#七人の侍 を組織から5つの視点で観る
前回「#椿三十郎 から学ぶ組織論」を書いたところnote界隈の友人に楽しんでもらえて、ビジネスマンの視点で黒澤映画を観ると学びが多いなと感じました。もともとは、知の巨人と呼ばれる内田樹氏の『七人の侍』の組織論をリスペクトしていて、いつかこんなコラムが書きたいなと思っていたのですが「七人の侍」は既に多くのビジネス系コラムが書かれていたので自分が書くネタではないなと思っていたのです。それに七人の侍は娯楽映画だと思って観ると「何が面白いのか解かり難いところがある」ので書くのは難しいなと考えていました。
しかしスタートアップや、予算が無い中小企業、または株主の視点で「七人の侍」を観ると「こんなヤツいるな」とか「こんなやり方もあるな」と面白い発見があるのです。そしてそのようなコラムはネットを検索しても無いことにも気付きました。そこで黒澤映画の名作を組織論の視点で書く事は何かの役に立てるのかもしれないと思ったのです。大袈裟に言うとこれは「古典的な日本映画から学ぶビジネス実用書」なのかもしれません。6千字超。年末年始にでも楽しんで頂けたら嬉しいです。
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七人の侍とは(概要)
戦国時代。野武士の略奪に悩む百姓に雇われた7人の侍が、身分差によるギャップを乗り越えながら協力して野武士の襲撃から村を守る物語。世界で最も有名な日本映画のひとつ。1954年/15回ヴェネツィア国際映画祭・銀獅子賞受。2018年BBC「史上最高の外国語映画ベスト100」1位。※上映時間:3時間27分。前半と後半の間に5分間の休憩がある。東宝。1954年4月公開。予告編はこちら▼
※野武士とは・・・山野に隠れて追いはぎや強盗する武装集団。
人間関係図
「七人の侍」を組織から見た5つの視点
視点①:村の長老から学ぶ「無名企業・採用」の難しさ
「トップのディシジョン・メイク+実行するヒト」がカギ。
無名企業はヒトに来てもらえないと「デキない理由」を先に考えがち。最低限の条件が合致した人物を探すためには半分の目をを瞑ること。しかし人事部というコーポレート側の発想では「ミスが許されない」減点法で考えるのも無理はありません。見えない未来は誰もが不安だからです。だからトップがベクトルを示さざるを得ない。映画のなかでも農民たちは「悲観派」や「不安派」の声が入り混じります。「百姓が侍を雇う」のは戦国時代には無茶苦茶な発想だったから当たりまえでしょう。
しかし、心配しても仕方ありません「可能性」に賭けるしか生き残れません。「腹の減った侍探すだよ。腹が減りゃ熊だって山下りるだ」と村の長老が採用のディシジョン・メイクするのですが、積極的な農民「利吉」がいなければそれも機能しません。リーダーと実行する現場が両輪の輪となってはじめて機能するのでしょう。七人の侍は採用について教えてくれます。
視点②:勘兵衛から学ぶ「ないないづくし」の難しさ
「過去の成功体験を捨てる。最適な方法を生み出す」がカギ。
リーダー勘兵衛は元藩のお侍(企業の中間管理職)です。会社のブランドや待遇というインセンティブがあったのだと気がつきます。しかし状況は変わってそのリソースは無い。「腹いっぱいメシがたべれる」だけしかないのです。この「ないないづくし」状況はスタートアップに似ています。何もないときはどうするか。運と縁と勘に頼るしかありません。そこで勘兵衛は過去の常識や価値観を捨ててヴァイブスが合いそうな侍を探します。「あ!こいつなら」と思える侍を探すことに作戦変更するのです。自分の勘を信じれるか。この場合の勘とは「人生の総合的な知識や経験を通じて総合的な判断をすること」です。
運とはタイミング。縁とはヴァイブス(価値観や美意識)が合うこと。人相や立ち振る舞いを見て「ひらめき」に近い総合的な判断をする。「ないないづくし」のときは運・縁・勘という自分の内部リソースを最大限に活用するしか方法はありません。柔軟な思考で作戦変更が見事に当たります。リーダー・勘兵衛はサブリーダー役・五郎兵衛の路上ナンパとも言えるヘッドハントに成功します。七人の侍はスタートアップに必要な柔軟な思考を教えてくれます。
