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(21)インセンティブは高すぎる金額にしない(レーター期)

スタートアップ「レーター期」の2番目の記事です。
※レーター期:一般的には「事業が安定し継続成長が実現しIPOが視野に入る段階」を意味します。

今回の記事は、課題(21)「インセンティブは高すぎる金額にしない」です。

課題21インセンティブは高すぎない

①インセンティブ制度の導入

インセンティブは「社員の意欲・やる気を高めるための金銭・非金銭的報酬」を意味します。モチベーション向上のために多くの企業で導入されている仕組みではないでしょうか。

業績連動型報酬も広い意味ではインセンティブに含まれますが、営業組織作りをテーマとする本noteでは、営業業績に基づく報奨金の話として取り上げさせていただきます。

アルー株式会社は、2012年頃から営業部門のインセンティブ制度の設計に取り組みました。業績向上に向けたブースト施策になることを目的としておりましたし、現場の営業メンバーからの希望もありました。

インセンティブ制度導入以前は、営業部門だけに限らず、期間業績に対する評価で給与上昇幅が変わるという人事評価制度で社員の貢献を報酬に還元することを行っていました。

また、会社全体の業績に連動し決算賞与というボーナスの制度もありました。決算賞与に関しては、その年の目標達成水準次第で全員に出るか、出ないかというものでした。決算賞与を出すかどうかの基準は毎年見直していました。2013年以前は営業部門の目標設定は「売上」を指標としていましたので、営業部門売上が達成されれば出した年もあれば、全社利益水準を加味した年もありました。

上記の人事評価制度および決算賞与に加えて、2012年(ミドル期の最後の年)に、経営陣と営業部長で議論を行い、業績向上スピードアップのために営業部門へのインセンティブの導入を決定しました。

2012年初年度のインセンティブの設計は、概要としては、営業メンバー各人が「営業売上目標をオーバーアチーブした分の粗利金額の数%をインセンティブにする」というものだったかと記憶しています。

意図としては、営業目標を達成して終わりではなく、更に上を目指してほしいというものでした。会社にとっても、本人にとっても利益の方向性が一致します。

しかし、この設計は結果としてはあまり上手く行かず、翌年以降見直しをすることになりました。

②初年度インセンティブ上手く行かず

初年度のインセンティブにおいて、何が起きたのでしょうか?

一部の営業メンバーが大幅に目標をオーバーアチーブし、数十万円水準のインセンティブを得ることになりました

目標のオーバーアチーブという結果に繋がったことは意図通りです。
ここで問題だったのが、
(1)インセンティブがオーバーアチーブに直接寄与したわけではないこと
(2)得られたメンバーが「一部」だったこと
(3)当社の事業モデルとしては、金額が高過ぎたこと

の3点です。

上記(1)~(3)が必ずしも悪いというわけではありませんが、大手法人企業向けの企業向け研修サービス、カスタマイズ研修を提供するという当社の事業モデルとの相性は良くなかったという前提で以下の考えを書かせていただきます。


当社は大手企業を顧客としています。日本に上場企業はおよそ3000社。非上場企業のお客様もいらっしゃいますが、全国160万社の企業のうち、3000~4000社程度が当社の顧客層となります。

3000~4000社と限られた顧客しか存在しませんので、1社1社とのお取引は長期継続を目指すことが大切です。乱暴な振る舞いをして、顧客との取引が無くなったりすることは、極めて望ましくありません。

そのため当社では営業部において、顧客の担当リストを会社側でコントロールしてわりふっています。既存のお取引があるお客様には、個別に営業担当がついています。また未取引顧客についても営業メンバーの自由競争ではなく、営業メンバー各人、および全社マーケティング部門に担当が割り振りされています。
社内において顧客の「取り合い」が発生しないようになっています。

こうした状況においては、営業メンバーの成果となる売上は、割り振られた顧客のもっている予算規模、および既存取引金額規模に大きく影響を受けることになります。よい「釣り堀」を割り振られた営業メンバーの方が、成果を出しやすくなります。そこにはもちろん営業メンバーの努力は存在しますが、「釣り堀」割り振りの影響が相対的に大きすぎました。

また、企業研修サービスでは新規顧客開拓はとても重要ですが、新規顧客開拓において初回取引金額は小さくなりがちです。この重要な新規顧客開拓を頑張ることについて、マイナスの影響を与えるものでもありました。


結果的にインセンティブを獲得できた営業メンバーは、良い「釣り堀」を持っていた一部の方に限定されてしまいました。また、よい「釣り堀」であったがゆえに、オーバーアチーブ度合いも高く、想定よりもインセンティブ金額が、当社においては高い水準となってしまいました。

年収500万円の方に対して数十万円後半等。

この金額水準は高くはない、とお考えになる方もいるかと思います。
しかし、前述のように、本人の努力よりも環境要因が強い場合、金額が高ければ他の方からの不公平感は強くなります。不公平感を感じた方は、デモチベーションをされますので、そもそもの目的である業績向上のためのモチベーション向上に、全体でみるとマイナスとなってしまいます。

