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生物の世界

「科学、生物学って何が面白いの?」と聞かれたら、「世界観が変わりますよ!」と答えます。今まで20年弱生物学を勉強してきたが、世界観と生物観が変わるような経験は何度かありました。その例について。

相異と相似

大学生の時、今西錦司先生の「生物の世界」を読んでいるときに、面白い文章に出会いました。(正確な表現ではないのですが...)「世の中の多様な生物は一つのものから派生してきていて、互いに全く同じものもいないけれども(相異)、全く異なるものもいない(相似)」

多様な生き物の面白さに心を奪われていた僕には、「全く異なるものがいない」という言葉がとても新鮮に思われました。おそらく多くの人は生物を愛でるときに相異性(今でいうところの多様性)に着目するのではないだろうか?

でも、よく考えてみると互いに似ているというのは、生物の根本的な特徴であることは疑いようがない。世界には十万種を超える生物種がいるけれども、ウイルスを除く多くの種は細胞で構成され、DNAで遺伝情報を後世に伝えています。

そして同じような体の構造をもつ、ということは生物の世界の大前提でもあることに気づきました。例えば、ある種が別の種を食べるのは、体が似た元素でできているためです(炭素、窒素、リンなどなど)。もし、全く異なる元素でできている生物がいたとしたら(例えばシリカでできた生き物がいたら...)、その生物を食べようとはしないでしょう。栄養にならないので。元素の比率も大事で、自分の体と全く元素比率の異なる食べ物を食べると消化の効率が非常に悪くなり、体に悪影響がでることがあります(専門的には化学量論と言ったりします)。精製された糖分が体に悪いことは知られていますが、それはより広く生物の視点から理解できるかもしれません。

生物の世界は非常に混みいった相互関係のネットワークからなっています。植物が太陽エネルギーをデンプンに変える、動物が食べる、菌類が分解する、その多くは、実は「彼らが互いに似ている」ということに端を発している!なんと地球上に孤独な生き物はいない。

生物を見る目が大きく変わった瞬間でした。

生命の定義

「地球上の生物が互いに似ている」ということは生命の定義に関わるものです。宇宙に生物はいるのか?生命の定義は何か?おそらく誰もが一度は考えたことのあるテーマだと思います。この問題は考えるのは楽しいのですが、私の考えでは、深めることが難しい問題のように思います。

なぜなら、今の人類の知識で生命の定義を考えるのは、「ゴールデンレトリバーだけしか知らないのに犬の定義を考えようとしている」ようなものだからです。地球上の生物は元は一つのものから派生してきたとされているため、私たちは互いに似ている生物という、一つの例しかしらない。この状況で定義を考えても、おそらく他の惑星で生物と思えるものが見つかったら変更を余儀なくされるでしょう。定義は実は初めから自分たちの頭の中にあって、自分に近いと思うかどうか、が定義なのかもしれません。


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