自転車を持っていくということ

空港職員にとって、自転車はなじみ深いものだ。

自転車に乗って、空港に出勤する。
ということではない。

自転車を航空機で輸送することが、
頻繁にあるからだ。

空港職員にとって、自転車は鬼門だ。

自転車を預かるというのが、
難しいということではない。

自転車を輸送するときにも、
気にかけなければならないことがあるからだ。


「今日はトライアスロン大会が明日に迫っているため、
 特別アサインを準備しています」
始業時のブリーフィングにおいて、周知される。

「今日は特別アサインになってた…」
そんな会話がそこらかしこで話している。


《今日は無線が飛び交うことになるだろう…》
そんな予想と共に、準備を整え、カウンターに向かう。


予想通りだった。

トライアスロン大会のある、空港に向けた便が出発する時刻の3時間前
カウンターに向かってくる自転車を持ってくる集団が見えた。

『自転車をお持ちの方が見受けられますので、
 声掛けをして、早めに受託してください』
そんな無線が聞こえる。

そんな無線が聞こえる状況で、
カウンターにいらっしゃった方も自転車をお持ちだった。

「こんにちは 自転車をお預けですか?」
挨拶をしながら、ご用向きを伺う。

「はい そうです」
そういって、自転車を引いてきたのは、
リュックを背負った、スポーツウェアを着ている壮年くらいの男性だった。

「ご予約が確認できるものはお持ちですか?」
これを確認しないことには始まらない。

「はい QRコードでいいですか?」
スマホを取り出し、QRコードを表示してくれた。

「ありがとうございます こちらに翳していただけますか?」
QRコードを機械に読み込ませる。
すると、旅客情報が出てきた。

「ありがとうございます 確認できました
 では、自転車をお預かりします」
旅客情報が確認できたので、手荷物の受託に進むことが出来た。

「自転車以外にお預かりするものはございますか?」
荷物の総重量によって、無料で預かれるか、
超過料金をもらわなければならないか、違ってくるからだ。

「いや ないです」
スポーツウェアを着ている壮年の男性が背負っているリュックは
預ける必要のない大きさだったので、
預けないのであれば、重量を確認する必要はなさそうだ。

「では、こちらのパネルに該当するような危険物はありますか?」
国土交通省航空局と警察庁が作っているポスターを見せながら、
説明をする。

このポスターは全部持ち込めないということではない。
しかし、この内容をしっかりと理解しようとすると難しい。

「いえ、ありません」
ポスターに書いてある内容を確認しながら、
しっかりと見て答えてくださった。

「確認いただきまして、ありがとうございます」
最後に、自転車をお預けになられる方には、
確認する必要がある。

「では、最後の確認ではありますが、
 パンク修理材はお持ちですか?」
自転車を預けられる方には、お伺いをすることにしているものがある。

「あ、ありますよ」
そういって、自転車が入っているケースから、
小さなポーチを取り出し、瞬間パンク修理材を取り出してくれた。

持っている方が多いものでもないが、
今回はお持ちでらっしゃった。

「大変申し訳ないのですが、
 取扱説明書や安全データシートなどはお持ちですか?」
まずは製品の確認をしなければならない。

「いや 持ってないです」
躊躇なく答えられてしまった…

「大変恐れ入りますが、
 瞬間パンク修理材ですが、機内への持ち込みやお預けのどちらも
 ご案内いたしかねます」
そう説明をせざるを得ない。

「そうなんですか!!?」
驚いた顔をして、そういう男性

「こちらでも検索を行いますが、
 製造メーカーの情報が確認できれば良いのですが…」
公式の情報が確認できれば問題はないのだが、
通販サイトなどの表示では、確証がない。

不思議そうな顔をしながら、
カウンターの前にいる男性

さすがに調べてみるものの、ものの数分で確認を行うことはできない。

「申し訳ありませんが、少しお時間をいただきたいです
 後ろにありますベンチにかけてお待ちいただけますか?」
男性にそうお伝えし、検索に専念するしかない。
安全性の確証がないものを飛行機内へ持って入ることはできない。

男性は自転車と瞬間パンク修理材を置いて、
ベンチにかけて待っていただいている間に、調べてみても、
確認が取れない。

公式サイトにも記載がない。

通販サイトには説明書があるものの、
確認が取れる記載がない。

「お客様
 こちらの瞬間パンク修理材ですが、調べてみた結果、
 確認が取れませんでした」
やはり確認が取れなかった。
そうなれば、乗せるわけにはいけないので、
そう伝えるほかないのだ。

「そうなんですか なんでダメなんでしょうか?」
スマホから顔を上げて、そう質問をされる。

「申し訳ありません
 瞬間パンク修理材についてですが、
 安全が確認できるものがあれば、ご案内できるのですが、
 それが確認できない以上、案内できません」
瞬間であるかどうかにかかわらず、パンク修理材については、
案内できないのだ。

「じゃあ、どうしたらいいですか?」
男性はそういう。
それはそうだろう。

「この瞬間パンク修理材を破棄していただくか、
 これをご自宅か競技会場へ陸送をするほかないです。
 ただ、陸送できるかに関しては、運送会社に確認をいただくほかないです。」
こう案内するほかないのだ。

「そうですか、じゃあ捨てます」
男性は渋々といった感じに、そう言った。

「では、自転車をお預かりいたします」



今回は自転車に使う、パンク修理材に関するお話

自転車にとって、パンクは大ごとだろう。

しかし、パンク修理材に関しては、乗せられないものが多い。


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