また、研修サービスは大規模案件(高価格案件)になるほど、企画開発要素が含まれるケースが多くなります。受注するためには、営業メンバー単独というよりも、ソリューションカスタマイズ部門や、新規商品開発部門の方とも協力して取り組みます。そのためインセンティブが、営業メンバーが貰えて他部門がもらえないと、他部門の方は不公平感を感じやすいでしょう。金額が高ければ猶更と言えます。


他業界において、トップ目標達成で「ハワイ旅行+報奨金100万円」等の高額インセンティブを支給する会社もあります。代表的な例としては、外資系の生命保険会社様などですね。当社とは大きく前提が異なります。
(1)個人顧客を対象としており、顧客数が限られていない
(2)顧客探索は、営業担当の努力の余地が大きい
(3)受注・目標達成のために他部門との連動要素は少なく、営業担当個人の努力の要素が大きい
こうした状況では、営業担当個人の努力に対して、大きく報酬で報いるということと相性がよいと考えております。


③インセンティブにはデメリットもある

本来インセンティブは、会社戦略・経営が望む方向に営業メンバーを誘導する「行動促進のきっかけ」となるべきものです。その成果を最大化するためには、会社の事業特性を踏まえた設計が重要となります。

インセンティブにはデメリットもあります。
使い方を間違えれば、組織に「劇薬」としてプラスよりもマイナスが大きくなる可能性があることを認識することが必要です。

①金額が高すぎると不正を誘発する
・例:1回の支給で数十万円
・基本報酬に対して、インセンティブの金額が高すぎると不正をしてでも獲得したくなる方が出てくる可能性があります。不正は、会社の信頼と成長を蝕みます。当社においては不正などはありませんでしたが、長く続けて行けば発生したかもしれません。

②貰える人と貰えない人の差が大きいと、モチベーションにマイナスとなる
・例:営業部門は貰えるが、開発部門が貰えない
・全員を同じ扱いをすることが必須とは考えませんが、差が大きすぎる場合、マイナスの影響の方が強くなります。
・一人のスーパーマンが会社全体を牽引する事業であれば、差を大きくすることは良いことだと考えていますが、当社のように組織的な事業活動を行う会社では向いておりません。

③営業がコントロールできる幅が少ない場合は役に立たない
・例:担当顧客が決まっている
・本人の努力より、顧客アサインメントの影響が強くなります。このケースにおいても、金額が高すぎると、営業メンバー間で顧客アサインメントの差に対する不公平感が強まり、マイナスの影響の方が強くなります。


重ねてになりますが、インセンティブは、会社の業績成長のために意欲を高めてもらうためのものです。一部の方のモチベーションが高まっても、他の方のモチベ―ションが下がり、全体としてマイナスになってしまっては本末転倒です。


④その後のインセンティブ制度

2013年になり、前年度の反省を踏まえ、インセンティブ制度の方針を以下のように変更していきました。

大方針として「戦略的に重要な活動」に対して小額のインセンティブを設定し、マイナスの影響を最小化するとなりました。

概要としては・・・
●戦略的に重要な活動(新規顧客開拓、戦略重点商材の販売等)をインセンティブ支給の対象とする
●グループ営業目標達成をインセンティブ支給の対象とすることで「グループメンバーと協力してみんなで達成する」方向にする
●ソリューション開発部門にも、仕事の成果を評価するインセンティブ制度を導入する
●その他部門にも「特別表彰」として、インセンティブ制度を導入する
●上記のインセンティブの支給金額は「1~3万円程度」と小額に留める。授与タイミングは4半期ごとに作る
●飛び抜けた成果を上げた場合は「社長賞」のような特別な報酬で報いる
となりました。

実際の運用としては、当社は2013年より四半期(クオーター)初営業日に、全社キックオフミーティングを開催し、前クオーターの振り返りと、新クオーターの戦略を確認する場を作っています。キックオフミーティングにおいて、インセンティブを支給する表彰の時間を取っています。

金額感については・・・「低すぎる」というお声を実際にお聞きすることもあります。
そうした声を受けて、インセンティブ設計は原則(全体のモチベーションを上げる「ちょっとしたきっかけ」であること)に反しないことを意識しながら、その後もこまめに見直しを続けております。


⑤年間売上10億円突破初記念の金一封

ちなみに今まで取り組んだ報償のうち、思い出深いかつ、社員みんなから受けが良かったのは、2013年1月初日に出した「年間売上10億円初突破記念」としての「金一封」でした。

当社代表の落合さんより、全社員一律で「1万円」を封筒に包んでお渡しさせていただきました。とても盛り上がりましたし、会社の成長を皆で祝うことができた瞬間でした。


本記事のまとめ

◆インセンティブは「社員の意欲・やる気を高めるための金銭・非金銭的報酬」
◆本来インセンティブは、会社戦略・経営が望む方向に営業メンバーを誘導する「行動促進のきっかけ」となるべきもの
◆インセンティブ施策の成果を最大化するためには、会社の事業特性を踏まえた設計が重要
◆インセンティブにはデメリットもある。使い方を間違えれば、組織に「劇薬」としてプラスよりもマイナスが大きくなる


次回の記事は・・・・

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