視点③:久蔵から学ぶ「参加するべきチーム」を選ぶ難しさ
給料やブランドより、リーダーの器量(本質的な魅力)から見極める。
久蔵は無口です。何も言わず行動(成果)で態度(考え)を示すタイプです。「戦争があって自分が求められているから参加した」という高度なプロフェッショナリズムを発揮します。彼は農民に同情した訳ではありません。プロとしてリーダーの勘兵衛が協力するに値したと判断したから参加したのだと思います。転職は「給料」や「地位」だけではないとわかっていてもトップの「人徳」や「器量」を測れるでしょうか。またそれには経験と総合的な勘が必要ですが、転職エージェント頼みでは判断できるとは思えません。だって人生を賭して戦うほど深刻ではないのですから。転職者にとって久蔵のプロフェッショナリズムから学べることは多いのではないでしょうか。七人の侍はプロ魂とはなにか教えてくれます。
久蔵―兵法の鬼―典型的で極端な侍
黒澤明「七人の侍」創作ノート
※久蔵は漫画『ルパン三世』の石川五右衛門のモデルでもある。
視点④:菊千代から学ぶ「価値観すりあわせ」の難しさ
村に来た七人の侍をビクビクして出迎えもしない様子を村の長老に「そんなことで我々に何をしてほしいと言うのだ」と勘兵衛は尋ねます。そのとき板木の音がけたたましく鳴る。慌てふためいて家から出てくる農民。それは菊千代が仕掛けた演出だったのです。農民出身・武士の菊千代は2つの世界を跨いて生きています。融合とは仲良くするコトで生まれるのではないのです。菊千代は常識を破る行動で恐怖や不安を引き起こします。それが結果的に「雨降って地が固まる」状態を生み出すのです。人間の深い所で連携するには正論だけでは通らないことがわかります。
そして菊千代は与平が槍を持っていることから、落ち武者狩りをした武具が村に隠されていることを見破ります。落ち武者狩りの事実にショックと怒りを感じ憤る侍たちに向かって、「農民をこうしたのは侍だ!」と泣きながら叫び農民出身であることを明らかにして侍たちの怒りを消します。菊千代は混乱を引き起こすことでブリッジ役を果たすのです。武士出身者にこのような動きはできません。これはキャリア・ノンキャリ制度が残る古い組織にも当てはまります。七人の侍は文化の違いを超えてリアルに機能するチームワークを教えてくれます。
視点⑤:黒澤監督から学ぶ「勝利できないチーム」の難しさ
圧倒する武力だけでなく、身分制度から見ても武士は支配階級です。しかし侍たちの食糧は農民が作っている。武士の戦闘力では米は出来ません。だから農民が武士の生活の根底を支えているのだと言う意味です。深いですね。
もっと深堀すると、もし戦国時代の七人の侍が、戦闘の専門家だけでなく「戦闘力+政治」の専門家だったらどうでしょう。戦国時代が終わると織田信長→豊臣秀吉→徳川家康の江戸時代へと武士のOSはアップデートされて専門領域が政治(統治能力)まで広がります。
あえて言えば、七人の侍は村の平和という局所最適を実行したにすぎません。武士の役割変革まで行ったわけではないのです。勘兵衛は戦略・戦術・戦闘の専門家ですが、社会の構造変革を行う全体最適までは行えませんでした。またその能力も無かったのだと思います。その証拠に勘兵衛いわくずっと負け戦ばかりしてきました。いいヒトはなかなか勝てない。常に勝つのは1位企業であるとも言えます。それは業界トップが改革をしていくからでしょう。黒澤監督は、日本人の最も苦手な構造改革(社会制度・政治システム)が如何に難しいかを教えてくれたのだと思います。
おわりに:「七人の侍」から学ぶ、業界1位と2位のちがい
七人の侍たちは色々な事を教えてくれます。しかし生き残った3人が去っていくシーンは映画としては最高なのですが、人生訓としては「やっぱり生きてくのは難しいな」という複雑な想いが残ります。カタルシスの残る素晴らしい演出なのですが、人生では解決できない部分です。
広告業界には「世界の電通。あなたの博報堂」という云いたとえがあります。業界全体を考えてマーケットを主導しているのは電通です。博報堂は1位の背中は見えますが、山の頂上からの景色は見えません。例えるなら勘兵衛は山の頂上から見る戦さをしてこなかった。だから常に負け戦だったのだと思うのです。
