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正岡子規『はて知らずの記』#16 八月二日 仙台

(正岡子規の『はて知らずの記』を紹介しています)

名所を二つ見物。


二日 宮澤渡の仮橋を渡りて、
愛宕山の仏閣に上る。
門側、天狗の像を安置す。
茶店に氷水を喫しながら、見下せば、
広瀬川は足下、数十丈の絶崖に沿ふて、
釣する人、泳ぐ人、豆の如く、
川のかなたは、即ち仙台市にして、
高楼画閣、掌中に載すべし。

政宗公の廟に謁づ。
老杉蓊鬱、
山路幽凄、
堂宇、屹然として、其間に聳ゆ。
僅かに、欄間の彫彩を、覗ふ。
門、堅く鎖して、入る能はざるなり。
常人、死して此栄を受く、
即ち、以て、瞑すべし。
公に在ては、即ち、此僻地に葬られて、
徒に、香火の冷ならざるを得るのみ。
豈に、其の素志ならんや。
旅宿に帰る。

土用干や 裸になりて 旅ころも


愛宕山の仏閣(→愛宕神社)

政宗公の廟(→瑞鳳殿)

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