正岡子規『はて知らずの記』#25 八月十一日 大須郷→本荘
(正岡子規の『はて知らずの記』を紹介しています)
夜まで歩き、宿が見つからない。十一日、塩越村を経。
象潟は昔の姿にあらず。
塩越の松は、いかがしたりけん、
いたづらに過ぎて、善くも究めず。
金浦、平沢を後にして、
徒歩に堪へねば、
しばし、路傍の社殿を借りて眠る。
覚めて、又、行くに、
今は苦しさに息をきらして、
木陰のみ恋はし。
丘陵の上、
野薔薇、多く生ひて、
赤き実を生ず。
道行く人、そを取りて食ふ。
偶々、花の咲くを見るに、
花弁、紅にして、燃ゆるが如し。
処々