勘兵衛がココロ動かされるシーンは胸を打ちますが、その後の行動は部分最適の判断であって全体最適まで見据えていません。戦闘に勝っても野武士はいなくなりません。新しい野武士が出現するだけです。戦国時代とは個人のチカラではどうにもならない状態のこと。だからできる事からやりましょうってコトなら七人の侍の活躍は素晴らしいのですが、そのあとただ去ってしまっては農民の悩みは解決できません。野武士が腹が満たされる、改心する、能力開発・教育制度や雇用制度を普及させることまで考えなければ社会課題は解決できないのです。
もし「七人の侍・その後」という物語を描くと、業界1位と2位のちがいと似ていることがわかるかもしれません。私はながいこと業界1位とプレゼンで戦ってきました。何度も勝ちましたが何度も負けました。それが局所最適だったことを後に理解しました。業界1位の視点を持つことがどれほど大事かわかっているつもりです。
よく考えると、SNSの影響力(インフルエンサー)が与えている世界も同様の景色が見えてきます。しかし私は「世界の池松潤」になろうとは思いません。「あなたの池松潤」でいたいと思います。SNSが普及して誰もが繋がれる世界になったからこそ「この人に出会ってよかったな」が求められていると感じるからです。だからこそ常にOSをアップデートしてもうしばらく頑張ってみようと思います。
七人の侍は、苦しくても諦めるな、創意工夫と笑いを忘れるな、残酷なほど人間は自分中心で生きている、だからお互いさまの気持ちを忘れずに志しと愛情をもって生きよう。と教えてくれた気がするのです。
お忙しいところ最後まで読んで頂き感謝です。3年後にまたこれを読み直してみたいと思います。皆さんにとって来年が良き明るい年でありますように。
登場人物(チーム加入順)
島田 勘兵衛(志村 喬)
野武士に襲われる農村を守る侍たちのリーダー。7人必要な理由は「東西南北(各方面隊長)4人に後詰(バックアップ)2人と自分(作戦司令官)で計7人」とすぐ算定する頭脳明晰の戦時経験者。情けに熱く是々非々で判断できる優秀な軍隊リーダーである。
岡本 勝四郎(木村 功)
最年少で戦闘未経験の若侍。パリッとした身なりをしていて学問と道徳を学んだ育ちの良さ家柄を感じさせるイケメン。 勘兵衛の幼児救出劇を見て門弟にして欲しいと頼むものの断られる。それでも勘兵衛についていきチームに加わることに。戦闘だけでなく女性関係でも人生の経験も積むことになる。
片山 五郎兵衛(稲葉 義男)
柔和な表情で聡明な人物。勘兵衛とヴァイブスがあう。腕試しのためにしかけた、勝四郎による待ち伏せを見抜く。事情を聞き勘兵衛の人柄にひかれて仲間となる。リーダーである勘兵衛の相談役であり仲間となる侍を探すなど自主的に動けるサブリーダーの役割を果たす。
七郎次(加東 大介)
かつて勘兵衛の家臣として戦ったことがあり、勘兵衛の意図を阿吽の呼吸で理解するココロから慕っている部下。宿場町で物売りをしていたところを勘兵衛と奇跡の再会して詳細を聞く前から協力を約束する。上司部下であるが生死を共にして生き残った戦友でもある。リーダーにとって最も心強い部下である。
林田 平八(千秋実)
「撒き割り流を少々」ととぼけた自己紹介をする飄々として愛嬌のある侍。茶屋の代金を払えないため薪割りをしていたところを五郎兵衛によって誘われる。「実力は中の下だが正直な面白い男。その男と話してると気が開ける。苦しい時には重宝する」と評される。
久蔵(宮口 精二)
剣豪で右眉の上に刀傷。浪人との果たし合いに勝ち居合わせた勘兵衛に誘われる。勘兵衛いわく「自分をたたき上げることがすべての男」と評される。無口な剣豪で切り込み隊長役など獅子奮迅の活躍。勝四郎の恋の現場を見るのだが何も言わずに理解を示す。コトバより行動の気概が素晴らしいTheサムライである。
菊千代(三船 敏郎)
菊千代は本名ではなく盗んだ家系図に書かれていた名前。家系図の通りであれば13歳なので嘘がバレる。本名は不明。農民出身で戦争に巻き込まれ親を殺された。武士と農民カルチャーの違いを確信犯で動かす。7人の中のトリックスターでカギを握る存在。
「#椿三十郎 から学ぶ組織論」もどうぞ(^_-)-☆
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