞれの楽曲は
劇伴としてだけでなく、
単体の作品として、
鑑賞に堪えうるものだと思います。

【作品情報】
1997年放送
制作国:日本
演出:本広克行、澤田鎌作
出演:織田裕二、柳葉敏郎、
   深津絵里
放送局:フジテレビ

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