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創業160年の日本酒蔵のウイスキーは熱い味がした。

地域ものがたるアンバサダーの富山県アンバサダーになり、はじめての富山訪問。第1回目・6月のタビは富山県礪波市の三郎丸蒸留所。

アル中一歩手前?の酒飲みを自認していながらも、お恥ずかしながら三郎丸蒸留所を知らなかった私。戦後復興期の1952年からウイスキーの製造を始めた、北陸唯一のウイスキー蒸留所だそう。
(ちなみに三郎丸蒸留所を擁する若鶴酒造がつくる純米酒『苗加屋・琳青』は以前個人旅行で訪れた庄川温泉の旅館でいただいてから大好きなお酒の一つ。)

めぐる樽

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最初に貯蔵庫をまず案内していただくと、大きな樽が整然と並べられており、どこかかぐわしい香りがした。バーボン樽、シェリー樽などの海外からやってきた樽の数々。それから、タビマエの顔合わせでも聞いていて、見るのを楽しみにしていた地元のミズナラで作った樽。砺波市の隣、南砺市のミズナラを使用して、木彫りの町・南砺市井波の職人が作った、まさにこの地のウイスキーのための樽。
「海外から安いものを持ってきて使い捨てるのではなく、今ここにあるものを使う」と、若鶴酒造5代目で、今回のタビの水先案内人である稲垣さんが言った。

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昔は薪材として使われていたが昨今は需要減となっていた地元の山のミズナラを使い、また植林し、育てる。地域資源の保護、山林の保全となるだけでなく、また酒造りに欠かせない水を守ることにもなる。
ミズナラは木材として使えるようになるまでに80~100年を要するらしい。それだけ長い時間をかけて大切に育てられてきたミズナラが、地元の技術で丁寧に樽になり、丁寧に仕込まれたウイスキーを熟成させる。静謐な長いときを多くの人の手を経て紡がれながらも底に何か熱いものが流れているような、そんなふうに、感じた。

レトロ感ある、小さな蒸留所。

続いて、いよいよ蒸留所に案内していただいた。大きな工場のような建物ではなく、レトロ感のある蒸留所だった。瓦屋根に白壁、格子の窓にくすみグリーンの扉が美しい。「三郎丸蒸留所」と毛筆で書かれた木の板が良い感じだ。入口では井波の木彫りでできた猫が消毒用アルコールスプレーの上に座ってお出迎えをしてくれた。

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ウイスキーキャットだ。
ウイスキーの原料は麦。つまりはネズミに食べられてしまうことがある。そこで、麦を狙うネズミを捕まえるために英国の蒸留所では猫を飼うのだそう。

室内の梁にも木彫りの猫が鎮座している。

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実はこの蒸留所で使っているポットスチルもまた地元富山の技術で作られたもの。高岡市の高岡銅器の技術を活用して作られた、世界初の鋳物製銅錫合金単式蒸留器。樽、ウイスキーキャット、さらにはポットスチルまで、そこかしこに富山の技術を生かして作られたものがある。
地域の技術の結晶がまた地域のものづくりに生かされていく姿に、「地場産業」という言葉の意味を想った。

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蒸留所をあとにするときに若鶴酒造の仕込み水を案内していただいた。この水はいつでも誰でも汲めるよう解放している。
私はあいにく入れ物がなく飲めなかったのだが、大変柔らかく甘い美味しい水だったらしく、残念な限り。今後、富山の活動では水質検査キットを持って各地の水を調べることにも取り組むので、水の硬度による土地の酒や食の違いなども考察できたらと思う。

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日本で最初のボトラーズ、夢の熟成庫。

続いて、蒸留所を離れて井波にある熟成庫を案内していただいた。こちらは、水先案内人である稲垣さんが、ウイスキーEC「モルトヤマ」を運営する下野孔明さんと共同創業したボトラーズ・T&T TOYAMAの熟成庫になる。「ボトラーズ」というのは、様々な「オフィシャル」(製造元)から原酒を買って独自にボトリングして販売する形態で、日本ではまだなかったのだそう。日本で今クラフトウイスキーが増えている中で、ボトラーズが原酒を買うことでオフィシャル(製造元)の経営体力などの面を支えることができ、またボトラーズが熟成させて一般に販売することで付加価値をつけて販売することができる。
なぜこの事業を興そうとしたかというと、日本で初めてのジャパニーズウイスキーのボトラーズとして、日本で増えつつあるクラフトウイスキーとともに日本のウイスキーをこの地から盛り上げていきたいという思いからだそう。初めての出荷は3年後。どんな味わいのウイスキーができているのだろう。

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少し高い場所にある熟成庫は、真っ白な壁が印象的で、この日の真っ青な空によく映えていた。なぜこの地なのかというと、木材があることと、樽を作れる職人がいること、また年間を通してちょうどよい湿度が保たれ、風通りが良いため。
中に入ると涼しく、木のすがすがしい香りがした。断熱材に地元の杉と檜を使用しているとのこと。ここでは三郎丸蒸留所で蒸留したものだけでなく、日本各地のクラフトウイスキーの原酒も一緒に並んでいる。天井が高く広々とした空間にさまざまな樽が積まれており、それぞれにベストなタイミングを待って熟成していく。鹿児島など、遠く九州からこの地で熟成するために運ばれてきてこの場所で樽が空けられるときを待つのかと思うとなんだかロマンを感じてしまう。
今回はまだ飲むことができなかったけれど、熟成庫内には試飲ができるバーがあり、とても立派な一枚板でできたテーブルがある。ここで樽を眺めながら飲めたら、それは贅沢なことだと思う。

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熱かった。

帰宅後、お土産に買った三郎丸蒸留所の「サンシャイン」をロックでいただいた。
ウイスキーに情熱をかけ、目を輝かせてご案内してくださった稲垣さん。本当にキラキラした目で、ウイスキーづくりに大切な樽や、一つ一つの工程についてとても丁寧に語ってくださった姿が印象的だった。
そして戦後復興の中、これからの酒の未来を目指して老舗日本酒蔵が研究開発したウイスキー。それから、蒸留所で暑い中作業をしていた方々。いろいろな熱い思いが詰まった一杯、一滴。ピート香が強めのスモーキーな風味とともに、熱いものが喉を通って行った。

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