バイトで恥をかいた話
私がイベントスタッフのアルバイトとして働いていた某日、私のその日の仕事は一方通行の通路の整備とアナウンス、そしてお客様の写真を撮ってさしあげることだった。
通路に並んでいるお客様に「こちらの通路は一方通行です」とアナウンスしながら嘘みたいに広い空間の方にいるお客様の写真撮影に応えたりと、本当にここの所属は自分1人でいいのかと正気を疑うくらい大変忙しかった。
その時の私はこの忙しさが私を羞恥のドン底に突き落とす死神となってしまうことなんて知る由もなかった━━━━━
忙しいと言っても慣れれば単調な作業なので楽な仕事だなぁと気を抜いていた。これが良くなかった。
😃「すみません、写真お願いしてもいいですか?」
😷「いいですよー!では失礼しま〜す
はいっ チーズ! 」パシャッ
😃「ありがとうございます〜!」
😷「いえいえ〜!」(あ…通路のアナウンスしないとな…こちらの通路は一方通行です。と…」
😷「こちらのチーズ
待て、私は今なんて言った?こちらのチーズと言ったか?いや気のせいか
まさか私が急にチーズのたたき売りを始める訳が無い そうだ気のせいだ 気のせいに決まっている
今から言い直せばただ甘噛みしただけに留まれる よし言い直そう
😃「チーズになっちゃったよ!www」
終わった
もうダメだ
時は既に遅かったのだ。
覆水盆に返らず、綸言汗の如し、口より出せば世間
チーズという言葉は私の意に反して豪速球で口から出ていってしまった。もし私がプロチーズ野球選手だとしたら年俸5億はくだらないだろう。などといった生産性のない思考を巡らせながら私は並行して誤魔化す方法を考えていた。
だがまぁ結局スタッフのアナウンスなんてほとんどの人が聞いちゃいない。先程「チーズになっちゃったよ!www」とサンドウィッチマン伊達のようなツッコミをしてきたお客様が珍しいのだ。
そんな結論に至った私に降り注いできたのは思いがけないお客様からの一言だった
😃「お疲れ様です。」
何故かは知らないが私の視界はぼやけて、足元には直径15cmの水たまりが出来ていた。
悪い気はしなかった
妙に晴れやかな気分で、もう二度と失敗なんてしないだろうと思った
だから1度深く息を吐いてもう一度言い直した
😷「こちらのチーズ
馬鹿か私は。いや、馬鹿だ私は。
同じ言い間違いを2連続でやらかす人間が存在してもいいのだろうか。先程までただのスタッフを見る目だったお客様が今は私を珍妙な生物を見るような、面白がった視線を送ってくる。
だが私はもうそんなことはどうでもいい
「お疲れ様です。」この一言で確かに私は救われたのだ。だから胸を張っていこう
だから今だけはアナウンスから離れて写真撮影をしてほしいお客様を探そう
そう考え、振り返った私は何故かニコニコとした上司と目が合った。