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ラグビーW杯フランス大会 戦争はラグビーだけにして欲しい。

ラグビーワールドカップが面白い。
大人のボール遊びを見ることに、どうしてこれほど夢中になれるのか? 我ながら不思議であるが、それにしてもつくづく思うのは、自分は「戦争を見るようにラグビーを見ている」ということである。

そこで以前、下の本にも書いたことだが、ラグビーは〝模擬戦争〟である、ということを改めて主張してみたい。(だから国代表の試合はとりわけ盛り上がるのか? 試合前の国歌斉唱中に、出征する兵士ように代表選手たちは涙を流すのか?)

敵国の中枢を陥落させる

国家に領土があるように、ラグビーのグラウンドにも領土がある。
真ん中に引かれたハーフウェイラインは国境線である。
片側が自国の領土(=自陣と呼ばれる)、片側が敵国の領土(=敵陣と呼ばれる)である。

敵陣の奥にはインゴールと呼ばれる領域がある。そこが国家の中枢だ。王宮や司令部の所在地に例えればよいだろう。
ラグビーは、戦争と同じように、敵国の領土に侵攻して中枢を陥落させることが目的である。

ただしラグビーは球技である。ボールを使う。
ボールは何を意味するか?
これは攻撃権を意味する。
攻撃権を保持しながら中枢に侵入しないと、敵を落としたことにはならない。
①ボールを保持しながらインゴールに侵入するのがトライである。
②ボールは持たないが、相手ゴールポストに挟まれた狭い空間にボールを通すのがゴールキックである。
これらにより点が入る。

陸軍の地上戦

敵の中枢を落とすには、攻撃権を保持しながら、敵国領土の奥深くに侵入しなければならない。
そのためにどうすればよいか?

基本は、攻撃権を保持しながら前線を進めることである。つまりボールを持って前に走る。
これに対して敵国は、兵士を配備して防御線を張っている。守備につく兵士は、攻撃権(=ボール)を保持している敵兵を引き倒すことができる。これがタックルである。
だから、前線の兵士は、敵がつくる肉体の壁を突破する必要がある。
いわゆる肉弾戦だ。これは陸軍の地上戦に相当すると言えよう。
味方兵士の間で攻撃権(=ボール)を渡し合って(=パス)、敵兵との衝突を回避しながら防御線を突破することも、うまくやれば可能である。
またモールやスクラムは、戦車や装甲車による押し合いにも例えられよう。

攻撃権(=ボール)を保持する兵士の位置が、戦闘の「前線」だ。
前線だから、それより前に味方兵士はいないはずである。仮にいたとしても、〝いない〟とみなすのが戦闘における約束事だ。これがオフサイドの規則である。

空軍の出動

基本は地上戦だが、ラグビーにはキックという飛び道具がある。
キックを使えば、瞬時に戦地を移動することができる。
空爆するのとは違うが、この機動性の高さは、空軍の出動に例えられなくもない。

キックを使えば、戦地を前に移すことができる。
しかしこれは、攻撃権をいったん手離すことを意味する。なぜなら、キッカーの位置がすなわち前線であるが、前線の前方に味方の兵士はいないからである。代わりに敵兵がたくさん待ち構えている。だからキックを前に蹴れば、攻撃権が敵に渡ってしまう可能性が高い。それでも戦地を変えるメリットの方が大きいと判断するから、キックを使うのである。

以上のように、陸軍の戦闘に空軍の機動性を絡め、敵国に侵攻して中枢を落とすのがラグビーというゲームである。
一方の国が落とされたら、国境線に戻って新たな戦闘を開始する。決められた戦闘時間(=80分間)を消費するまで。

(後日追記:その到達距離から、キックを空軍に例えたのは行き過ぎか。航空機よりも、攻撃権を弾に込めた〝迫撃砲〟に例えるべきかもしれない。そうすればラグビーの戦闘は陸軍で完結する。)

敵国を陥落させる4つの方法

以上から言えることは、ラグビーで得点が生まれそうなのは、「片方のチームがボールを保持して敵陣に深く入り込めた時」である。
つまり、攻撃権を保持した状態で敵国領土に深く侵入できた時である。

そのような状況が生じるのは、次の4つの場合だろう。
①地上戦で前線を進める(=ラン・パスで防御線を突破する)
②空中戦で戦地を敵国領土内に移し、攻撃権を再獲得する(=キックで敵陣に入りボールを再獲得する)
③敵国領土内の前線で攻撃権を奪う(=敵陣でコンテストに勝ち、ターンオーバーする)
④敵兵が禁止行為をする(=相手チームの選手が反則し、敵陣マイボールで再開する)

④について補足しよう。
ラグビーは戦争に似ているが、禁止行為が定められている。禁止行為が発生した場合、第三国籍のレフリーという仲裁者がいて、戦闘の公平な再開方法を決定してくれる。例えば、危険なタックルがあればPKを与える、ノックオンがあれば相手ボールのスクラムで再開する等である。

以上4つのことに起因して、国が陥落する状況は生まれる。
したがって①~④に優れている方が、通常は戦争に勝つのである。
得点シーンばかりに注目するのではなく、①~④につきどちらが優れているか? という観点から、勝敗を予測しながらゲームを見ることをお勧めしたい。

◇◇◇

ラグビーのワールドカップは同盟の無い世界大戦である。
フランス大会は20か国が参加する第10次世界大戦にあたる。
準々決勝が終わった現在、私たちはあと4回、国家間の戦争を見て楽しむことができる。
パリとマルセイユの会場では、先週イスラエルで突如として始まった戦闘にまつわる犠牲者のために黙祷が捧げられた。ウクライナとロシアの間の軍事衝突も終わっていない。
戦争はラグビーだけにして欲しい。


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