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時には大胆な省略が「テンポ」と「おもしろさ」を生む

先日、映画『グリーンブック』を
紹介しました。

この映画の中で、
特に印象に残ったシーンを
紹介します。

レビューでも書いたように、
本作は'62年のアメリカを舞台にした、
ロードムービー(※)です。

(※ロードムービー:旅を描いた物語)

彼らは、黒人への差別が激しかった
アメリカ南部を車で巡っていました。

そんな中で、
旅の序盤で出てくるのが、
ケンタッキー州です。

アメリカの中東部に位置するケンタッキー州
Wikipedia より引用)

トニーは、
(白人の運転手兼用心棒)
「せっかくケンタッキーにきたのだから」

ということで、
「ケンタッキーフライドチキン」に
寄ることにします。

この時代に、
すでにケンタッキーがあったんだ、
と調べてみると、

ケンタッキーの創業は1930年、
フランチャイズ1号店の
(ユタ州ソルトレイクシティ)
オープンは'52年でした。

ちなみに本作の舞台である
'63年は、ケンタッキーの店舗数が、
アメリカ国内で600店舗を超え、
急成長を迎えた時代でもあります。

それでも、やはり、
創業の地であるケンタッキーで
フライドチキンを食べることには、
特別な意味があったんでしょうね。

映画の中では、
トニーが今でもおなじみの
あの赤と白のバーレルを抱えて、
嬉しそうに車に乗り込みました。

日本KFCホールディングス公式サイトより引用

トニーは運転しながら、
フライドチキンにむしゃぶりつきます。

後部座席にいるシャーリーにも
(黒人のピアニスト)
勧めますが、

シャーリーは、
これを食べたことはなく、
拒否するんですね。

彼いわく
「衛生的に良くない」
ということでした。

育ちのいいシャーリーは、
素手でフライドチキンを
食べることに抵抗がありました。

しかし、トニーは、
無理やりシャーリーの方に、
フライドチキンを放ります。

こうして、渋々、
シャーリーはチキンを
食べるのですが、

食べ終わって残った骨を
どうすればいいのか、
トニーに尋ねました。

すると、トニーは、
車の窓を開けて、
骨を外に放り投げます。

シャーリーは、
その様子に呆れつつも、
骨を捨てるゴミ箱もないので、

トニーのマネをして、
窓から放り投げました。

これは品のいいシャーリーからすれば、
とても考えられないことで、
興奮とともに、二人は笑い出します。

テンションの上がったトニーは、
次々に骨を窓から放り投げ、
しまいには、ソフトドリンクの
カップまで外に投げてしまいました。

すると、画面が後部座席の
シャーリーの表情を捉えるのです。

それまでトニーと一緒になって
笑っていたシャーリーの
表情は一転、凍り付き、

画面は、車を下部後方から
捉えた画面に切り替わりました。

車がゆっくりとバックし、
ドアが開いて、トニーの手が、
先ほど道路に捨てたカップを
拾い上げます。

このシーンがとても印象的で
笑ってしまいました。

シャーリーがトニーを
いさめるカットはないんです。

敢えて、省略されています。

しかし、前後の流れ、
シャーリーの表情のカットがあれば、

あの後、シャーリーが、
「なんてことをするんだ!拾いなさい」
と言ったことは容易に想像できます。

そこを省略することによって、
この車を後部から捉えたショットは
何倍にもおもしろいカットになっています。

トニーの表情は見えないものの、
そのゆっくりとした動きから

シャーリーに叱られて
しょげているのが
しっかり伝わってくるんですよね。

レビューでは
触れることができなかったのですが、
『グリーンブック』を撮った監督は、

コメディー作品を
得意とする監督でもあり、

本作でも笑いの要素が随所に
散りばめられていました。

「笑いの要素」といっても、
それはさりげない
スパイスのようなもので、

人によっては、その笑いに
気付けないかもしれません。

中でも、このフライドチキンの
二人のやり取りは、
大胆な省略を使った
印象的なシーンでしたね。

時には、このような省略が、
テンポを崩さずにおもしろさを
伝えてくれます。

観客の想像を掻き立てる
という点でも秀逸なシーンでした。

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