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エッセイの研究(7)『しりとりえっせい』中島らも

6冊目に紹介するエッセイは
中島らもの『しりとりえっせい』です。

こちらのエッセイは、
note をはじめてから読んだ本なので、
過去にレビューも書いています。

このエッセイがおもしろいのは、
特にジャンルを定めていないところです。

「しりとり」
 ↓
「リトマス試験紙」
 ↓
「白雪姫」
 ↓
「メタモルフォーゼ」
といった具合に、

エッセイのテーマを
「しりとり」でつないでいるんですよね。

この著者は、
小説も書き、劇団もやっていて、
脚本も手掛けていました。

作品を手掛けるのにあたって、
調べ物のために、

広範な本を読んでおり、
それらの知識を披露するコラムが
特におもしろかったです。

私も note では
読んだ本の話を
書くことが多いですが、

こういう記事で、
気をつけなければならないのは、
「ただのコピー」に
しないようにすることです。

当たり前の話ですが、
その点、著者は知識がしっかりと
自分のものになっている感じがします。

本を引きながら書く感じではなく、
友達と会って話している時に

「そういえば、この前、
 こんな本を読んだんだけど」
という感じで、

自然にフッと湧いて出た
感じがあるんです。

単なる書き写しではなく、
本人の口から出たものだからこそ、
こんなにもおもしろいエッセイに
なるのだと思います。

今回読み直してみて、
特に印象に残ったのは、

「スロー・バラード」という
エッセイです。

この記事では、
サザン・オールスターズの
バラード集の話から、

創作にまつわる
おもしろい話が書かれていました。

記事によると、
このバラード集は、
サザンがレコード会社を移籍した際に、

もとのレコード会社が苦肉の策で
出したベスト盤だったらしいですが、

このベスト盤に対して、
桑田佳祐はラジオ番組で
怒りをあらわにしていたそうです。

その番組の中で、
詳しく語られたわけではなさそうですが、

日本でロックを
やっている人からすると、
よくできたバラードを書くことよりも

よくできたロックンロールを
書く方が難しいんですね。

ロックといえば、
本場は欧米ですから、
この難しさは
なんとなく想像できます。

ですから、本人の許可もなく、
桑田佳祐が手掛けた
渾身のロックを排除して、

バラードだけでベスト盤を
作ってしまうことに
憤りを感じたのでしょう。

この考察には
著者の類推もおおいに入っていますが、
コードの話など、
より具体的な説明に説得力があります。

そして、著者も作家として、
いろんな作品を手掛けるうえでの
「コント」の難しさを
語っています。

バラードやメロドラマは
日本人のウェットな感性に
相性がいいんですね。

ところが、
ロックやコントは
そうはいきません。

作るのにものすごく苦労しても、
社会的な評価も決して高くないと、
著者もこの記事の中で
訴えています。

このように、
どこかで見聞きした話を
自分の経験と照らし合わせて

うまく一つの記事に
してしまうところが、
著者のエッセイの
おもしろいところですね。


中島らものエッセイから得た
「エッセイのおもしろさ」は
「知識を自分のものにする」ことです。

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