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リモートワークのプロに聞く、リモートワークが拓く「キャリアを諦めない新時代」

新型コロナウイルスの影響で、新たな試みとしてリモートワークが導入された会社も多いのではないだろうか。

かくいうわたしも、普段は週3日から4日ほど IT 系のスタートアップ企業でソフトウェアエンジニアとして働いていたが、ここ1ヶ月ほどはリモートワークに切り替えて業務にあたっている。

ソフトウェアエンジニアはリモートで働きやすい業種だし、会社も「今日はリモートで対応します」と言えばリモートに切り替えられるくらいもともと寛容だったこともあって、業務上クリティカルな問題は発生していない。
(幸いなことに、業務上のコミュニケーションには Slack を使う 、すべての会議は Zoom 上で行う、タスク管理には GitHub の Issue を活用するなど、リモートワークの基本の基は導入済みだった。)

そんな環境下でも「誰が何をしているか把握しづらい」という声があがったり、同じようにリモートワークをしている友人・知人に話を聞いてみると、「家に仕事できる環境がない」だとか「思った以上に寂しい…!」だとか「運動不足で太りそう」だとか、リモートならではの問題に苦しむ人もいた。

わたし自身も、順調に仕事を進められているときはまったく問題ないのだが、予期せぬ問題に躓いているときに、サボってると疑われたらやだなあと心配になったり、ちょっとした相談をしたいときリモートであることが煩わしくなったりした。

リモートワークって実際のところどうなのよ。

そうした疑問を晴らすべく、700 名以上のメンバーがリモートで働いているキャスター社の COO であり、bosyu 社の代表取締役も務める石倉秀明さんにお話を伺った。

それにしても、 700 名以上のメンバーがリモートで業務にあたっている職場って、まったく想像できない……。

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石倉秀明さん
2005年、株式会社リクルート HR マーケティング入社。 2009年には株式会社リブセンスに転職し、求人サイト「ジョブセンス」の事業責任者に。 その後、株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)を経て、現在はかんたん募集サービス「bosyu」を運営する bosyu 社の代表取締役と「リモートワークを当たり前にする」をミッションに、オンラインアシスタントサービスなどを提供するキャスター社の取締役 COO を兼任。

いくら優秀でも、地方に引っ越したり時短勤務になってしまうと、給料が減ってしまう

Q. キャスター社と bosyu 社はそれぞれどういう会社なのでしょうか。
石倉さん: キャスターは、創業期からずっとリモートワークの会社です。「リモートワークを当たり前にする」をミッションに掲げ、『CASTER BIZ』というオンラインアシスタントサービスを提供しています。もちろん、700名超いるメンバーはほぼリモートワークで働いています。完全リモートなので、リアルで会うこともほぼありません。

キャスターから分社化してつくられた bosyu は、かんたん募集サービス『bosyu』を開発 / 運営する会社です。
普段真面目に働いていて「生活のために月にあと、もう1-2万円稼ぎたい」と思ったとき、誰しも「副業」が頭に浮かぶと思うのですが、いざはじめるにはハードルが高い。 bosyu のように気軽に仕事を募集できるプラットフォームがあれば、自分にとっては難しくないけど他の誰かには役に立つことを、サッと募集することができます。bosyu はエンジニアやデザイナー、プロダクトマネージャーなどのメンバーが10人ほど、リモートワークで働いています。

Q. 全員完全リモートワークですか?
石倉さん: キャスターは700名超のメンバーのうち、オフラインで働いているのは宮崎オフィスにいる数名のみです。数名のオフラインチームは、社用パソコンの在庫管理やどうしてもオフラインで対応しなくてはいけない書類作成などをしています。

なので、最低限のオフィスしかなくて。この企業規模に関わらず、マンションの一室に入居したり、コワーキングスペースに間借りしたりしています。
賃料が全部で数十万円ほどしかかかっていません。もちろん。メンバーの交通費もかかりません。

Q. なぜ、リモートワークに力をいれているんですか。
石倉さん: なぜリモートワークに着目しているかと言うと、例えば、家族が地方に転勤になって、本人も都心から地方へ移住した場合、その土地で新しい職を見つけることができなかったり、給料が下がってしまったりする場合も多いんです。経験もスキルも変わらないのに、給料が下がるのはおかしいですよね。
また、子どもがいると、子どもを保育園に迎えに行くために3時〜4時にはあがらなくちゃいけなくて、そうした事情から時短勤務で働かざるを得ない人もいます。そうした人もリモートワークであれば、出勤時間がないぶんフルタイムで働けます。

キャスターで働いている人は、現在9割が女性です。残念ながら、家族の転勤や子どもの世話などで、自分の意志とは関係なく、働き方を見直さざるをえない人は女性に多いんです。優秀な人が働きたいのに働ける環境がないのは、大きな問題です。

例えば、僕の友人にキャスターや bosyu の話をすると、「いい会社だね、うちの奥さんに勧めたい」って言う人が多いんです。いい会社だと思ってくれることは嬉しいんですけど、「いや、勧める前に、まずお前がやれよ!」って思います(笑)。
男性だと、働き方を見直す当事者になることがまだまだ少ないし、なることを想定している人も少ないんですよね。男性でも女性でもリモートが当たり前になってほしいと思います。

