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お笑い芸人を目指していた頃(10)わたしの番です

いよいよオーディションで
自分のネタを披露する番が
やってきました。

ここまで長かったですよね^^;

たしか、ジャック&イレブンの
直後ではなく、
一組か二組あとに
私の番だったはずです。

ついに審査員から、
私の名前が呼ばれました。

私は芸名などは付けておらず、
本名でエントリーしていたので、
もちろん、本名で呼ばれます。

ここまでほとんど
緊張していなかった私も、
この時ばかりは、
それなりの緊張はしていました。

と言っても、
緊張でパニックになるほどではなく、
程よい緊張感といった感じでしょうか。

やることは事前に
準備しているわけですから、
あとはそれを「こなす」のみです。

心の中で「大丈夫!」
と自分に言い聞かせました。

小さなステージに上がり、
審査員の放送作家の方たちを見ると、
意外と若い年齢層の人たちでした。

たしか、5〜6人いたと
記憶していますが、
30代〜40代くらいの
年齢に見えました。

もちろん、当時の私は21ですから、
「若い」というのは、
今の私の感覚です。

要するに、今の自分の年齢に
近い方たちが
審査をやっていたんですね。

審査員の面々の中には、
優しそうに見える方もいれば、
ずっと不機嫌そうに
しかめっ面をしている方もいました。

前の記事に出てきた
浅井企画専務の川岸さんは、
審査員ではありません。

稽古場の入り口付近で
見守っている感じでした。

審査自体は、
その放送作家の方たちに
一任していて、ネタに対して
何かを言ったりはしません。

一組の持ち時間は、
3〜5分だったと思います。

あまりにもおもしろくなかったら、
途中で止めることもあると、
事前に説明がありました。

私がこの時、用意していったネタは、
「小次郎」という一人コントです。

巌流島で宮本武蔵と戦った
あの佐々木小次郎が
主人公のコントでした。

小次郎は武蔵を待っているんですが、
約束の時間になっても
全然来る気配がないので、
だんだん心配になってきてしまう
というコントです。

私がこのコントで描きたかったのは、
「憎い敵を思わず案じてしまう」
という滑稽さでした。

しかし、それを一人語りで
やったところで、
コントとしては見栄えがしません。

そこで小次郎が武蔵を心配して、
想像していることを
すべて私が動き回って
表現するようにしました。

「寝坊したのかな?」
「交通事故に遭ってたりして」
という「if」をすべて私が
その場で動き回って演じるわけです。

なんせ、一人ですから、
インパクトが大事だと思い、
動きを多く入れてみました。

最後のオチはベタなんですけど、
実は小次郎が日にちを間違えていた
というものです。

正直なことを言うと、
ネタの方向性としては、
間違っていないと
自負していたのですが、

果たして、このネタが
本当におもしろいのかどうか、
私にもわからなくなっていました。

やったことのない方には、
今いちピンとこないかもしれませんが、
一人でネタを考えて実演する
というのは、本当に難しいことなんです。

一人でやっていると、
何がおもしろいのか、
わからなくなってくるんですよね。

一応、事前に身内や友人の前でも
練習の一環として
披露もしていました。

友人たちは私のキャラを
よく知っているので、
それなりに笑ってくれました。

しかし、身内の前でやった時は、
なんとも言えない
気まずい空気が流れましたね^^;

父親もそれなりに漫才とか
落語が好きな人だったんですが、
その場では「まぁ、頑張れ!」
という感じでした。

後から弟に聞いた話では、
私のいないところでは
「あのネタ、どこがおもしろいんだ?」
と言っていたそうです(笑)

オーディションが終わってからも
このネタを披露する機会は
何度かありました。

笑ってくれる人は
ものすごく笑ってくれますが、
おもしろさがわからない人は、
クスリともしないネタでしたね。

まぁ、私らしいといえば、
私らしいネタだと思いますが。

基本的に審査員の方たちは、
ネタを見ても笑いません。

私より先にネタをやっていた
流れ星、ジャック&イレブンですら、
クスリとも笑わないのです。

それを見た私は
「オーディションというのは、
 こういうものなんだ」
とはじめて理解しました。

ですから、私のネタでも
当然、笑いは起こらないだろう
と覚悟していたんですよ。

ところが、ネタをやりはじめて
すぐに審査員の方たちが
一斉に笑いはじめました。

「おっ、これはいけるぞ!」
と思いながら、
そのままネタをやり続けたのですが、
その後はシーンと静まりかえっていました。

ネタが終わると、審査員から
いろいろと感想や
アドバイスがもらえるんです。

その時になぜ、最初に笑いが起こったのか、
説明がありました。

そう、笑いは起こったんですが、
私としてはまったく予期せぬところで
笑いが起こったので、
不思議に思っていたんです。

なぜ、審査員の方たちが
最初に笑ったのかというと、

「小次郎」のネタの入りには、
「あれ? おかしいな武蔵のやつ、
 もうとっくに約束の時間も
 過ぎてるのに一向にくる気配がない」

というセリフとともに、
小次郎を演じる私が
腕時計を見るような仕草をするんです。

「小次郎」は、あの有名な
宮本武蔵との一騎討ちを
パロディーにしたネタですから、

時代設定から言って、
腕時計を見る仕草はありえないわけです。

しかし、私としては、
別にこのネタで「宮本武蔵」の部分が
大事だったわけでもなく、

時代背景など完全に無視して
ネタを作りました。

なので、このコントには、
車も出てくれば、
携帯電話も出てきます。

しかし、長年プロとして、
ネタを書き続けていた審査員の
放送作家の人たちからすれば、
「あり得ない」ことだったようです。

ですから、私が「コント小次郎!」
と言って、まもなく
腕時計を見るような仕草に入ったのが、
天然ボケでやっているように見えたんですね。

それで、審査員の方たちも
私のネタを見ているうちに、
冒頭の仕草は「天然」で
やったことではなく、

プラン通りにやった仕草だと
わかったのでしょう。

「それが事前にわかっていたら、
 あなたのネタは途中で止めていた」
と言われました。

とはいえですよ。

私自身としては、
ビギナーズラックだとしても、
ラッキーパンチだとしても、
笑われたのだとしても、

審査員が「笑った」ことに
変わりはありません。

だから、そんなことを言うのは、
「ずるいなぁ」と思いました(笑)

なんだかんだ言って、
止めずに最後まで見てくれたんです。

それは期待もあったからに
他なりません。

先が気になるからこそ、
ネタを中断させなかったのです。

まったくダメだったら、
本当に止められていたでしょう。

審査員の感想からもわかるように、
私はこのオーディションに
落ちましたが、

今でも私は、
このオーディションで
「負けた」とは思っていません。

*  *  *

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