チャットをオフィスにするために必要なのは「雑談」

Q. 社内でよく使うツールはなんですか。
石倉さん: チャットツールには Slack、ビデオ会議ツールは Zoom、情報共有ツールは esa、タスク管理ツールは Trello を使っています。

ビデオ会議でブレストなんかを行うときは、オンラインホワイトボードの Miro を使っています。付箋をペタペタ貼りながら会議ができて便利ですね。

対面コミュニケーションはビデオ会議で代替されると思われている方もいるかもしれませんが、うちでは Slack がメインです。リモートワークにおいては、チャットはツールではなく、オフィスなんです。他社の方がオフィスでしているコミュニケーションはほぼ Slack で代替しています。

Q. リモートワークをしてみて、顔を合わせて仕事をするのに比べて、誰がいま何をしているか把握しづらかったり、ちょっとした相談がしづらかったりするなと感じました。そうしたところをどう解消していますか?
石倉さん: チャット上で雑談しやすい空気をあえて作っています。気軽な相談ができる関係は雑談の延長線上にあるので、雑談はとても大切です。
雑談を促進するために、Slack のチャンネルは業務上で使うものだけではなく、オススメの本やサウナを紹介するチャンネルや、パパ・ママのための情報交換チャンネル、ひとりごとを言うためのチャンネルまで用意しています。
また、週イチの定例で、普段会話しなさそうなメンバー同士で話す時間を15分間設けていたり、強制はしていませんが、オンライン飲み会やランチをしている人もいます。

Q. リモートワークを長く続けているからこそ見えてくる、リモートワークのデメリットはありますか?
石倉さん: リモートワークだと運動不足になりがちです。これ、実はすごく課題に感じています。ずっと家にいて、ベッドとリビングとキッチン行けば出勤、PC を閉じれば退勤。すべて家の中で完結してしまうので……。
キャスターでは、Zoom でオンラインフィットネスを提供するなど、改善するための取り組みはしています。

あとは、リモートワークに対する社会的な認知が追いついていないと感じることはあります。例えば、在宅勤務になると、保育園の点数が下がる場合があるらしいんです。
リモートワークでも普通にフルタイムで働いているので、こうした制度は不条理だと思います。

※ リモートワークが保活にどう響くかは、住んでいる自治体に左右される。「居宅内労働者(=在宅勤務)」と「居宅外労働者(=宅外勤務)」だったり、労働時間の長さで保育園の必要性を示す点数が変わってくる場合があるようだ。

チャットがオフィスなだけで、あとは普通の会社と何も変わらない

Q. リモートでどうやって人の管理をしているんですか?
石倉さん: 管理はリモートであること以外、普通の会社と同じです。他社でも使われている勤怠管理ツールを使っているし、出勤については、チャットがオフィスなので、「チャットにいる = 出勤している」とみなしています。

キャスターの創業期は、どれくらい働いているか見えにくいので、今日こなしたことを記入してもらっていたらしいのですが、記入する時間分、残業が増えてしまってあまりうまくいきませんでした。効率よく業務を回すには、最終的には「メンバーを信頼する」ことがとても大切です。

Q. そもそもリモートワークに向いていない人もいますか?
石倉さん: かまってほしい人、察してほしい人、自分のやり方にこだわりがある人、オープンに発信するのが苦手な人はあまり向いていません。あと、仕事をしている風で実はしていなかった人は完全にバレます。

Q. 評価はどう行っていますか?
石倉さん: 普通の会社と変わらないと思います。目標を設定してそれを達成しているかをみます。むしろ、成果で評価するので「頑張っていそう」を排除できる点はやりやすいと思います。

キャリアを諦めなくていい時代に

石倉さんの note では、リモートワークで必須のツールや心得がわかりやすくまとまっているので、さらに知りたい方はぜひ読んでみてほしい。

リモートワークの利点はたくさんある。わたし自身、出勤時間ぶん自由に使える時間が増えて、友人や家族と過ごす時間が増えたり、おうちごはんが増えたり、QOLがあがった感があった。ウイルスが落ち着いても、出勤頻度を週1くらいに下げたほうが、バリバリ働けるのかなと感じている。

また、共働きが当たり前になってきた昨今、柔軟な働き方を求める人も増えてきた。
いままではバリバリ仕事していたけど、家庭を優先するために、キャリアを諦めてしまうのは、まだまだ女性に多いのが現実。リモートワークが広がれば、そういった人たちがキャリアを諦めなくていい時代になるかもしれない。

女性だけではなく、いままで家庭にもっとコミットしたくてもしにくかった男性も、なんらかの事情があってフルタイムで働けない人や、他にやりたいことがあって時短勤務でゆるやかに働きたい人にとっても、リモートワークは良い役割を果たしてくれそうだ。

リモートワークに秘められたそうした可能性に、わたしも大きな期待を寄せている。

本記事は、日経MJでの連載『デジもじゃ通信』での取材インタビューを基に執筆しています。

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